80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.8

 

抱いてあげる  渡辺美奈代

作詞 滋田美佳世

作曲 鈴木慶一、渚十吾

編曲 鈴木慶一

発売 19888

 

 

大人のアイドルへの転換期を迎えた元おニャン子人気メンバーの、どこか懐かしさを覚える最後のトップテン曲

 

80年代の半ば頃に音楽チャートを席巻したおニャン子クラブの人気メンバーの一人、渡辺美奈代の9枚目のシングル曲です。特におニャン子の後半期は、W渡辺として、渡辺満里奈と人気を二分、メンバーとの中でもいかにも可愛らしいアイドル性の高い存在として、若い男の子たちをとりこに(?)しました。ですから、シングル曲も彼女のキャラクターを生かした作品が多く出され、ほかのメンバーでは歌えないけれど、渡辺美奈代ならぴったりとはまる、そんな曲が多かったですね。その典型的な曲が3枚目TOO ADULT4枚目PINKCHAOといったところです。

 

もちろんデビュー曲『瞳に約束』2枚目の『雪の帰り道』も彼女に合った可愛らしい曲ではありますが、アイドルとしてはわりと正統派の作品です。3枚目になってより渡辺美奈代のキャラクターを生かした方向に振ってきたのでしょう。ちなみに4枚目までは秋元康&後藤次利の御用達の作詞作曲でした。その後おニャン子クラブは解散され、完全にソロのアイドルとしての活動期に入ってきます。

 

オリコンチャートでは、5枚目『アマリリス』までは初登場1位を記録していましたが、次の『ガールズ・オン・ザ・ルーフ』2位、さらに7枚目『両手いっぱいのメモリー』は同じ週の競合が強かったこともあり10位まで落ちています。そんな中で転機となるのは8枚目の『ちょっとFallin’ Loveで、プロデュースに鈴木慶一が加わって、音楽的にも変化を見せていったのです。そしてそんな状況での9枚目が『抱いてあげる』なのです。以後12枚目Winterスプリング、Summerフォール』まで鈴木慶一との関係が続きます。

 

この『抱いてあげる』は、結果的に渡辺美奈代にとって最後のオリコントップ10入り作品となっています。前作『ちょっとFallin’ Love』までは、女の子女の子したぶりぶりアイドルの色合いが残っていたのですが、詩の世界も曲調もボーカルも、この作品から大人の女性へと転換を図ったような印象はまず持ちました。

 

起用した作詞家が、当時ほぼ実績のない滋田美佳世。この後も渡辺美奈代以外の作品がほとんどないので、思い切った起用といえるでしょう。とにかくひたすら《抱いてあげる》を繰り返す歌詞で、彼女のファンはこの曲を初めて聴いたときは、結構驚いたのではないでしょうか。あの美奈代が《抱いてあげる》の連呼ですから。曲中は計28回《抱いてあげる》と言っています。ただ詩の内容自体は心象的な内容で、“抱いてあげる描写を具体的体験としてリアルに描いているわけでもないので、ファン心理としてはそれで平静が保たれたというところもあったかもしれません。

 

そして何よりも、そんな詩に乗っかるメロディーと音が心地よいのです。《あなたの好きな MOON RIVERを》という歌詞にもピッタリはまる、どこか懐かしさを誘う音は、まさに鈴木慶一の創り出す世界で、前後を含めて彼のプロデュースした作品群の特徴でもあります。アダルト路線に転換を図る時期としては、セールス的には伸びなかったものの、渡辺美奈代にぴったりとはまったように思います。

 

さらに加えるとすると美奈代のボーカルの変化です。デビュー時に比べると歌声に伸びが出てきて、明らかに上手になっています。可愛らしさを優先させたひらべったい歌唱から、実は資質として隠されていた彼女の色気が、ボーカルに生かされるようになってきたのです。《抱いてあげる》の連呼にも耐えられる大人の歌唱が身についてきたということなのです。この個性は他のおニャン子メンバー、或いは同時代のアイドルにはなかなか出せない魅力だったように思います。このように、詩と曲と歌がうまくマッチして生まれた曲がこの『抱いてあげる』ではなかったでしょうか。

 

これ以後、チャート的には少しずつ低下し、次第にアイドル歌手としての賞味期限を迎えていくわけですが、渡辺美奈代はなかなか強かでして、その後も芸能界で活躍を続けていくわけです。私生活はいろいろあったようですが、最近は親ばかなお母さん的なキャラクターで、或いは元おニャン子の代表として、ちょくちょくメディアに顔を見せるのは嬉しい限りです。W渡辺のもう一方満里奈さんも頑張っていることも考えると、おニャン子のW渡辺はすごかったのだと、今になって理解するのでした。

 

最後に、渡辺美奈代のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 抱いてあげる 

2 恋愛(ロマンス)紅一点 

3 PINKCHAO 

4 ちょっとFallin’ Love 

5 TOO ADULT 

6 愛がなくちゃ、ネッ! 

7 雪の帰り道 

8 ガールズ・オン・ザ・ルーフ 

9 アマリリス 

10 瞳に約束 

=80年代発売