80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.29
シャイニン・オン 君が哀しい LOOK
作詞 千沢仁
作曲 千沢仁
編曲 LOOK
発売 1985年4月
各時代に出現したハイトーン・ボイス・シンガー、その80年代代表のハイトーン・ボイス・ボーカルが放った冬の名曲
1970年代、80年代、90年代と、それぞれに時代を象徴するハイトーン・ボイスのシンガーが登場し、大ヒット曲を放ちました。70年代代表が田中昌之擁するクリスタル・キング、90年代代表が小野正利、そして80年代代表が鈴木トオルをボーカルにもつLOOKということになるでしょう。21世紀にはいると、総じて声の高い歌い手が多く、ハイトーン・ボイスというだけで傑出して話題になるということはほとんどなくなってきたのです(Acid Black Cherryあたりはこの系譜だとは思いますが)が、まだまだ20世紀はそんな時代でした。
そのLOOKが放った最大のヒット曲がこの『シャイニン・オン 君が哀しい』です。これはLOOKにとってのデビュー曲でもあり、まさに彗星のごとく現れて、ヒットチャートを昇りつめていったという印象でした。オリコンの最高位は週間8位という結果ではありましたが、テレビの音楽番組にも毎週のように登場したりと、急速に認知を広げ、その年を代表するヒット曲のひとつになったのです。
この曲、発売は4月ということで、これから夏を迎えようという時期にリリースされていますが、歌詞で描かれている舞台は、《外は雪が舞い落ちて》いる冬。比喩的に使われている《凍てつくほどの君の微笑み》なども、冬を感じさせる言葉ですし、《静けさだけがつきささり》《時計が12時をまわり 静寂(しじま)に埋もれる》など、冬の夜の音ひとつ聞こえない静けさが強調された詩になっています。その静けさの中で、恋人と過ごした夏の砂浜での想い出を浮かべながら、一人になった寂しさに苦しんでいるといった、いってしまえば辛い苦しい失恋ソングなのです。しかしそのあたりの季節的なギャップをものともせず、真夏の7月、8月にするするとヒットチャートを上昇していったのですから、面白い物です。
その静寂感と鈴木トオルのハスキーがかった高い声が見事に曲の内容にマッチしていて、一人になった男の苦しい思いを表現しきっているということが、この曲のヒットの大前提としてあるのは間違いないでしょう。ただ新人バンドの曲を人々に知らしめさせたということでは、「サントネージュワインクーラー」CM曲に起用されたということが、大きく寄与していることも確かでしょう。で、この「サントネージュワインクーラー」のCMも、果たしてこの曲と合っているかどうかは結構微妙で、背景が灼熱の砂漠だったりするのです。もちろん使っている歌詞の部分には、《雪》だとか《凍てつく》だとかという部分は外していますので、それだけでは冬の歌とは判断できないのですが、曲調自体は、どうみても砂漠に合っているとは思えないのです。ただ、商品であるワインクーラーが最後に、たくさんの氷の上に置かれている状態で紹介され、いかにもひんやりと冷たくて夏にはおいしそうだなと感じさせる絵がでてくるので、辛うじて辻褄を合わせていたのかもしれません。いずれにせよ、なんとしてでもタイアップをとって、世の中に知らしめたいほどのいい曲だったと、そういうことなのでしょうね。想像ですけれど。
聞くところによると、この曲は当初、作詞・作曲を担当しているメンバーの千沢仁がボーカルを担当する予定だったらしいのですが、レコーディング時に急遽鈴木トオルに変わったらしいのです。もしボーカルが鈴木ではなかったら?それでも売れたのかもしれませんが、あのハイトーン・ボイスが世に披露されることもなかったわけで、そんなところにも、運命の導きを感じたりもするのです。
この『シャイニン・オン 君が哀しい』で一躍知名度を上げたLOOKでしたが、実際にはその後のヒットには恵まれず、1988年にLOOKとしての活動を終了します。したがって世間一般的な評価としては、いわゆる『一発屋』となってしまうのはやむを得ないのかもしれません。この20世紀のハイトーン・ボイスの系譜は、みんなヒット曲を続けて出すことに苦労しているようで、一発目のインパクトがあまりに強く、2曲目以降、そのインパクトを上回ることができないのかもしれません。実はLOOKはその後もなかなかいい曲を出しているのですよね。特に4枚目のシングル『追憶の少年』は、鈴木のハイトーン・ボイスが生きた素敵な曲だったのですが、残念ながらセールス的にはあまり振るわなかったのです。出現した時のインパクトを保つのが難しい、ハイトーン・ボイス・シンガーの宿命の中で、名曲『シャイニン・オン 君が哀しい』を残して消えていったバンドLOOK、再評価されるといいのですけれど。