80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.2
Heartbreak Café 山瀬まみ
作詞 松本隆
作曲 南佳孝
編曲 鈴木茂
発売 1986年9月
正統派アイドルで売り出したい事務所側が、正攻法に攻め続けた1年目の第3弾シングル
どうしてもバラエティタレントとしてのイメージが強く、アイドル歌手としての評価があまりされない山瀬まみですが、デビュー当初の売り出し方にはかなりの力が入っていました。おそらく松田聖子に近い路線を狙っていたのでしょう、デビュー曲から4曲目まではいずれも正統派のアイドル歌謡曲として、完成度の高い作品ばかりでした。デビュー曲『メロンのためいき』、2作目『セシリア・Bの片想い』、今回取り上げる3作目『Heratbreak Café』、4作目『Strange Pink』までの作詞はすべて松本隆。作曲も『メロンのためいき』が松任谷由実(呉田軽穂)、『Heratbreak Café』『Strange Pink』が南佳孝。編曲も松任谷正隆、船山基紀、鈴木茂ですから、それだけで力の入れようはわかります。
ところが5作目で突如『怪傑ぶんぶんガール』というコミカル路線に変更、作詞も変化球にも対応できる森雪之丞へと変わっていくのです。そして作曲が浅沼正人!といっても分からないかもしれませんが、前作取り上げた横浜銀蠅のJohnnyの本名なのです。このあたりで、売り出す側も彼女の適正に気づいたのかもしれません。以降、バラドルとしての道を歩み、今に至るというわけなのです。
さてこのように、事務所側もかなり力を入れて発売したシングルレコードですが、セールス的にはいまいちという状態が続きました。デビュー曲が21位、2作目が28位で以下じり貧。楽曲の質としては良かっただけに、埋もれてしまうのが残念な曲たちなのです。『メロンのためいき』も『セシリア・Bの片想い』『Strange Pink』も女の子の可愛らしい恋心を歌っていて、松本隆らしい情景の浮かんでくる作品です。松田聖子の一連の楽曲同様に、特に「色」の使い方にそれが現れ《蒼いメロン》《白いタオル》《赤いいちご》(以上『メロンのためいき』)、《れんげの花咲く丘》《青い瞳のトンボ》(以上『セシリア・Bの片想い』)、《桃・色 たそがれは罪な色》《Strange Ping 心は白 情熱は赤》(以上『Strange Pink』)という具合で、まさに女の子のアイドルといった感じ。個人的にもどの曲も好きなんですけれど、その中でちょっと悲しい失恋を歌ったのが『Heratbreak Cafe』なのです。
雨が降っている日、カフェで恋人を待っているのですが、彼はいつまで経ってもこないし、電話をしても出てくれない。振られたことを理解していながらも受け入れきれずに、もう「5分だけ」待ってみようという諦め切れない心を歌った曲。当然のようにこの曲も松本隆らしく《ブルーな都会》と色が表現されています。前後の作品に比べるとやや大人っぽく都会的な雰囲気のある作品で、イントロからせつなさを感じさせます。ただ路線としては前述のとおりあくまでも正統派の可愛いアイドル路線を踏襲しており、大きな変化ではありません。当時はおニャン子クラブ全盛期で、正統派の従来のアイドルから、隣に住んでいるような親近感のあるアイドルが主流となりつつある時期で、この路線はきつかったのかもしれません。加えて本人の本来のキャラクターを隠してのこの正統派路線ですから、無理があったのかもしれませんね。いい曲なんですけれど、プラスアルファがないと、あまりにまともすぎる路線ではインパクトがなかったのかなとも思います。
歌もアイドルとしては上手な方。ちょっと甘ったるくて鼻声ではありましたが、のびやかで声量もあって、音程もまずまず。♪雨が降って~るぅ って、しゃくるように甘えた感じも個性的で嫌いではなかったのですが、今になって映像を観るとやっぱり無理しているような感もありますね。
結局ぶりぶりのアイドル路線を早々に諦め、歌よりもバラエティ番組に主軸を変えていったのが成功し今に至るわけで、早めの決断が奏功したということでしょう。