80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.11

 

70年代  中村雅俊

作詞 売野雅勇

作曲 中崎英也

編曲 佐藤準

発売 19876

 

 

ヒット曲も多数、ヒットドラマも多数、歌う人気俳優が80年代に繰り出した、70年代の青春を懐かしむ一曲

 

 どの時代も、俳優が歌を歌ってヒットするということはあるのですが、複数の大ヒット曲を持つ俳優というと限られてきます。もちろん歌との関わり方もいろいろで、自分で作詞作曲もこなし、歌手業も俳優業もどちらにも同じように力を注いでいる、今でいえば福山雅治、昔で言えば加山雄三のようなタイプもいれば、ドラマやCMに合わせて企画的に歌を出してみたら売れちゃったという、今でいえば桐谷健太、昔で言えば西田敏行のような場合もあります。中村雅俊の場合は、俳優業を主体にしながらも、積極的に歌手業もこなし、セールス的にも大きな結果を出してきたということでは、数少ない存在かもしれません。

 

 1974『ふれあい』(ミリオンヒット!)1975『いつか街で会ったなら』『俺たちの旅』1981『心の色』1982『恋人も濡れる街角』と、コンスタントにヒットをとばしています。80年代の『心の色』『恋人も濡れる街角』も大好きな曲で、特に『心の色』は初めて買ったシングルレコード3枚のうちの1枚なので、思い入れも結構あります。それでも敢えて今回取り上げるのが『70年代』なのです。この曲はオリコン週間最高30位とあまり売れていません。売れていませんが、いい曲なんですよね。売れた『心の色』や『恋人も濡れる街角』は知っている人も多く、敢えて取り上げるまでもないだろうということで、『70年代』を選んでみました。

 

 19876月発売時点の中村雅俊の年齢は36歳。つまり70年代は19歳から29歳という時期で、まさに青春スターとして活躍していた時期に当たるわけです。この歌の主人公の歌う70年代と中村雅俊が過ごしてきた70年代を重ね合わせるかのように、70年代を懐かしんで若かりしあの頃を歌ったのがこの曲となっているのです。ギターが印象的なイントロで始まったあと、《ステージの照明(ライト)が消えてくアリーナで》と、大成功を果たし、夢を掴んだ今に状態がまず明らかになります。

《君からの手紙 読み返してるよ》《返事書けないまま その日になったね》と、恋人からの手紙にも返事を書けないほどの忙しい日々が想像できます。そして《都会へ向かう列車見送るホームで 手を振って泣いてた》で、手紙の送り主との関係が分かってきました。そのあとは、地元に恋人を残したことへの言い訳、小さなステージでいつも終わるまで待っていたことへの申し訳なさなどを《あの頃は愛が怖かった》と、このあたりは男のずるさなのか、女々しさなのか、そんな弱さも垣間見られたりします。そして最後に《振り向けば君が泣いてるよ 青春が通り過ぎてくホームで 70年代》と締めくくるわけです。このあたり、年齢的に青春スターを卒業する中村雅俊自身の青春時代の別れとも欠けているというのは考えすぎでしょうか。いずれにせよ、特に70年代に青春時代を過ごした人たちにとっては、ノスタルジーを誘う、情景の浮かびやすい詩になっています。

 

加えて曲もこれがなかなか良いのです。過去のヒット曲は、どちらかというとスローで、独特の粘っこい歌唱で丁寧に歌いあげる曲が多かったのですが、この曲は堂々としたロックです。もちろんあの粘っこい歌唱は健在なのですが、テンポも良く、歌うと気持ちがいい! 作曲は中崎英也。耳なじみのいい売れ線の曲を当時アイドルやシンガーに提供していて、私にとってお気に入りの作曲家のひとりでした。有名なところでは浅香唯Believe Again、鈴木雅之『もう涙はいらない』、小柳ゆき『あなたのキスを数えましょう』、中山美穂『遠い街のどこかで…』BabeI Don’t Know、原田知世『早春物語』、そのほかにも稲垣潤一、アン・ルイス、今井美樹、少女隊、島田奈美、西村知美、荻野目洋子ら、幅広いシンガー、アイドルのシングルを手掛ける作曲家だったのです。そんな中崎氏の曲ですから、この曲もやっぱりきちんとしたものに仕上げています。もっと売れると思ったのですが、中村雅俊のアーティストパワーがすでに下降期に入っていた時期なので、なかなか多くの人に届くことがなかったのが残念です。

 

その後も歌の大ヒットこそないものの、俳優として、歌手として、長く活動を続けている中村雅俊。70年代から80年代前半の芸能界・歌謡界を語る上で欠かせない存在には違いないでしょう。お蔵入りした映画も、どこかで日の目を見るといいなと願っています。