●山下敦弘 監督映画 ベスト10 | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

映画いろいろベスト10 + 似顔絵

まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

山下敦弘 監督映画 ベスト10

 

この監督の映画なら是非観なければと思わせてくれる

数少ない監督の一人です。

 

1 リンダ リンダ リンダ

ぺ・ドゥナのひょうひょうとしたセンスが光ります。山下監督としては正統派のコメディでこの作品以前の独特のシュール感は影を潜めたものの、その分万人に楽しめる快活な作品になっていました。練習場面では下手な演奏と歌しか見せず、いよいよクライマックスの本番で上達した歌や演奏を披露するという手法は他の作品で確立された感があるのですが、キラキラ輝いていた青春時代というものが戻ってくるような感覚が素敵です。展開がやや大人しめでキャラクターが弱いので力強さは感じませんが、その分等身大の女子高生を身近に感じられました。

リンダリンダリンダ 

 

2 ぼくのおじさん

だめでぐうたらだけど憎めないおじさんと甥っ子との掛け合いがとにかく可笑しくて、笑いどころ満載。こういう映画も作れるという引き出しの広さをまたもや知らしめた山下敦弘監督。居候の身でありながら、マドンナに勝手に恋して、旅に出て、そこで本命の相手に反発しながらも、結局は人の恋の成就の手助けをしてしまう…なんか寅さんみたいなこのおじさんですが、甥っ子姪っ子もなんだかんだと言いながらも、好きなんですね、おじさんのことが。子供みたいにムカデのおもちゃで驚かせたり、屁理屈を言って嫌なことを逃れようとしたり、とにかくまったく大人らしくないおじさんですが、妙に気が合って仲良かったりもするわけで、こんな生き方ができるなんと、ある意味で羨ましかったりもするわけです。まあ、恋の行方は答えが最初から見えているような流れではありますが、味わいのある会話劇は充分に楽しめました。エンドロール後の最後のシーンで、戸田恵梨香先生が放つ一言、やはりこう来たかと、これまた予想どおりの流れではありましたが、それでもやっぱり可笑しかったです。

 

 

3 天然コケッコー

のんびりした幸福感に包まれるような穏やかな映画で、ひとときの間、アスファルトの中に囲まれた日常を忘れさせてくれました。小学生から中学生まで合わせて7人しかいないという田舎の学校を舞台にした微笑ましい初恋を描き、どこか懐かしさも感じさせてくれます。草原の中に人が踏み歩いて自然にできたような野道、人通りが少なく荒れかけている橋、その間を走る一本の線路(これは「スタンドバイミー」を彷彿させます)、野道を歩いた先に開ける海、天道虫や蟹、つくしといった自然…、こうした風景がまだ日本に残っていたのだと思うだけで、不思議とほっとするのです。こうした自然の中で小さい子から大きな子まで毎日一緒に仲良く過ごして育った子供たちは、心も大らかに育っていくのだろうな なんて、そんなことまで想像してしまいました。ほぼ新人の岡田将生、夏帆が主演。

天然コケッコー 

 

4 オーバー・フェンス

それぞれに色々な背景を抱えながら大工の職業訓練校に集まった男たち。年齢も経歴も様々。特にこの主人公は妻子と別れ、職も捨て、特に目的もなく、失業保険つなぎのために入学している状態。そして出あったホステスは、感情の起伏が激しく、突然態度が豹変することもある、はたから見れば難しい女。その激情型の女を蒼井優が熱演しています。彼女や学校の仲間たちとの交流の中で落ち着きを取り戻していく主人公は、前妻やその実家との関係も雪解けしていくかのように、頑なな心がほぐれていくようで、ラストのバットを振り抜いたシーンには爽快感さえ感じられました。ただ生きるだけ、生きるために働くだけといいながらも、やはりどこかで光を求めて生きている彼らの未来が明るいものであることを祈りたくなるような終わりかたでした。函館の街も晴れたシーンが多く、その点も特徴的でした。

 

 

