水に落ちたヴァイオレット  中村由真

作詞 吉元由美

作曲 林哲司

編曲 瀬尾一三

発売 198711

 

 

なんとかジャンプアップを図りたいスケバン刑事アイドルが、明るい曲調に変えて挑んだ直球アイドルソング

 

スケバン刑事Ⅲ(浅香唯版)の風間三姉妹の次女として出演した1987年に発売した4枚目のシングルがこの曲です。1980年代までは、とにかく女の子を売り出そうとするなら、必ず歌を出すというのが当然の戦略で、当然中村由真もそのルートに乗ったわけです。

 

デビュー曲は『ジレンマ』続いて『シビアー』『パニック』といずれも1987年に続けて発売。作詞・作曲・編曲が3曲とも同じで、石川あゆ子・小田裕一郎・瀬尾一三という組み合わせなので、いずれも似た雰囲気の曲調となっています。スケバン刑事のイメージもあるのでしょうか、マイナーなロック調でややハードな音で攻めていました。が、チャート的には伸び悩んでいまして、週間の最高が順に15位、17位、12位という順番。セールス的にはデビュー曲が最も売上が大きく、2枚目は半減、3枚目も多少戻しましたが、いまいち伸び悩みといったところでした。

 

そこで4作目になったところで路線変更を図るべく、作詞と作曲者も一緒に変えてきたのです。作詞の吉元由美は杏里との仕事が多いですが、中山美穂、河合奈保子、浅香唯といった一線で活躍していたアイドルにも多く提供している作詞家。一方の林哲司は、1980代になって売れっ子作曲家として大活躍中。出来上がった曲もそれまでとは一変し、明るく爽やかなメロディに、林哲司っぽいシティポップのサウンド感。聴き心地の良い作品に仕上がっています。私もそれまでの曲はあまり好きになれなかったのですが、この『水に落ちたヴァイオレット』には好感を持ちました。

 

詩の内容は3度目のデートでドキドキしている女の子の気持ちを歌っている可愛らしいもの。《帰らない 帰りたい》《大好きよ 大嫌い》あたりは典型的なアイドルソングの描写。ただこの曲の発売が11月。ヴァイオレット、すなわちスミレの花が咲くのは春。この季節感のずれは、しっくりこないところではあります。

 

いずれにせよ、キャッチーなメロディと女の子らしい歌詞の「耳なじみの良い曲」で勝負することで、売上の挽回を狙ったのでしょう、その意図は十分伝わります。しかしながら、チャート的には週間最高13位、セールスも2曲目と3曲目の中間あたりと、ランクアップとはいきませんでした。結局その後も20位前後をうろちょろする状態が続き、トップテンに入ってくるようなことはありませんでした。

 

このあたりは、正直なところ、アイドル歌手としての中村由真の資質の限界だったように思います。歌は特に上手というものではなく、かといって強烈に個性的な歌い方をするわけでもなく、やや硬く平べったい声質で無難に歌っている印象。ルックス的にもライバルたちと比べると地味めな印象。現代だったら別の売り出し方もあったのかもしれませんが、当時は若い女の子は、まず歌を売ってからという時代。後に男闘呼組の前田耕陽とアイドル同士で結婚するものの離婚。今は米国であちらの方と再婚して、ブログなどで幸せな生活ぶりをみせています。