80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.33

 

風の谷のナウシカ  安田成美

作詞 松本隆

作曲 細野晴臣

編曲 萩田光雄

発売 19841

 

 

 

相乗効果でデビュー曲がヒット、歌手としてのヒットが先になった後の大女優の歌うアニメ映画主題歌

 

 『風の谷のナウシカ』というと、まずは宮崎駿監督の初期の監督作を思い浮かべますが、それとセットになって必ず♬風の谷のナウシカ~というメロディーが頭の中に流れてくるかたも多いのではないでしょうか。アニメーション映画『風の谷のナウシカ』とその主題歌『風の谷のナウシカ』は、ほとんど一心同体といってもいいぐらいの関係にあるといってよいでしょう。まだ当時はスタジオジブリではなく、宮崎駿の名前も今のような巨匠的な存在になるずっと前のこと、主題歌の歌手として、ドラマやCMの出演は合ったものの、歌手としてはまったく未知数の安田成美に起用したというのは、どんな意図があったのでしょうか。

 

 この安田成美の『風の谷のナウシカ』はシングル・チャートでもオリコン週間10位と、トップ10に入り込んできました。映画『風の谷のナウシカ』は評判を呼び、それに合わせるように主題歌『風の谷のナウシカ』もヒット、主題歌のヒットによってそれを歌う安田成美の名前も認知され。安田成美の歌によってさらに映画の認知度も上がるという相乗効果で、宮崎駿にとっても、安田成美にとっても、大きなきっかけになる作品となったのでした。 

 

宮崎駿監督の映画はこれ以後多数製作され、それぞれに主題歌があるわけですが、実はその主題歌がオリコントップ10に入ったというのは、この『風の谷のナウシカ』を含めて3(『いつも何度でも』『崖の上にポニョ』)だけですので、主題歌になれば必ずヒットが約束されているというわけではありません。ましてや、まだ宮崎駿の名前の威力もさほどなかった時代、ヒットしたというのは、やはり楽曲自体にも魅力があったということではないでしょうか。

 

この『風の谷のナウシカ』は作詞・松本隆、作曲・細野晴臣、編曲・萩田光雄と稀代のヒットメーカーが作っているわけですから、冴えない曲を作ってくるわけがありません。歌手が新人でしたので、せめて楽曲はきちんとしたプロにまかせて、ちゃんとしたものを作ろうとしたのかどうかは分かりませんが、結果として映画にも、けっして上手だといえない安田成美の初々しい歌唱にも合うような主題歌に仕上げてきました。

 

映画に起用される主題歌は、映画の内容とはほとんど歌詞がリンクしない曲をもってくることがよくあるのですが、この曲はしっかりと映画の内容とリンクするものになっています。それでいて露骨になりすぎずに、読み方によっては別の捉え方もできるような絶妙のところをついてきていて、さすがに松本隆といったところですね。細野晴臣の曲は、おそらくさほど音域の広くない安田成美にきちんと合わせて作られている印象です。どちらかというと平坦なパートが多く、細野晴臣の他の曲もわりとそんなところがあったりするのですが、それでいてきちんとサビで印象付けてくるところは、プロの仕事です。

 

さて安田成美ですが、この歌のヒットもあってか、実はこのあともシングルをリリースしてきます。しかし残念ながらどれも売れませんでした。それも惨敗です。3rdシングル『透明なオレンジ』がオリコン89位で、それ以外はまったくの圏外。映画やドラマの企画として俳優に歌わせることはよくあるものの、続けてレコードを出したということは、アイドル歌手的な売り出しも狙っていたということなのでしょうか。当時はかわいい子がデビューすると、まずは必ず歌を出していたような時代なので、いずれ別の道に進むにしても、とりあえずレコード・デビューしておこうという程度かもしれません。ただやはり安田成美はアイドル歌手ではなかったということです。

 

その後は女優業に主体を置いた活動に移り、そして今や大女優のひとりにまでに昇りつめていくのです。ただそれだけに、たった一曲でも、世の中に知れ渡ったヒット曲を大女優さんが持っているということが、黒歴史でなく、若いころのキラキラした実績として、今でも輝いているような気がするわけです。