平山秀幸 監督映画 ベスト10
ベテランの平山秀幸監督の特集です。
俳優さんの魅力を最大限に引き出す演出が見事。
1 ターン
無人の街で戸惑い、一本の電話にすがって「あっちの世界」への脱出を願う女性の役を演じ切っている牧瀬里穂が好演。無人の街の様子を多く挿し込み、撮影が大変だったろうと感心させられました。主人公になった気持ちで復活を一緒に願わざるを得ない心境にさせられ、最後はほっとして終了。平山監督の作品の中では好きな作品です。
2 必死剣 鳥刺し
武士としてのプライドとか、本当の正義への問いとか、献身的に支える女性の存在とか、やはり藤沢時代劇のエッセンスはかなり散りばめられていました。上背があり、寡黙に佇むだけでも絵になる豊川悦司に対し、同じく上背で対抗でき、カリスマ性を持つ役にはぴったりの吉川晃司が相対する形。そして常に裏に何か持っていそうな岸部一徳や、久しぶりに作品にはまった池脇千鶴、わがまま「愛人」の関めぐみ、いかにも臆病で頭が悪そうな藩主の村上淳と、配役がうまくはまって、観ていて面白みのある作品でした。
3 信さん・炭坑町のセレナーデ
まだまだ人の繋がりが濃密な時代の、出会いの素晴らしさと別れの寂しさを強く感じる作品です。小さい炭鉱村ということで、ちょっとしたことがすぐに噂になってしまう窮屈さの一方で、誰かが誰かを助け決してひとりぼっちになることのない温かさ、今の時代になくなってしまったものを思い出させてくれました。
4 愛を乞うひと
こちらも母親役の原田美枝子と娘役の野波麻帆が好演。母親探しの旅を描いたドラマですが、地味な展開なのにテンポがあり、そして心に響く作品に仕上げています。
5 OUT
原田美枝子が光ります。この作品では普通の主婦が普通でない行動に巻き込まれていくいつもとは違うパターンで、新しい魅力を出していました。また倍賞美津子も安定の演技。仲間の起こしたことが自分の罪となって、次々に重なるようにして犯罪を重ねて行く4人の女性。その巻き込まれていく過程に於ける人間関係や、逃げて行くときの心境など、犯罪そのものよりもその背景にスポットを当てた内容になっています。
6 しゃべれども しゃべれども
国分太一がかなり頑張っていましたね。おそらく落語家という役を受けた時点でかなりの覚悟をしていたのでしょうし、訓練も重ねたことでしょう。最後の高座でのシーンはなかなかさまになっていました。しかしそれ以上に目立っていたのは子役の男の子。森永悠希君というようですが、関西弁で大人顔負けに言葉を操り、それでいて愛嬌があって、この映画にとって重要な役どころを上手に演じていました。映画の内容の方ですが、落語という題材にふさわしく、笑いあり涙ありの人情味あふれる作品に仕上がっています。
7 レディ・ジョーカー
この作品で強い印象を残したのは脇役の吉川晃司。彼独特の存在感を存分に生かした映画になっています。原作のボリューム感に比べると、2時間ほどに収めるのには、やや無理があったかもしれません。
8 笑う蛙
大塚寧々のどこを観ているのか分からないような、そして何を考えているのか分からないような表情は感情を抑えた演技は、この映画に相応しいものだし、長塚京三も安定感のある演技を見せていました。前半の覗き見している構図はどこかワクワクさせてくれるものがあっただけに、正体を現したあとはまとまりが悪くなったのが惜しい作品でした。
9 太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男
大場大尉の冷静な判断力と統率力、そして周囲の人々だけでなく敵方までも惹きつけてしまう人間的な魅力、そういったものはきちんと伝わってきました。ただし、作品としては山場もなく、最初から最後まで単調。ただでさえみんな同じ格好に黒い顔で見分けがつきにくいのに、大尉以外のキャラクターの個性が弱いために、作品全体としての魅力が薄かったのが残念。
10 やじきた道中 てれすこ
子供の頃に読んだ「膝栗毛」の弥次喜多道中、もちろん現代語訳でしたが、江戸時代の喜劇に夢中になったものです。しかし男二人では色気がない(?)ということで、「膝栗毛」をモチーフに女性を1人加えた3人道中で描いたのがこの映画。中村勘三郎・柄本明・小泉今日子という異色のトリオの珍道中ですが、やや中途半端な感じ。もっとも俳優のせいというよりは、いまひとつ脚本にテンポの良さが欠けたからかもしれません。