●原田眞人 監督映画 ベスト10 | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

映画いろいろベスト10 + 似顔絵

まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

原田眞人 監督映画 ベスト10

 

社会派ドラマから時代劇、恋愛劇、ホラーまで幅広い作品を手掛けてきた

原田眞人監督をとりあげます。

時には俳優としても活躍、『ラスト・サムライ』にも出演しています。

 

1 クライマーズ・ハイ

熱くそして重厚な社会派ドラマ。有名な飛行機事故の実態を暴きだすとか、被害者や遺族の無念を知らせしめるとか、そういったものに重きを置いていなかったのですね。原作もドラマも読んだり見たりしていないので、ちょっと違った想像をしていたのですが、大事故を題材にして、新聞社という特殊な中で戦っている記者たちのドラマを熱気ムンムンに描き出す、そんな映画でした。地元新聞社ならではの意地というものもありまして、その中で少しでもライバルよりも先に抜こうと、記者さんたちも結構必死なのですよね。ある種、やくざな世界なのですよね。この主人公のように、上司や先輩に対して横柄な言葉遣いや態度で実際通用するのかどうかということは分かりませんが、少なくともこの世界の特殊性のようなものは伝わってきたように思います。ひとつ大事件が起これば、昼も夜も関係なく動き回り、常に時間との勝負で緊張感の中に身を置かなければならない、相当過酷な稼業。実際、劇中でも現役の新聞社勤務の社員が死んだり、倒れたりしていきます。この映画では、新聞社の中でもそれぞれの立場や考え方によって、意地とプライドとメンツがぶつかり合う凄まじさが如実に表され、その熱さに圧倒される思いでした。

クライマーズハイ 

 

2 検察側の罪人

確かにラストにはもやもや感は残るものの、作品全体としては見ごたえがあり、ぐいぐいと最初から最後まで引き付けられっぱなしでした。理想や正義も長く同じ組織にいるうちに、自分の中で形を変えてしまうということが、警察・検察の犯罪に繋がっているということを、若手や潜入記者の目を通して、いったい何が正義なのか、改めて問うています。法の下において犯罪を罰すという正義が、いつの間にか別の事件で罰しきれなかった犯人への無念さを晴らすための手段にすり替えられていくことに、長く組織に属してきた本人にはもう気づかなくなっている怖さ。木村拓哉と二宮和也との会話のやりとりには緊張感があり、その正義とは何かという応酬も、作品を大いに盛り立てていました。松倉を演じた酒向芳がまた本当に気味悪い容貌・言動で存在感が抜群。面白かったです。ただ最後だけは、やはり犯した罪の償いも何も明確にならずじまいということで、敢えての後味の悪さがなんともいえなかったです。

 

 

3 日本のいちばん長い日

リメイク作品ではありますが、原田眞人らしい演出で見応えある戦争歴史群像ドラマになっていました。政府、宮中、軍部とそれぞれがポツダム宣言の受諾に対して思いを持ちながら、玉音放送までの時間に起きた出来事を刻々と追う中で、その時間は敗戦を受け入れるまでに最低限必要な時間であったのだろうという思いを強く持ちました。リメイク作品ですので内容的に目新しさはない分、前作から50年近く経過した今改めてこの作品を作る意義を考えながらの鑑賞でしたが、社会派の群像劇には長けている原田監督だけあって、緊張感を持たせながらも、現代の観客にとって観やすいものになっていたのではないでしょうか。  対外的というよりは、内部の反乱分子に対してどう収めていくかという駆引きのスリルも、ある部分娯楽映画としても耐えうる演出だったと思います。

 

 

4 金融腐蝕列島・呪縛 

内容は硬派のドラマですが、テンポもよく、常に緊張感が保たれて娯楽作としても充分観賞に耐えられる出来になっています。特に椎名桔平の演技が光ります。やや抑えながらも存在感のある格好のいい演技。また女性記者の若村麻由美もなかなかいいです。キャストが豪華で、重要な役を占める人数も非常に多く、それだけでも見応えがあります。悪の権化が結果的にすべて仲代達矢演じる佐々木相談役一人に集中し、他の人物は結局いい人で終わっているということが、やや物足りない点であり、もう少しどろどろした裏の人間関係が現れてきたほうが、より現実的だったようには思いますが、それでもとっつきにくそうな企業の裏世界を興味深く見せてくれる手腕はさすがでした。

金融腐蝕列島呪縛 

 

