80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.51
貴女次第 鶴久政治
作詞 川村真澄
作曲 鶴久政治
編曲 西平彰
発売 1989年2月
チェッカーズのメロディメーカーが獲得した、唯一のトップ10入りシングル
鶴久政治といえば、チェッカーズのサイドボーカルとして活躍していましたが、それとともにチェッカーズの楽曲も何曲か作曲を担当し、メロディメーカーとしての才能も評価されていました。チェッカーズの場合、自作曲をシングルに出すようになってからは、作詞はほぼすべてを藤井郁弥が担当していましたが、作曲は曲ごとに変わっていました。ただそんな中でも多くの曲を手掛けたのが、藤井尚之と鶴久政治でした。『WANDERER』『Jim&Janeの伝説』『Room』『Cherie』『Friends and Dream』『夜明けのブレス』『ミセスマーメイド』が鶴久政治の作曲したシングル曲です。
ただチェッカーズではサイドボーカルという脇役の身。フミヤのボーカールに合わせて歌を盛り上げるだけで、自分が主旋律を歌うことはありません。同じサイドボーカルでも高杢禎彦はその低音ボイスで見せ場があったりもするのですが、鶴久政治にはそれもありません。楽器をもたないため、こいつは楽器も弾けないのか、お情けでチェッカーズに入れてもらっているだけではないのか、そんな意地悪な見方もされかねないという思いがあったのかなかったのかは分かりませんが、自分が主役で歌を歌いたいという思いがあったのでしょう。チェッカーズとしての人気も安定していた時期に、ソロシングルを発売するに至ったわけです。ただソロデビューしたのは何も鶴久政治だけではなく、藤井尚之『NATURALLY』(1987年10月)、藤井フミヤ『Mother’s Touch』(1988年12月)、高杢禎彦『酒なんかいらねぇ』(1989年2月)と、この前後にメンバーが続々とソロシングルを発売していたのです。それなら俺も、というわけでこの『貴女次第』で、初めて鶴久政治は自分が主役のシングル曲を発売することができたのです。
こうして出来上がった『貴女次第』は藤井郁弥はまず歌わないであろうと思われる、陽気なアップテンポの曲に仕上がっています。チェッカーズで作る歌は、どうしても自分が歌う曲ではなく、フミヤに歌わせたい曲になるわけで、グループや藤井郁哉のイメージから外れてしまう曲は作れません。しかし自分で歌うのならば、そこの縛りはなくなるわけで、むしろチェッカーズの雰囲気とは離れた曲の方が、ソロシングルとして出した意味があるということ。こういった能天気でちょっと軽い感じの歌を楽しく歌いたかったのだろうと、そんな感じでこの曲を聴いていました。考えてみれば、チェッカーズって、ほとんど明るい曲がないのです。そういう意味で、もしかするとたまっていたものがあったかもしれないですね。
作詞は川村真澄が担当。《Let’s go Let’s go Let’s go Let’s go》と、まあ、とにかくノリノリで歌っています。チェッカーズではステージの隅で目立ちすぎないように踊っているのが、まるで別人のように生き生きとしていて、実に楽しそう。どうしても藤井兄弟と比べると華やかさに欠ける鶴久政治でしたが、たまにははじけたかったのでしょうね。そのはじけぶりもあってか、この『貴女次第』はオリコン4位と大健闘の結果を残しました。フミヤだけじゃない、俺だったいるんだ!と少しはアピールできたのではないでしょうか。
ただ残念ながら、その後もソロシングルは出し続けたのですが、トップ10入りはこの曲のみ。2ndシングル『暴れる女神』は惜しくも11位どまりとなると、その後は徐々に順位を落としていき、チェッカーズは解散。鶴久政治自身はその後も活動は地道に続けていますし、たまにテレビで見かけることもあるのですが、どうしてもチェッカーズ内の分裂騒動が影を落としていて、どこか心なしか不憫に感じてしまうところがあるのですよね。チェッカーズの主流派が藤井兄弟、非主流派が鶴久、高杢チームというか、そんな感じで。