80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.61
悲しくて 雅夢
作詞 三浦和人
作曲 三浦和人
編曲 青木望
発売 1981年2月
大ヒットとなったフォークデュオのデビュー曲の世界にあまりに寄せすぎたため、陰に隠れてしまうも、じつはそこそこの成果を残した2ndシングル
当時のアーティストデビューのための登竜門ヤマハポピュラーソングコンテスト出身の雅夢は、そこでの優秀曲受賞曲『愛はかげろう』でデビュー。その『愛はかげろう』はオリコン最高3位、売上69.1万枚の大ヒットを記録しました。フォークデュオというスタイルの雅夢は、キャラクターは地味ですし、見かけも地味。とにかく楽曲の良さだけで勝負するという潔さといっていいのかどうかわかりませんで、『愛はかげろう』は楽曲の良さで広がりを見せたのは確かでしょう。
そしてその『愛はかげろう』に続いてリリースした2ndシングルが今回取り上げた『悲しくて』です。路線としては前作と同様で、というよりも、前作にかなり寄せたような楽曲となっています。『愛はかげろう』で興味を持ってくれた人たちに、まずは期待を裏切らないよう、意表をつくよりも手堅くいこうという意図は感じられますね。
作詞作曲はともに、デビュー曲に続いて、メンバーの三浦和人が担当していますが、まずはその出だしの歌詞がなんともいえません。『悲しくて』の始まりのフレーズは《薄く曇った硝子窓》ですが、『愛はかげろう』の出だし《窓ガラス 流れ落ちていく雨を》と、「窓ガラス」が「硝子窓」に前後逆転しただけなのです。敢えてなのか、たまたまなのか…。とにかく「硝子窓」ですから、当然部屋の中で歌っているのは分かるのですが、まあその部屋の感じが寂しいこと淋しいこと。《コトコト揺らす風の便り》《ひとり暮らしのこの部屋に 訪れた寒い季節》。一人暮らしの部屋に冬の寒さは身に染みるということなのですが、それもそのはず《ひと冬前は わたしの躰あたためるあなたが居た》のに《あなたは還らぬ人に》なのですから。恋人が死んでしまったという、強烈な悲しみを歌にしたのがこの『悲しくて』なのです。
寒い部屋で一人きり、かつての恋人との想い出の中で、もんもんと時間を過ごし、涙するというこの詩の世界は、『愛はかげろう』とまったく同じなのです。降り続く雨の冷たさがガラス窓越しに伝わる部屋で、別れたあの人の面影が浮かぶばかり…。違うのは、かつての恋人が生きているかどうか、雨が降っているかそうではないか、そのぐらい。ほぼ同じ世界を描いた曲を2ndシングルとしてぶつけてきたという、ある意味潔いというか、徹底しているというか…。
雅夢というと、どうしても『愛はかげろう』の一発屋というイメージがついてまわりますし、実際にオリコントップ10入りした曲も『愛はかげろう』だけなのですが、実は『悲しくて』は売上枚数的には健闘しているのです。最高順位こそ15位でしたが、16.2万枚の売上を残しているのです。二番煎じ的ではあったものの、やっぱり雅夢の創り出す楽曲は良かったし、支持を受けたのです。ただ、あまりにも、この2曲の暗く沈んだ雰囲気イコール雅夢のイメージとして、強くこびりついてしまったのは、もしかするとマイナスになってしまったのかもしれません。3rdシングル『浮雲』ではちょっと雰囲気を変えて、爽やかで明るい曲調の、これもまたふたりのハーモニーを生かした素敵な作品を出してきたのですが、彼らに求められるのは、もうその世界ではなかったのでしょう。新曲をリリースするごとに、売上も順位も落ちていき、かつての栄光は二度と来ることはありませんでした。
その後三浦和人はソロ歌手として地道に活動を続けています。