5  KAMIKAZE TAXI

秘めた怖さを最後に発揮するペルー育ちのタクシー運転手を演じる役所広司の、表面に見えない凄みを抱えた演技が印象的。穏やかな表面しか見せぬままに終盤までいながら、最後の復讐のシーンで見せる内なる鋭さは、役所広司ならではの表現で、観る者に強烈なインパクトを与えてくれます。ヤクザの逃亡映画ではありますが、不思議な出会いによりもたらされた3人の関係性が興味深く、一風変わったロードムービーとしても楽しめました。

 

 

6 わが母の記

まじめな演技の間のところどころに散りばめられたユーモアセンスが抜群の樹木希林、現在の邦画界ナンバー1男優と言っても過言でない役所広司、若手の中では常に安定した演技を見せる宮崎あおい、これだけ揃えれば、まずは作品としての安定感は保障されたようなもの。親の心子知らずであり、子の心親知らず、そんな知らないまま人生を過ごしてきた母子が、まともな会話が出来なくなったころに、お互いの心を知るという皮肉も含めて、きっちりと見せてくれる作品に仕上がっていたと思います。ただ演者と脚本に任せて安心して観られた分、淡々とこの一家のドラマを見せられているという感もあります。心を強く揺さぶれるという映画的な演出に頼らなかったため、ここぞというシーンがあまり残せなかったことが、結果的にこの作品に対する印象を弱めてしまったような気はしました。

わが母の記 

 

7 駆込み女・駆出し男

題材としては面白いと思いましたが、全体的にいろんな意味で中途半端さが残念。シリアスとコミカルの塩梅も中途半端、盛り込んだいろいろなエピソードもほとんどが中途半端であっさりと描かれ、大事件になりそうでならない突っ込み方がまた中途半端。芸達者の俳優陣が多数出演しているし、原田眞人監督ならばもっともっと面白く満足感の高い映画にできたのではないかとは思いました。それでも全体として観れば手堅い作品になっていましたし、ボリューム感もありました。キャストの中では戸田恵梨香の奮闘ぶりが特に印象的。線の細さもなくなり、堂々とじょごを演じていました。

 

 

8 魍魎の匣

全体の印象としては、やや散漫な印象を受けました。内容的には決してつまらない内容ではないのですが、場面場面のつながりがスムーズでないのが気になります。ですので、ところどころストーリーの流れをつかみ難いところがあったのも事実です。また、映像的にも、ストーリー的にも、途中までは戦後すぐの時代の雰囲気というものがよく出ていたのですが、終盤にきて物語がSFチックな展開になると同時に、映像的にもせっかくの雰囲気もなくなってしまったのも残念です。その点でも散漫な印象に繋がったのかもしれません。もっとも、監督が原田眞人なので、この編集も仕方ないのかもしれません。キャストはかなりの豪華。「姑獲鳥の夏」に続く堤真一、阿部寛に椎名が加わったことで、ますます充実のメインキャスト。この3人の掛け合いは、それだけでも見ごたえがあります。日本の40代の男優を代表する3人ですからね。個人的にはもう少しミステリー色が強い方が好みなので、最後の大掛かりなシーンは、むしろやりすぎのような気がします。もう一歩でした。

 

 

9 自由戀愛

テレビドラマが先行しその後劇場公開された作品です。大正時代、封建的な男性中心の社会が当たり前の時代、女性達が自立を叫び始めた頃。豊川演じる由緒ある資産家の息子の妻となった2人の女性の自立するまでを描くドラマです。平塚らいてうや市川房代といった人物を登場させ、関東大震災という有名な出来事も織り交ぜている割には、あまり時代感が伝わってこないのはなぜでしょうか。確かに2人の女性は、この時代としては進んでいる現代的な女性だし、映画の撮影所とかゴルフとか、近代的な要素がかなり入り込んでいるのはありますが、どうも「演技」をしているという感じが出てきてしかたありません。どうも原田監督の撮り方に原因があるように思います。この監督、他の作品でもわりとセリフが聞き取りにくいことが多いのですが、この作品もそうです。臨場感を出そうとしているでしょうか、ただ観ていてちょっとしたストレスではあります。

 自由戀愛

 

10 関ヶ原

基礎知識がないとちょっと辛い。登場人物は誰もが知る名前ですが、その関係性や歴史的背景をある程度抑えていないと、取り残されてしまいます。しかもセリフが聴きにくい(原田監督の作品にはありがちですが…)物語の展開がどうなっているのか、途中からの修正も効かず、あまり楽しめませんでした。またどうしても有村架純演じるくノ一と石田三成の関係がとってつけたようで、いまひとつ作品に溶け込んでなくて、本筋から浮いている印象でした。