80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.7
卒業 A-JARI
作詞 伊藤信雄
作曲 伊藤信雄
編曲 A-JARI
発売 1987年3月
都会派失恋ロックでデビューした期待の若手バンドが、次に放った自身作詞作曲による等身大の卒業ソング
1986年に『SHADOW OF LOVE』でデビューした6人編成のバンドA-JARI(アジャリ)の2枚目のシングル『卒業』です。デビュー時18~20歳の若いメンバーということで、卒業によって片想いの女の子と別れていくせつない気持ちを歌った等身大の歌です。当時、毎年のように発売された卒業ソングですが、数ある卒業ソングの中でも、私が最も好きなのが実はA-JARIの『卒業』なのです。
デビュー曲『SHADOW OF LOVE』はテレビドラマ『セーラー服反逆同盟』の主題歌という強力なタイアップがつき恵まれたスタート。ただ、タイアップという事情もあり、戦略的にはがちがちに固められた匂いのする曲となっています。作詞が当時飛ぶ鳥を落とす勢いの秋元康、作曲もまたヒット曲を連発中の林哲司ということで、かなり強力な売り出し体制が敷かれていたことは確かでしょう。歌詞も都会を舞台にした失恋ソングということで、若干背伸びした印象。それなりにテレビの露出もあってオリコンでは15位までいきました。ロックバンドではありますが、チェッカーズ、SALLY、C-C-Bのように、アイドル的な要素も絡めた路線を、少なくとも売る側は狙っていたのでしょう。
そんな中で発売された『卒業』は、前作とはすべてが一転した曲となっています。作詞、作曲、編曲すべてがメンバーによるもので、内容もやや背伸びした都会的な大人の失恋ソングから、卒業する高校生の別れを歌った歌となっているのです。自分たちで曲も作れるというところをアピールしていくことで、さらにジャンプアップを狙ったと思われます。
そんな『卒業』は、同年代の私にはとても共感できる詩となっていて、メロディーもキャッチーで覚えやすく、デビュー曲にはピンとこなかった私でしたが、こちらは大いに気に入ったのです。《最後の最後まで君に伝えられなかった 胸がはりさけそうそ 今君が門を出てゆく》《いつもいつも 君の横顔見つめてた 僕の気持ちをわかって》おそらく同じ教室にいた好きな子に対し、好きな気持ちを打ち明けることもないまま、別れの時を迎えてしまった内気な”僕”の気持ちは、売れっ子作詞家が綴る高層ビルの街で震えながら夜明けを迎える”俺”の気持ちより、よっぽど伝わったのです。ほんと、いい曲なんですよ、これ。
ただこの曲にはタイアップがつかなかったのが、ややつらいところだったかもしれません。再び都会派ソングに戻った3曲目『I.NO.リザベーション』はキリンビールCM、4曲目『JUST FOR LOVE』はフジテレビ系ドラマ、5曲目『さよならの後で』(これはなかなかかっこいい曲でした)は映画挿入歌ということで、『卒業』だけが不憫なのです。彼らの他のシングルメイン曲ともイメージがちょっと違う曲で、求める側のイメージとは異なっていたのでしょうか(カップリング曲では5枚目の『ちょっとだけ背伸びの17』あたりは、『卒業』路線でキュートな感じの曲でしてが…)。セールス的にはさらに落ちてしまい、その後もヒット曲には恵まれず、1989年には解散してしまったのです。
実は大学時代の友人が高校時代にバンドを組んでいまして、その時の同じステージに立ったのがA-JARIということで、他のバンドよりもちょっと近しい気持ちに勝手になっているのです。その高校時代から人気は抜群だったということで、期待してレコード会社も売り込んだのでしょうが、思うほどには売れなかったというのが現実でした。ただ、メンバーの多くが、その後も何らかの形で音楽業界に関わっていたようで、そう思うと、才能があってもこの世界で大成功するということは、難しいことなんだと改めて思い知らされる思いです。