80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.9
元祖高木ブー伝説 筋肉少女帯
作詞 大槻ケンヂ
作曲 大槻ケンヂ
編曲 筋肉少女帯
発売 1989年12月
知名度先行で大衆受けしなかったバンドがチャート上位に食い込んだ、インパクト絶大の伝説曲
1980年代の最後の最後、ギリギリの発売でこの企画に滑り込むことができたのが筋肉少女帯です。メジャーデビューが1988年でその翌年の2枚目の正規シングルがこの曲です。もっとも1987年にインディーズで『高木ブー伝説』というシングルが発売されていて、そのリメイク的な作品になります。
筋肉少女帯というバンド、そのバンド名からも、或いはこの『元祖高木ブー伝説』というタイトルからも、はたまたいでたちからも、一般的には色物バンド、コミックバンド、きわものバンド的な扱いをされがちでした。もちろん、それはあくまでも一般人からすると、ということで、彼らの音楽を愛する人たちにとっては、強烈な存在感を持ったいわゆるトラウマパンクバンドということになるのでしょう。ですから、そんな一般受けが難しそうなバンドが放つ、この『高木ブー伝説』がオリコンシングルチャートの8位に入ってくるということは、あるいみ大偉業だったのです。
この曲を発売するにしても、ドリフターズの事務所と当初はもめたというのも有名な話らしく、結局高木ブー氏の寛容さに助けられて、発売することができた問題作。歌詞の内容は、愛し合った彼女との別れに際してなにも出来ない無力自分を、高木ブーに例えて嘆いているというもの。セリフとしてある《高木ブーを見ていた 何もできぬ彼を見ては 二人笑いあったものさ》を聞くと、ブー氏を馬鹿にしている、おちょくっていると抗議されても仕方ないものです。ただ《俺は高木ブーだ》《ブーブー高木ブー》などと連呼する歌は、確かにインパクトは十分です。この曲が実際に売れということをみると、それを理解して認めてくれた高木ブー氏はさすがというしかないでしょう。ただ売れたからと言って、筋肉少女帯の音楽性がどこまで理解されたかということとはまた別の問題で、やはり高木ブーを連呼する突拍子もない歌詞を聞いて、コミックソングと思って買った人も多かったのではないでしょうか。
さらにはもう一点、バンドのボーカル大槻ケンヂの存在なしでは語ることはできません。多才な大槻は、バンド活動以外にも幅広い活動をしていて、早い時期からメディアでの露出も多く、いわばバンドの広告塔的な役目をあちらこちらで果たしていたというのもあるでしょう。筋肉少女帯は聴いたことがなくても、大槻ケンヂは見たことがある、そんな人たちの中から、高木ブーのインパクトに惹かれて、シングルを買ってみたというケースもままあったのではないかと想像します。
いずれにせよ、この曲で筋肉少女帯の知名度が上がったことは間違いないでしょう。翌年に発売した3枚目『サボテンとバントライン』もオリコンの週間ランク7位に入る動きを見せます。また1992年の『バトル野郎 100万人の兄貴』が17位まで上がりました。ただし、シングルでチャートをにぎわせたのはここまで。私自身の好みだけからいうと、このバンドの音楽は好きではありませんでした。確かに歌詞をよく読むと面白いのですが、そこに行きつくまでの音楽面で惹きつけられる部分がなかったので、聴いている曲も限られます。バンドブームに乗ってヒットチャートに顔を出したものの、ブームが過ぎると、もともと大衆的な音楽ではないので、シングルで上位に入ってくるのはなかなか難しかったのかもしれません。
ただその後は紆余曲折があったり、メンバーも入れ替わったりしながらも、根強いファンに支えられてバンドは継続しており、2019年にもアルバムが発売されています。大槻ケンヂも幅広い方面で活躍を続けており、やはり只者ではなしバンドであったということが、今もって証明されている、そんな風に思うわけです。