●吉田恵輔 監督映画 ベスト10  | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

映画いろいろベスト10 + 似顔絵

まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

吉田恵輔 監督映画 ベスト10

 

この監督の作品ならとりあえず観てみたいと思わせる一人です。

 

1 さんかく

年の離れた小悪魔的女性に舞い上がって一人芝居を続けるイタイ男を描かせたら絶妙です。あべこうじに宮迫博之、そして今作では高岡蒼甫ですか。しかも今回は男だけでなくイタイ女性まで登場。これもまた見せ方が上手なのですね。おまけに3人が3人ともストーカーということで、他人がしていることはわかっても、自分の置かれている状況についてはまったく気づいていないという痛さ。これぞまさに恋の病。監督もそうとう苦しんだことがあるのではないでしょうか。そしてそれにキャストもきちんと応えています。高岡演じる男の気持ち、よく分かりますよ。適当ぶりが同性として笑えます。それから田畑智子、ストーカーをし続けてもどこか憎めない微妙なバランス感がこれも見事。彼女の3段階での変貌ぶりはなかなかリアルでした。そしてロリータ的魅力満開の小野恵令奈。この人は女優を続けていたら面白い存在になったかもしれないと思い、残念。とにかく、観ている間暗闇の中で終始ニヤニヤしどうしでした。面白かったです。

  

2 机のなかみ

まず構成が面白いです。勝手に浮かれる家庭教師の馬場の視点で出来事を追ったあと、戻って女子高生の望からの視点で同じ時期を描いています。コミカルな前半、せつない恋愛を描く中盤、悲しい涙のラストと、それぞれ違った味付けで、低予算で実に面白い作品に仕上げていました。さらにキャストのコントラストがまた絶妙で、思わず望に肩入れしたくなってしまうのがまた絶妙。高校3年としてはやや幼い感じがしたのですが、実年齢はもっと上とのこと。ただこのあとすぐに、望を演じた鈴木美生は芸能界を去っていき、これもまた惜しい気がしました。

机のなかみ

 

3 銀の匙 Silver Spoon

好感度の高い爽やかな青春コメディでした。ここのところ立て続けに作品が公開されている吉田監督、ちょっとひねった感じの作品群とは違ったストレートな味わいながらも、コメディ映画をきちんとまとめ上げる力量に改めて感心させられました。高校生ながらそれぞれが背負う物を抱えている生徒たちに、ともするとどこか説教臭くなりやすいところを、硬軟緩急を使い分けて、笑えて泣ける作品に仕上げていたと思います。また、作品ごとに個性的なキャスティングを見せる吉田監督ですが、今回もところどころ絶妙な配役を見せています。生徒を演じたキャストたちは、けっして演技が上手いというわけではないのですが、個性的でキャラクターも明確。その分周囲に贅沢なほどに知名度実力充分の名優、人気俳優を配置。かと思うと、映画にはほとんど縁のない上島氏をぽっと使ったり。そのあたりの絶妙な加減もあって、十分に楽しませていただきました。

 

4  BLUE ブルー

Boxing映画に外れなしかということで、今作も一人の勝てないボクサーの生き様を描いたドラマになっていました。ボクシングの魅力に取りつかれたように、ボクシングから離れることのできない3人のボクサー。それぞれ戦績もアプローチも異なっていても、結局はボクシングを愛しているということに落ち着いてくるのですが、それだけこのスポーツには人々を魅了し引き込むものがあるということでしょう。それぞれキャラクターの個性も立っていて、作品としても魅力的な映画でした。

 

5 犬猿

それぞれに正反対のキャラクターの兄弟姉妹。刑務所上がりで粗野で一発当てることばかりを考える兄と、地道にサラリーマンで営業をしている弟。頭が良いが器量は悪い会社の社長として働く姉と、ルックスはいいが頭は悪く容量も悪い妹。そんな二人だけに、兄弟仲もうなく行きはずがなく、それぞれに不満や嫉妬を抱えながら、関係を崩していくのです。ここまで似ていない兄弟姉妹が実際にいるのかどうかというのはありますが、とにかくその対照の妙がこの作品のすべてであり、最後は雨降って地固まるかと思いきや、また険悪に…というところで映画も終了。その部分ではブラックなオチではあります。特に姉妹側のキャスティングが独特で、そのおかげで新鮮な印象を受けました。

