デヴィッド・クローネンバーグ 監督映画 ベスト10
1 ヒストリー・オブ・バイオレンス
家族4人で平和に暮らしている男が、強盗を倒した英雄としてニュースに出てしまったことから、隠している過去が明らかになっていくのですが、一気には見せません。特に種明かしがあるわけではないのですが、最初は人違いかもしれないと思わせながら、徐々に少しずつ真実が明らかになっていく過程は緊張感たっぷり。それと同時にショックを受けた家族との平和な関係が崩れかけていくので、その張り詰めた空気がなんとも言えません。ただし、最後になって主人公の驚くべき超人的能力が明らかになると、サスペンスの結末はあっけなくついてしまい、そこにやや物足りなさは感じました。ただそのギャップがまたこの映画のポイントでもあるし、さらにはそれが結論ではなく、戻るべきところで彼を受け入れる家族が待っているかどうか、というところに、一番のテーマがあるわけなのです。
2 デッドゾーン
交通事故で5年間昏睡状態だった男が目覚めた時に、とんでもない予知能力を身に着けていたという設定のSFサスペンスホラー映画です。クローネンバーグ特有のグロテスクさはありながらもそれは適度で抑え、彼の作品の中ではわりと正統派の娯楽映画に仕上げていたという印象です。
3 イースタン・プロミス
緊張感あふれるバイオレンス・サスペンス。こうした役はヴィゴ・モーテンセンにうってつけ。表面上冷静に見えながらも、内面に強い意志を持ち、いざという時に鋭い牙をむく男。風呂場でのシーンにそれを感じました。静かな闘志という沈着冷静さがとにかく怖い男というイメージを押し出し、常に張りつめた空気を作り出していました。フルチンでの格闘は凄い!
4 戦慄の絆
クローネンバーグだけに一筋縄では終りません。双子の奇妙でいびつな連帯感の中で、二人が精神を壊していく様子が描かれています。前半では、双子特有の入れ替わり技を使って、女性との関係を混乱させていくのですが、それが悲劇の始まり。キャラクターの対照的な双子の兄弟が、離れたいと思いつつも離れることのできない宿命に翻弄され、互いに互いを傷つけ、最後は運命共同体ということで共倒れしていく様は、おどろおどろしささえ感じさせられます。クローネンバーグ特有のグロテスクなシーンもあるにはあるのですが、そこは最低限に抑えてはいます。でもやはりクローネンバーグの味を隠すことはできないようで、ここにも特有で個性的な作品がひとつ生まれたということになるでしょうか。とにかく奇天烈で理解しがたい世界観は健在でした。
5 イグジステンズ
最後に意外な事実が待っているグロテスクな風合いのバーチャル・リアリティ・ムービーです。多分自分には合わないだろうなと思いながら観ましたが、思った以上に面白かったので得した気分だったのを覚えています。ジェニファー・ジェイソン・リーとジュード・ロウという配役もちょっととがったこの作品にははまっていました。
6 マップ・トゥ・ザ・スターズ
強烈な風刺と言うよりもそれ以上の毒を込めてセレブ一家を描いた作品です。会話の至る所に実在の俳優や作品の固有名詞が次々と出て来るなど、ハリウッドの裏事情を盛り込んで興味深く見せる一方、家族揃って常識人とは言えない行動の末に、常軌を逸した行動へと入っていく性は、血の繋がりとして説明していいものでしょうか。クローネンバーグとしてもかなり特有な一本ということで、とにかく強烈な印象を残してくれました。
7 ザ・フライ
男が蝿に変わっていく様子はかなり気味が悪くおぞましい。ホラーとしてはそこそこの恐怖感は感じさせてくれる。妊娠したままエンディングというのは、この時点で次作は決定済?ただしストーリーのテンポがのろくいらいらした。
8 スキャナーズ
ひとくせもふたくせもあるホラー・サスペンスになっています。頭で思い描くことで、異常なパワーを発揮する「スキャナー」たちの戦いは不気味。
9 ザ・ブルード/怒りのメタファー
なんとも不気味で一癖も二癖もある映画です。怒りが生み出した不気味な子供達が、怒りの代行に次々と人を殺して行く。最初はどんな作品だか分からないのですが、徐々に独特の世界に入りこんで行く不思議な作品。
10 スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする
クローネンバーグらしいどろどろした薄気味悪さは健在ではありますが、非常に観念的な世界は独特で、この作品の中では必ずしもそれが成功したとはいい難い。粘質の演技ファインズははまってはいるのですが…