佐々部清 監督映画 ベスト10
実直な作品を作り続ける佐々部清監督をとりあげます。
どうしても作りたい作品は、
自ら資金を集めて製作するこだわりももった監督さんで
心に染み入るドラマをたくさん送り続けています。
そういうわけで、好きな作品が並ぶランキングとなっています。
ほんとうは取り上げたかった作品も、実は漏れてしまったのが残念なくらいです。
1 結婚しようよ
ちょっと出来過ぎの一家という部分はあるにせよ、とっても温かくて、家族っていいなと思わせるような素敵な作品になっています。吉田拓郎の音楽がところどころで挿入され、現代の物語でありながら懐かしさを感じ、一方で不思議な寂しさを感じるような、とても感傷的な気分になってきます。いい人ばかりで悪い人が一人も出てこないですけれど。
2 カーテンコール
映画ファン、特に昔からのファンにとってはノスタルジックでたまらない作品でしょう。主人公の記者が王1人の男性の人生が、映画の隆盛と斜陽と重なってくるように映し出され、ラストでは穏やかな感動を覚えます。決して派手な作品ではないですし、在日朝鮮人への差別といった社会的なテーマも盛り込まれ、まじめな映画ではありますが、人探しを展開の軸に持ってくることで、最後まで飽きさせずに観ている者の興味を離さない工夫されたつくりになっていました。
3 三本木農業高校、馬術部~盲目の馬と少女の実話~
馬の出産や仔育て、仔離れという一連の流れをカメラに収めたこと、そして何よりも四季折々の風景の移ろい。桜、新緑、紅葉、雪景色…それぞれをバッグにした生徒たち、そして馬たちの毎日を映した映像は、それだけでかなりの手間がかかったはずです。そうした四季の自然の風景が、若い生徒たちと馬との交流を描いたドラマをより叙情的に映り、馬とともに成長していく生徒たち、そして必ず迎える卒業と別れ、ラストは優しい感動を覚えるものでありました。
4 夕凪の街 桜の国
終戦記念日に鑑賞するに相応しい、広島に投下された原爆をテーマに描いた作品です。しかし、投下された前後を直接描くこれまでの作品とはやや視点を変えて、13年後、そして62年後の今年を背景に、今もなお原爆の影に苦しむ2世、3世の人々を描いたものになっています。原爆の惨さや平和の尊さを直接的に語りかけるというよりも、原爆というものの残した傷跡の大きさを浮き彫りにすることにより、人間のしてきた罪の大きさを静かに考えさせるような、そんな語り口の映画です。
5 六月燈の三姉妹
けっして派手ではないし、どこの地方にもありそうな話ではありますが、地方ならではの夏の風情を背景に、ゆったりとしかし確実に時間が進んでいく中で、それぞれの生活もまた一歩一歩進んでいく様子が穏やかに描かれ、好感が持てます。出戻り、離婚調停中、不倫中と問題を抱えた3姉妹ですが、それぞれが悩みながらも生き方を模索している様子に親近感を覚えました。
6 陽はまた昇る
既に有名な話で結果は皆が知っている。したがってそのプロセスが重要になってくるわけで、マジメでありながら娯楽性も伴っていて、テンポも良く、無駄も少ない作りで飽きさせません。俳優も子役以外は安心して見ていられる陣容で、意外性はないものの、それぞれが得意のポジションで力を発揮してくれていました。
7 東京難民
知らないところで一気に金も家も身分も失った主人公に降りかかった出来事ももしかしたら明日は我が身、一度落ちたらなかなか這い上がることが難しい現代日本…。底辺にいる人々、或いは底辺に落ちていく人々にスポットを当てながらも、それでも生きているだけいいじゃないかと、後ろ向きでないメッセージを残してくれた作品です。
8 日輪の遺産
戦時中の女学生たちの悲痛な決意を描いたひとつの戦争ドラマは、佐々部監督らしく実直でストレートなドラマに仕上がり、テーマも分かりやすく伝わってくる作品になっていました。彼女たちがどんな思いでそうしたのか、その部分が一番伝えなければいけないテーマではないかと思うと、一番つらい場面が描かれなかったのは、やや物足りなさは残りました。
9 出口のない海
志願して人間魚雷に乗り込み命を預ける若者達の胸のうちも人それぞれ。死んで神になることが唯一の世間への自己アピールだと強く思う者、国の敗戦を冷静に予感しながらも自らを納得させながら心のどこかで覚悟しきれていない者、それぞれの複雑な内面を戦争のない時代に生きる自分の青春時代と比べ、なんとも残酷でやるせない思いにかられます。そして、今世界中で脅かしているテロ、特に自らの命を捧げてまで自爆テロを決行する者達と比べ、どう違うのだろうと考えてしまうのです。
10 ツレがうつになりまして。
この奥さんだからなんとか旦那さんも乗り越えてこられたのかなという感じはしました。なんの病気にしても、支えてくれる人がそばにいるのといないのでは全然違うでしょうし、そういう意味では、うつ病というものを身近で支える側のスタンスとか、気持ちの在り方とか、そんなことの参考になるような作品であったと思います。会社に勤めていると毎年誰かがうつ病にかかって長期間休んだり、或いは退職したりということを目の当たりするなど、この病気を身近なものとして感じていても、世の中がどこか腫れ物を触るような空気があって、なかなか詳しい実情まで知らないのが現実だったりします。この作品がそんなことを考える一つのきっかけにはなるのではないでしょうか。