 

6 ヒメアノ~ル

吉田恵輔監督しては珍しいサイコ殺人を扱ったスリラー映画ですが、ブラックコメディ的な側面を持つ作品でもあり、このあたりはなかなか一筋縄ではいかない監督だけあります。前半は完全にコメディムード。芸達者を揃え、独り相撲の三角関係の恋愛模様や、女性の経験人数の多さに驚く脱童貞男の悲哀、さらにはとんでもなく強烈なヒロインの女友達と、この先の暗澹たる殺人の前兆などまったく感じさせないとぼけた展開。ところが森田剛演じる殺人鬼が本性を現して来たら一気に話は動いてきます。またこの森田剛の殺人鬼がなかなかの怖さで、容赦なく人を次々に殺していく様子は恐怖そのもの。濱田岳と佐津川愛美のカップルは危機が迫ってくるのをどうやって脱するのか、観ている方もドキドキ。目が離せませんでした。それにしても吉田監督は女性を小悪魔的に描くのがうまく、今作も佐津川愛美が健気なふりして、実は経験豊富、濱田岳を振り回す姿は小悪魔そのものでした。

ヒメアノール

 

7 麦子さんと

吉田恵輔監督の過去の作品群と比べると、ユーモアも抑え目に、人情物語を前面に押し出してきた印象ですが、ヒロインの思いが少しずつ変化していく様子がじっくりと描かれて、気持ちが伝わりやすいものになっていたと思います。子供に会えない母、母親に会えない子供、そんな人々の複雑な思いがにじみ出ていて、思った以上にしんみりとした気持ちにさせられました。細かい部分の描写に伏線が張られていたりとするところは、吉田監督ならではの巧みさも感じられましたが、偉そうに言うと、監督としての引き出しの幅をまた広げられたのではないでしょうか。芸達者を脇に配し、大げさになりそうな題材をリアルに演出していたと思います。惜しむらくは、堀北真希の『赤いスイートピー』を聴けなかったことですね。

麦子さんと

 

8 空白 

元々気が荒く、他人の言葉に耳を傾けることのない主人公が、さらに娘を失ったことで常軌を失って暴走していく様子を描いています。冷静な判断力をなくし、周りをすべて敵に見立て、娘が死んだのは誰かのせいだと、その明確で彼を納得させる理由を探すために、事故の関係者を責め続ける姿は、ある意味狂気です。その最大の対象となったのは、娘を万引き犯として追いかけたスーパー店長ですが、この店長がまた煮え切らないキャラクターで、それが観ている者をイライラさせるのですよね。そして癖の強いパートのおばさんの存在。作品に出てくる主要なキャラクター描写によって、とにかくイライラがつのる演出は監督の狙いだったのでしょうか。ただそのイライラは予想していた爆発という形で終わるのではなく、沈静化していく方向に物語は向かっていきます。ただ主人公のキャラクターを考えると、この心変わりはいささか唐突感を感じることは確かでした。この作品、明確な結末がついているわけではないですが、万引きした中学生を一生懸命追いかけたことで、一人の中学生を死なせ、通りがかった車の運転手も自殺させ、それぞれの遺族を悲しみの底に突き落とし、万引きされたスーパーはつぶれ、従業員が職を失うという多くの人が不幸な結果になってしまったことを考えると、あまりにやるせないです。では万引きを見逃せばよかったのかという結論にはならないわけで、いったいどうすればよかったのか、まるで答えが見つからないところで、最後までもやもやが残りました。

 

