80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.52
SUMMER GAME 氷室京介
作詞 氷室京介
作曲 氷室京介
編曲 氷室京介
発売 1989年7月
ソロとして新しいことに挑戦していこうとする覚悟を感じた、 ド直球のサマー・リゾート・ヒムロック
BOØWYが解散したのが1988年4月。その直後、1988年7月には『ANGEL』にてソロデビューを果たし、いきなりオリコン1位を獲得。まずは順調なスタートを切りました。BOØWYの絶頂期は、ちょうどドーナツ版からコンパクトディスクへの移行期で、特にシングルにおいては一番売上が低迷している時期。したがってBOØWYのシングルについては、セールス枚数的には大きな実績を残していなかったのですが、ようやくこの年あたりからCDシングルが浸透しはじめ、少しずつシングルの売上が増えつつあるような、そんな背景もあり、『ANGEL』はBOØWYのどのシングルよりも大きな売上枚数37.5万枚の実績を残しました。
『ANGEL』はサビが印象に残る奇を衒わない正統派のロックチューンで、これからソロではこんな曲を歌っていきますよと、あいさつ代わりの一曲という印象が強い作品でした。続く『DEAR ALGERNON』は敢えて売れ線から外したようなミディアムテンポの重め曲で、これも氷室京介の世界だと披露する意味合いがあったように見受けられます。セールスもやはり1位には届かず、オリコン2位、売上も13.2万枚と『ANGEL』の1/3ほどになっています。どうも氷室京介の場合、耳なじみの良い売れ線の曲の間に、意識的にメロディーが覚えにくい難しい曲を挟んでくるようなところが見受けられ、セールスの浮き沈みも比較的大きいところがありました。
この『SUMMER GAME』は3枚目のシングルとして発売されましたが、こちらは明らかに売れ線狙いの方に分類される曲です。まずタイトルが『SUMMER GAME』で、発売が7月ですから、完全にサマーソングとしての夏の需要を見込んだものとなっています。氷室京介が正々堂々と隠すこともぼやかすこともせずに、夏歌をシングルとして出してきた、それだけで何か変化を感じたものです。夏、太陽、ビーチ、誘惑…それまでのBOØWYの氷室京介にはおよそなかったイメージですが、そこに敢えて挑んできたということは、ソロの氷室京介はこういうこともやるんだぜという覚悟を見せたかったのではないかと、私は勝手に想像していました。少なくとも、BOØWYであったなら、こういった夏のリゾートソングといったものは、まず歌えなかったでしょう。
作詞も自身で担当していますが、まあ、夏歌でよく使われるようなワードやフレーズが満載です。《SUNRISE 罪な南風》《甘い旋律のランデブー》《灼けた素肌のラプソディー》《アバンチュールな誘惑》《海からの風が共犯者》《冷えたグラスにとかして 飲みほした夏》…。これを専業の作詞家がやってしまうと、ありきたりで中身も芸もない、なんとことになりかねないのですが、あのBOØWYにいた氷室京介が恥ずかしげもなく歌ってしまうところがかっこいいのです。ど直球のサマーリゾートソングをヒムロが歌う、それだけで「おっ!」と思いましたし、本人もそれをわかっていてのこの曲だったのでしょう。
曲についてもポップス、もっといえば歌謡曲に寄せてきていて、歌いやすいし覚えやすいし、それでいて歌詞にもあるような《刹那》を感じるメロディアスなものになっています。個人的には特にBメロがお気に入りです。それはともかく、それまでは、熱狂的なBOØWYファンやヒムロファンを考えると、氷室京介に対し堂々と「俺も好き」「私も好き」といいづらいような、そして近寄りづらいような印象もあったものですか、この曲をきっかけに、かなり大衆の方に近寄ってきてくれたな、そんな感じがしました。
結果として、この曲で再びオリコン1位を獲得し、売上枚数31.0万枚と復活、氷室京介によるサマーリゾートソングプロジェクト(?)は見事に成功したというわけです。その後90年代に入ると、さらに氷室京介はパワーを放つ存在になっていき、9枚目シングル『KISS ME』でついにミリオンセラーを達成します。それ以外にもナンバー1ソングを多数放ち、まさに日本のロック界のカリスマ的存在になっていくのですが、2016年をもってその活動を一切終了してしまいました。去り方もまたかっこよすぎる氷室京介、なのです。
最後に、氷室京介のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 JEALOUSYを眠らせて
2 Good Luck My Love
3 SLEEPLESS NIGHT 眠れない夜のために
4 STAY
5 NATIVE STRANGER
6 HEAT
7 SUMMER GAME ★
8 SQUALL
9 KISS ME
10 Urban Dance
★=80年代発売