5 もらとりあむタマ子

山下敦弘作品の初期の頃の心地よい緩さを久しぶりに感じさせてくれました。なんでも撮れる監督なので、ヒロインが着実に成長していくような明確な展開なのかなと思いきや、起承転結のないぼやっーとした以前の山下節。そこが好きか嫌いかはともかくとしても、この味はやはり山下監督ならでは。そしてそこにまさか前田敦子がはまるとは思いませんでしたが、それがピタリなのですよね。『苦役列車』を観ても、監督と女優としての相性はかなり良さそうですね。脇役の使い方もうまく、特に中学生の男の子との掛け合いは絶妙。ずっと年上の女性に「タマ子」と呼び捨てにするのもまったく違和感なく観られてしまうのですから。わりきって短くまとめたのも「○」でした。

もらとりあむタマ子 

 

6 苦役列車

その場しのぎで毎日をなんとかやり過ごすだけの毎日を送る主人公には、なんとかしろよと、尻をたたきたくなる気持ちで観ていましたが、いつまで経っても進歩がない様子にはいらいらし通し。同じように日雇いを続けていた唯一の友達にも、少しずつ差を付けられても、ただ不機嫌にひがむだけで、自ら状況を打開しようという意気もないのですよね。もっともあんなことばかりしていれば、友達にも女の子にも逃げられてしまうのも当然。そんなダメダメ男を、森山未來がリアルに演じていたと思います。上手でした。物語の展開としては、最後の最後でようやく僅かに前向きな姿がみられる程度で、気持ちが盛り上がらないままではありましたが、1986年に19歳、実は同い年と思うと、貫多くんが愛しく思えてきました。

苦役列車 

 

7 ばかのハコ船

独特の雰囲気でいかにもインディーズというムードのシュールなコメディ。ところどころ可笑しいところはあるのですが、劇中の人物たちはあまり笑いません。そこがまたくすくす笑いを誘うわけで、爆笑シーンがあるというわけではないのですか、なぜか可笑しみが漂うのです。当時は両親役以外は全くの無名俳優(とはぃっても山本浩司はその後パイプレイヤーとして活躍)で、ほんとにどこにでもいそうな容姿の人物ばかりというのも、異様な雰囲気をより強めているように感じました。

ばかのハコ船 

 

8 味園ユニバース

あまり映画の印象がない渋谷すばるですが、彼の個性を生かした作品にはなっています。ただし内容的に何も解決しないまま終わってしまい、消化不良だというのが正直なところ。ステージが終わり茂雄はどこへ向かうのか、実家との関係は?カスミとの間に恋は生まれるのか、仕事はどうする?などなどこれといった方向性が見えず、なんとなくステージに戻って歌って、はい、終わりでは、すっきりしません。またご都合的な展開もあって、リアリティもなし。面白くないことはないけれど、風呂敷を広げたまましまわない、そんな感じの作品になってしまったのが残念。

 

 

9 くりいむレモン

独特の間の使い方はここでも顕在。ともするとえげつなくなりそうな題材を、ソフトに包み込むように、青春恋愛映画として完成させています。普通の兄妹ながら血の通わない二人の間に流れる微妙な空気をうまく表現している前半から、箍がはずれたように互いをむさぼりあう後半へのつなぎ方がなかなか巧い。

くりいむレモン 

 

10 超能力研究部の3

どこまでがフィクションでどこからが本当のドキュメンタリーなのか。境目がまったく分からない実験的な作品。舟木さんなる事務所の責任者がやってきてキスシーンのあるなしを迫るシーンにはほんとにびっくり。マネージャーさんも罵倒されてばかりで大変だと。それに秋元真夏が喧嘩のシーンを撮れなくて、共演者から本人の悪口をさんざん言われるシーンもびっくり。ただキスシーンのやりとりのなかで異常な追っかけが登場したのは、ちょっとやり過ぎか、一気にネタだと分かってしまった瞬間でした。ただこのほとんどが演技なのだとしたら、彼女らもなかなかやるなぁという感じ。それでもやっぱりメイキングシーンは素なのかなと思いますけど。