9 愛しのアイリーン

強烈なキャラクター揃いで、地味な山村にしては濃いか人間関係が繰り広げられます。前半で消えてしまうぼけた父親、息子命ですぐに発狂すね母親、ゲスで覇気のない息子、そしてそこへ金目当てでやってきたフィリピンの花嫁、さらには息子の嫁にと母親が連れてきた女の衝撃的な告白、坊主、ヤクザ、職場の不倫相手、と一癖も二癖もある人物ばかり。さらには問題の解決の仕方がみんな暴力的で、観ていてほんとうにしょうもない奴らって感じでなのです。それだから余計に、異国からやってきて溶け込もうとしているアイリーンが健気に思えてしまうのです。そのアイリーンだって打算で日本にやってきたのですし、時に大胆な行動を取ったり、最たるは夫の殺人をともに隠したりと、けっして善人というばかりではないのですが、それでも一番まともで愛らしく見えてくるほど、とにかく周りがひどい!吉田恵輔監督しては、笑いを極力抑えたという印象で、やや重く感じた作品、木野花の強烈な演技も印象に残りました。

 

10 純喫茶磯辺

なんとなく「ゆるい」感じの出だしに、のらりくらりとしたコメディを想像したのですが、これが思った以上にハートフルで且つブラック!だめ父親としっかり娘の、一見けんかばかりで仲が悪そうに見える親子関係の中に、お互いを思いやる愛情が見え隠れし、とっても温かいのです。しかし一方で、二人の親子を振り回す存在である麻生久美子演じるアルバイトの素子さんの存在が、強烈な印象を残すのです。最初から最後までとにかくとらえどころがなく、まるで本性の見えない女性なのです。ビラ配りをサボり預かったビラをゴミ箱に平気で捨ててしまったり、レジからお金を抜き取ったりする一方で、いやなゴミ処理を文句も言わず毎日こなし、セクハラの客にもキレルことなく接客。親子に対する言動の一つ一つに、裏があるのか或いは素直な気持ちなのか、最初から最後までまったく読めない謎の女性なのです。そのきわめつけが、3人揃っての居酒屋のシーン。連日のように飲みに出かける宮迫博之演じる父親裕次郎と素子さんを見て、仲里依紗演じる娘咲子が快く思っていないことを知り、衝撃的な言葉を裕次郎に発するわけなのですが、果たしてそれが真実なのか嘘なのか。映画の中でも、おそらくは咲子の気持ちを思いやり、裕次郎の気持ちが離れるようにわざと嘘をついたと思わせながらも、一方でラストの彼女の様子などから、いや彼女ならあり得るかもという部分も残し、はっきり結論を見せない演出がまた心憎いのです。最初から最後までそんな得体の知れない素子に振り回されっぱなしの父と娘ではありましたが、そのせいで得たものもまた小さくはないのです。店の個性的な客たちに任せられた笑いは若干すべり気味でしたが(近藤春菜は存在感だけでいい味を出していましたけど)、作品全体としてほろ苦くも優しい、なかなか素敵な感じの作品でした。演技になれたキャストの中で、娘役の中里依紗が健闘、ふてくされたり、怒ったり、困ったり、笑ったり、とにかく豊かな表情で、新鮮な魅力を発揮してくれていました。

純喫茶磯辺

 

次 神は見返りを求める

変貌していくユーチューバーを岸井ゆきのが好演していて素晴らしいだけに、尻切れトンボのような中途半端な終わり方がとても残念です。いよいよ逆襲が始まるかと思ったところで終わりでは、やられっぱなしでフラストレーションが残ってしまいました。それまではユーチューバーの世界の中での強い者弱い者の差を描き、ここまでユーチューバーに特化した映画というのもまだ珍しく、底辺ユーチューバーから人気ユーチューバーへと変身していくヒロインが、それと合わせて態度もメイクもファッションも変えていく様子がなかなか面白かったです。登録者数、動画再生数をあげるためには、NGなしでなんでもやるというスタンスに疑問も持たずに突っ走っていく様子は、ある部分現在のユーチューバーたちへの風刺も込められていて、面白く観ることができました。そしてムロツヨシ演じる主人公への態度も一変させ、あんなに仲良くやっていたのが険悪な関係になり、そしてふとそんな自分に気づいて疑問を持つという三段階で変化していく様子を、岸井ゆきのが実にうまく演じていました。それだけに病院のベッドで寝たまま、あるいはユーチューバーの暴漢に襲われたままで終わるのは心残りです。ぜひとも続きを作ってほしいと思わずにいられませんでした。