●2022年度鑑賞映画 ベスト10 | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

映画いろいろベスト10 + 似顔絵

まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

2022年鑑賞映画 ベスト10

 

恒例の年間ベスト10です。

 

1 恋は光

期待以上に面白くて、大学生の不器用で不思議な恋模様の展開を満喫してしまいました。主な登場人物は4人と少ないながら、その4人の組み合わせで展開していく恋の進行についつい目が離せなくなるのです。4人のキャラクターがそれぞれ立っているところが大きく、特に西野七瀬演じる北代を除いた3人の個性が強すぎるにもかかわらず、作り過ぎ感か邪魔にならず、素直に成り行きを見守ることができたそのバランスのとり方が良かったように思います。どこか浮世離れした平祐奈演じる東雲さん、恋する女性の光が見える神尾楓珠演じる西条、人の恋人を奪うことに喜びを感じる馬場ふみか演じる宿木、どれも変な人物なのですが、不思議に愛着を感じさせられるキャラクターでもあるのです。そして唯一普通の大学生という感じの西野七瀬演じる北代が、濃いキャラ3人衆を和らげていたのではないでしょうか。それぞれのキャラクターがいずれも魅力的に演じられていました。結末は原作とは違うということらしいのですが、個人的にはそれまでの流れを汲むとこの結末で良かったような気はしましたね。 ヨコハマ映画祭で1位となったのも納得。迷わずの1位です。

 

2 流浪の月

近年の李相日監督らしく、重くそして緊張感のある見ごたえあるドラマになっていました。観ている者からすると、ラスト直前までは、ロリコン誘拐犯とのレッテルを貼られ、処罰まで受けることになってしまった松坂桃李演じる青年は、小児愛の性癖はあっても、自制心と理性でそれを抑え込んでいる意志の強い男性。そしてその彼にどうしようもなく魅かれている広瀬すず演じる、複雑な環境で育った女性。その気持ちは恋愛なのか、信頼なのか、おそらく信頼が年月を経て、恋愛に近い気持ちに変化していたのでしょう。一方で彼女と同棲する横浜流星演じる恋人が、冷静で優しいエリートから次第に心を乱され執着心の強いDV男という裏の側面が現れていくと、多部未華子演じる青年の恋人も含めた4人の関係性の緊張感が最高潮に高まっていきます。小児愛だとしても、実際にそれを行動に表しているわけではないので、そこまで非難される筋合いはないのではないかと、観ている側も思ってしまうのですが、そのからくりは、最後の最後で明らかになります。その事実を知ると、彼がどんな思いで人生を過ごしてきたのか、とてもせつなくそしてやるせない気持ちでいっぱいになるのです。そんな特殊な状況にある人々を、それぞれが好演。この作品特有の緊張感を出すのに、キャストの演技も大きく貢献していたのではないでしょうか。2時間30分ほどの長めの上映時間ではありましたが、ひと時も緩むことなく、最初から最後まで釘付けにさせるような惹きつけられる作品になっていました。

 

3 アキラとあきら

最初から最後までだれることなく一気に観ることができました。池井戸潤の原作がしっかりとしているということが大前提にあるということは間違いありませんが、映画としても力作になっていたと思います。対照的な出自の二人のアキラが、紆余曲折を経て、協力し合った大企業グループを救うという話。大企業だから…ということはなく、意識させているのはその背景にある社員やその家族などの生活。登場人物たちのキャラもきちんと立っていて、配役されたキャストにもかなり工夫がされていたと思います。敵対する役、壁となる役、助けてくれる役と、それぞれがわりと分かりやすい演技で、立場を明らかにしてくれています。難しい会社経営の世界の話も、できるだけわかりやすく説明してくれていて、娯楽映画としても十分に楽しめるものになっていました。面白かったです。キャストにアキラ100%を配したのはしゃれなのでしょうか?怒られて可哀そうな役でしたが…

 

