80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.54
Joy 石井明美
作詞 ちあき哲也
作曲 筒美京平
編曲 戸塚修
発売 1987年7月
年間売上ナンバー1に輝いたデビュー曲から1年、ダンスナンバーから離れて新たな一面を見せた隠れた佳曲
1986年8月『CHA-CHA-CHA』でデビューした石井明美、いきなりそのデビュー曲がTBS系のテレビドラマ『男女7人夏物語』の主題歌に起用され、さらには洋楽のカバーブームにものっかり、曲は大ヒット。売上58.1万枚と、レコードが売れない時代ではありましたが、1986年のオリコンシングル売上ナンバー1を獲得し、一躍シンデレラガールとなったのです。ただいきなりデビュー曲がヒットしてしまっただけに、2枚目以降のシングルについては、本人も周りも結構なプレッシャーがあったのではないでしょうか。無論アイドル歌手ではないので、キャラクターよりも楽曲勝負になる中、2枚目、3枚目のシングルは、デビュー曲の流れを引き継ぐようなダンスナンバーで無難に攻めてきました。2枚目『響きはtutu』はオリコン12位で売上5.7万枚、3枚目『ラマン』はオリコン25位で売上3.4万枚と、勢いである程度の売上は残しましたが、ヒットというには足りない結果で終わりました。
そんな状況での4枚目のシングル『Joy』は、前2作と同じ筒美京平の作曲した作品ではありながら、ダンスナンバーからは離れ、しっとりと聴かせるタイプの曲へとシフトチェンジしてきました。ダンスナンバーはもう飽きられたから、別の一面を見せていかないと、ボーカリストとして先は望めない、大ヒット曲から4枚目のシングルとなると、当然そういう方向になって来るでしょう。そうなると曲は安心してお願いできる筒美京平氏にといことで、さすが筒美京平氏、きちんとしたいい曲をかいてきました。さらにこの『Joy』はTBS系ドラマ「恋に恋して恋きぶん」の挿入歌となり、タイアップもついて準備万端。かくしてこの『Joy』はオリコン19位と、2曲ぶりにトップ20入り、さらに売上は7.6万枚と、2枚目、3枚目のシングルを上回る実績を残しました。このゆったりとした曲調が、意外と石井明美の伸びのある声に合っていて、それまでのテンポが速い曲調ではわかりにくかったボーカリスト石井明美の魅力が、しっかりと感じられる作品になっていたのではないでしょうか。
作詞はちあき哲也で、『ペガサスの朝』のときに触れたように、実績のある作詞家です。簡単に言ってしまえば、恋人との別れを歌った曲ではありますが、悲しいとか寂しい憎らしいとか、直接的な感情はぶつけずに、一見淡々とした表現の中に、思いを押し込めているような切なさを感じる歌になっています。《へたな嘘はやめて》《小心者 あなたが好き》《違う女ができたのね 誰か》と、別の女性が出来て別れたいはずなのに、なかなかそれを言い出せない恋人に対し、もういいわ、別れてあげるわと、別離を促しているのですね。しかも《みんな夢でいいのいいの 逢えただけでいいのいいの》と相手を恨むことなく、むしろ今までの日々に感謝している感じが、ちょっとしおらしいじゃありませんか。《悩まなくていいのいいの ふられ役でいいのいいの》と、もう私を振ってちょうだい、というわけです。ところが《軽い方よあきらめたあとは》と強がっている裏で《たまに飲めばいいのいいの 愚痴を聞けばいいのいいの いてあげるわ 昔の女で》《恋から恋 さまよいつかれた時には 思いだしていいのいいの 帰りついていいのいいの》と関係をどこかで繋いでおきたい気持ちが見え隠れするわけで、このあたりは聴いていたせつなさがピークに達するポイントです。
決して派手ではないのですが、じっくり聴くとなかなか味わいのある曲ということで、瞬間的な勢いは大きくはなかったものの、じわじわと売上を積み重ねていった、そんな曲になりました。いい曲だと思います。その後石井明美は、5枚目~7枚目のシングルが停滞。特に7枚目『オリーブの首飾り』はトップ100圏外からも漏れてしまうのですが、8枚目シングルで復活します。当時大ブームとなった洋楽のダンスナンバーのカバー『ランバダ』(1990年3月)はオリコン16位、売上14.4万枚と、デビュー曲以来の10万枚超えを果たしたのです。これも結局ダンスナンバーで、やはり石井明美と縁が深かったのは、こうしたダンスナンバーのカバー曲だったのですね。