80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.64

 

魔女  小泉今日子

作詞 松本隆

作曲 筒美京平

編曲 中村哲

発売 19857

 

 

 

時間をかけて味わえば味わうほど、詩曲の良さが染みてくる、松本隆&筒美京平&KYONの超強力タッグによる第2弾 

 

 82年組のアイドルの一人としてデビューした小泉今日子が、横並びの争いから、中森明菜の次に抜け出してきたのがデビュー翌年の1983年夏ぐらい、シングルでいうと5枚目の『まっ赤な女の子』あたりからでしょう。デビュー曲『私の16才』(19823)から『素敵なラブリー・ボーイ』(19827)『ひとり街角』(19829)『春風の誘惑』(19832)の4曲までは、どちらかというとやや古臭いアイドル歌謡的な匂いのする楽曲で、また小泉今日子自身も松田聖子の路線を狙っているかのような髪形やファッションで、今思うと、彼女の個性が抑えられていたような感じだったのですね。

 

実際に1982年度レコード大賞の新人賞を獲得した5組というのが、シブがき隊に加え、石川秀美、早見優、堀ちえみ、松本伊代といった面々で、この中に小泉今日子も中森明菜もいなかったというのは、今からみると、審査員たちはなんて節穴だったのだと思いたくもなるのです。中森明菜については、すでにこの年の後半ではブレイクを果たしていたのですが、賞レースの観点からするとちょっと遅かったというのがありますが、小泉今日子についてはオリコンでも『ひとり街角』の13位が最高ということで、決め手がなかったのは事実です。

 

そんな中で出した5枚『まっ赤な女の子』(19835)で大きく方向転換を図るべく、小泉今日子は髪をばっさりと短くし、楽曲的にも今までの曲調とはガラッと変え、攻めの姿勢を打ち出してきたのです。これを機会に小泉今日子=KYON2の個性が明確に表れ始め、独自の路線を進んでいく中で、セールスも伸ばしていったのでした。さらに9枚目(あんみつ姫名義を含む)のシングル『渚のはいから人魚』(19843)で初のオリコン1位を獲得すると、『迷宮のアンドローラ』(19846)『ヤマトナデシコ七変化』(19849)『スターダスト・メモリー』(198412)『常夏娘』(19854)と、企画物的な12インチを除くと、連続1位を獲得するほどにまで人気は上昇、当時2強の松田聖子、中森明菜に迫る存在にまでなりました。

 

この人気絶頂の状態で発売したシングルが『魔女』というわけです。12インチの『ハートブレイカー』(19856)を挟んでいますが、この曲もオリコン1位を獲得し、ノルマは果たしたというところでしょうか。けっして派手な曲ではないですし、これといったタイアップもおそらくついていなかったので、セールス的には前後の曲に比べると16.7万枚とおとなしめ。小泉今日子の代表曲は?と聴かれて真っ先に挙がってくるような『なんてったってアイドル』『木枯らしに抱かれて』『あなたに会えてよかった』『学園天国』どころか、『迷宮のアンドローラ』『渚のはいから人魚』『ヤマトナデシコ七変化』『スターダスト・メモリー』『優しい雨』など次ランク程度の楽曲からも漏れてくるような存在の曲なのかもしれません。私自身も、発売された当時はさして興味をもたなかったのですが、この曲、聴けば聴くほど味わいが出てくるのです。年月を経てどんどん好きになっていくような、実はよく聴くと名曲、そんな作品が『魔女』なのです。

 

それもそのはず、作詞が松本隆、作曲が筒美京平ですから、はずすわけがありません。特に松本隆の作る歌詞が抜群です。主人公の女の子が振られた彼氏を、変装して尾行するというような内容なのですが、《電車であなたの横に座っても》《あなたのよくいく店でまちぶせて 目の前でだれかとチーク踊るわ》なんて近くによってみても、《きつめのルージュ》や《黒いサングラス》で《正体不明》なほどの変装をしているから気づかれない。挙句の果てに《「何処かで逢ったね」肩をつつく指 気障なまなざしで ダンス誘う》と私だと気づかずにだれかれ構わず誘ってくるので《私は黙ってサングラス外し 「馬鹿ネ」ってつぶやき 哀しく見るわ》となるのですが、これらがまたはっきりと情景が浮かんでくるのですよね。でもこんな意地悪をしてみても、結局のところは《あなたのこと 傷つけてみたいの だけど 魔女になれないの》と、実はまだ未練が残っている女心が伝わってきたりもして、せつなくて可愛くて、よしよしとしたくなるような、そんな歌なのです。

 

 そしてその詩に会うような曲もまた素敵で、パッと聴いたところでは、インパクトがさほどあるわけではないのですが、詩と同様にじりじりと良さが伝わってくるメロディなのです。作詞松本隆、作曲筒美京平の組み合わせの小泉今日子のシングル曲は、『魔女』の他に『迷宮のアンドローラ』、『水のルージュ』と計3曲あるのですが、その中でも『魔女』は秀逸だと思います。まさに「隠れた名曲」なのです。

 

 さて、小泉今日子はこの次のシングル『なんてったってアイドル』(198511)1つの頂点に達します。その後もヒット曲を出し続け、自ら作詞を手掛けるようになった90年代、『あなたに会えてよかった』(19915)でついにミリオンセラーを達成したのです。その後は歌手から女優業へと軸足を移し、今ではカリスマ性さえ感じさせる存在になっています。ただ他の同世代の元アイドルが、時々テレビの特番などで昔のヒット曲を歌ったりしている中、彼女はまずそういう番組に登場しないのですよね。往年のヒット曲を歌ってほしいという願いは叶わないのでしょうかね。

 

最後に、小泉今日子のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 夜明けのMEW 

2 魔女 

3 木枯らしに抱かれて

4 半分少女 

5 ハートブレイカー 

6 あなたに会えてよかった 

7 素敵なラブリー・ボーイ 

8 まっ赤な女の子 

9 My Sweet Home

10  スターダスト・メモリー 

番外 夏のタイムマシーン 

=80年代発売