4 ある男

自分の出自を変えて新しく別人として生き直したいという願いを持っている人々が存在する哀しさにあふれた作品です。親が死刑囚、老舗旅館の次男、在日三世、それぞれ自分に責任がない出自で悩み苦労する人たちにとってしか分からない思いというのも当然あるのでしょう。そんなことを根底に置きながら、死んだ夫の本当の出自を追っていくミステリー映画として見応えのあるものになっていました。追ううちに単純な戸籍交換だけではない複雑な構図が明らかになっていき、ワクワク感は味わうことができました。もし夫が事故死しなかったらどうなったのか、再会した本物の旅館の次男坊と恋人の行方はなど、気になることもたくさんありますが、なんといっても意味深なラストシーン。この解釈も別れそうなところで、映画としてひとつ手を加えたなという感はありましたね。あと贅沢なキャストも見どころといっていいでしょう。

 

5 コーダ あいのうた

聴覚障碍者ばかりの家族で唯一健常者であった娘が、歌の才能に満ち溢れていたという皮肉な設定。その歌声を家族が聴くことをできないため、娘の才能を知ることもなく、手話通訳者としての負担をかけ続けてしまう状況が、物語を複雑にそしてドラマティックにしているわけですね。ですから主人公の娘にとっては、確かに家族のために自分のことを後回しにせざるを得ない煩わしさはあるでしょうが、それでも救われるのは、この家族の仲が良いこと。不自由ながら一生懸命働いていますし、父親と母親の中も恥ずかしいくらいに良好。いろいろあっても最後は娘の背中を押してくれる家族たちの存在が、この作品全体を優しさでくるまれたようなものにしてくれているようで、観終わった後味も実に良いもの。エミリー・ジョーンズも魅力的で、作品に花を添えましたし、久々に観たマーリー・マトリンにも感激しました。

 

6 ベルファスト

三代に渡り一家が生きてきた町で宗教対立による抗争が激化。この街で暮らし続けるのか、遠くへ居を移すのか。まだ幼い少年を中心に、一家四人、近くに暮らすおじいさんおばあさん、同級生、近隣の人々、そんなベルファストに住む人々の住む町への思いや家族、人々の絆を温かく描いた作品です。まず主人公の男の子が可愛いですし、演技もとてもうまいです。お父さんのこともお母さんのことも、おじいさん、おばあさんも大好き。クラスには好きな女の子がいて、その子の隣に座るために、勉強も頑張る。一方で年上の女の子に強いられて万引きをしたり、暴動の最中のスーパーで洗剤を持ってきたりと、言われたら断れない気の弱さがまた愛おしく感じてしまいます。そしてそんな彼を見つめる母親がまた素敵で、いろいろ問題があっても子供たちを大事に思い、一方で道を外れたことをするときは、しっかりと叱りつけるのです。出稼ぎでなかなか家にいない父親も、妻とは口論になることはあっても、子供を二人きちんと育てたことにたいし、きちんと言葉で妻に感謝を伝えるところなんかは最高です。古くからの知り合いに、宗教闘争に参加するように脅されても、そこはけっして揺るがない、正しいことは何かをしっかりともっている態度も、借金はあっても、父親として尊敬できるところです。そしておじいさんとおばあさんがとにかく仲が良くて、こんな人たちに囲まれてすくすくと育っている感が、とにかく微笑ましかったです。近所の誰もが互いに知っているベルファストの状況が、古き良き時代の地方感が日本にも通ずるところがあって、郷愁をなぜか感じてしまいました。最後は拳銃を突きつけられたりと怖い思いもして、一家はロンドン行きを決断します。タイトルのベルファストというものに対する思いが強く感じられ、温かくて優しい前向きな作品でした。

 

7 雨とあなたの物語

時間軸、場所が複雑に入れ替わりながら、登場人物の過去現在未来がどうつながっていくかが少しずつ明らかになっていく構成がまず巧みでした。その上で主人公の傘職人をめぐる3人の女性との関係性の中で、それぞれがせいいっぱい来ている感じが伝わってきて、温かい気持ちになります。主人公の近くにいて、好きな気持ちがバレバレなのに、ストレートにその気持ちをぶつけられずに、体の関係だけを求めたりと、不器用な予備校生。病気の姉の代わりに手紙を書き続け、会いたいという姉の言葉から主人公の家を訪ねるものの、偶然からすれ違ってしまう古本屋を手伝う女性。そして言葉も発せられず病床で動くこともできないまま、覚えてもいなかった小学校時代の同級生との手紙のやりとりを支えに日々を過ごす主人公憧れの女性。個人的には予備校で出会った好きな気持ちがダダ洩れの女性といい関係になってくれたらなという気持ちにはなりました。ただ古本屋の子も可愛らしくて捨てがたいですし…。そしてラストがここで終わるかというようなところで敢えて切ってしまうのですよね。思わせぶりな最後ではありましたが、果たしてこの後…と観ている者にいろいろと想像させるところがまた心憎かったです。とにかくせつなくてでも暖かくて、そんな素敵な恋愛映画になっていて、私は気に入りました。

 

8 白い牛のバラッド

死刑で夫を失った女性でしたが、それが冤罪と判明したことから、緊迫感あるドラマが進んでいきます。耳の聞こえない娘を育てている中で現れた、亡き夫の友人という男。大金を返金した上に、住むところまでも融通してもらい、息子を亡くした男を逆に看病したりと、親密になっていく中で、親権裁判にまで影で助けてもらうのですが、実は男が夫を死刑宣告した判事だと知って言葉を失います。男が主人公の前に現れてからしばらくの間、観客にもその素性は明かされず、終盤に差し掛かって初めて、職場での事情聴取のようなところで、真実が明かされます。そんな点では、作品自体はかなりサスペンス映画の手法に近い形で展開され、観ている方も常に緊張感に包まれるようでもあります。それはイランという国柄もあるでしょう。未亡人とはいえ、婚姻関係にない男女が同じ部屋の中で一時的であっても、生活をともにするということは、他人の目を気にするだけでもドキドキとさせます。実際に最初に住んでいた部屋はそれで追い出されたわけですし。実際に主人公が要求していたのは、裁判関係者の謝罪であったので、早期にきちんと謝罪をしていたら違った展開になっていたのでしょうが、元判事の男にはそれができなかったのですね。いつまでも謝罪をもらえない不満や怒りがたまりにたまっていただけに、最後のショックも大きかったことでしょう。毒入りミルクを飲ませて家を出ていくシーンは、妄想の出来事だとしても、衝撃的ではありました。いったい誰を憎むべきなのか、いろいろと考えさせるところでもありました。

 

9 ブルー・バイ・ユー

国際養子縁組のため米国へ移民した人々が、後年になって強制送還される問題を描いた重い作品です。この映画で描かれている一家の事情は個別でいろいろあるでしょうが、それ以上にエンドロールで流された多くの実例を思うと、やりきれない思いにさせられます。祖国に戻されたところで、家もない、職もない、知り合いもない、言葉も喋れないで、一方で米国で作り上げてきた人間関係やキャリアが一切切断されてしまうわけで、どうしてこんなことが平気で行われているのかと、疑問ばかりが残ります。この映画の主人公はそこに前科だったり、娘の一人が連れ子だったり、白人との結婚だったり、生活の貧しさだったりと、いろいろな特殊要因が加わってきますから、より問題は複雑です。妨害されて出席できなかった法廷が行われていたとしても、どう転んだかは分かりませんが、その「もしも」の展開も観てみたかった気はします。最後の空港での別れのシーン、ついていこうと決めた妻子たちを、家もないからと制止する場面、単純についていったらいいじゃないかというわけにもいかない、これがシビアな現実なのでしょう。血の繋がらない娘が、実の父親もいながら、「行かないで」と叫ぶシーンは、ほんとうに涙を誘う場面でした。彼らのその後も知りたいです。

 

10 ビリーバーズ

エロ全開という作品で、北村優衣と磯村勇斗が体を張って熱演。そこに病気の後変わってしまった宇野祥平のとんでもない超セクハラ発言で、事態はとんでもないことに。いやー、びっくりしました。最初は無人島で謎の共同生活を行う3人組の異様な暮らしぶりが映され、裏に新興宗教的な組織の存在も見え隠れ、風変わりな設定ではありましたが、次第にエロの方向に作品がふられていきます。あれっ?と思ったのが、ノーブラの白いTシャツで女性がずぶぬれになるところ。そこから若い二人が相手を意識し始める感じでエスカレートしていくのですが、そこに年長の男が勝手な理論で絡み始めたから大変。こりゃ、とんでも映画だということがようやくわかったのですが、でもそれだけではないのですよね、それまで3人で暮らしていたのが2人きりになった途端、大量の仲間たちが押し寄せて、一気に空気が変わります。結末はかなり苦いものでしたが、とんでも映画であっても面白かったのには違いなく、しかも裸満載で、まあこれはこれで作品の役目は果たしていたのではないでしょうか。