84.二回目の指卒業式
ハリケーンベリルが去った3日後、カストリーズの中心街にあるシティホールの
イベント会場を借りて、朝10時より第2回指圧講座の卒業式が執り行われました。
シティホール
シティホールはコンスティチューションパークの真向いで、バスターミナルも
近くて便利な場所です。
建物の正面はセントルシアの国旗カラー青、黄色、白、黒がシャープな線で縁
取られた2階建です。1階の奥の方に一般市民がイベントやお祭りなどで利用で
きる広い会場を備えた公共施設です。
会場に入るとカウンターパートのデボラさんが案内係を務めてプログラムを渡し
ながら来賓席を案内しています。
卒業生はコーデリアさん、ジョナサン、メーガンさん、そしてスティシアさんの
4名ですが、ジョナサンとスティシアさんは急な私事の理由から欠席でした。
会場の最前列に黒いドレスとハイヒール姿のコーデリアさんとメーガンさんが
微笑みながら座っています。
その隣にはグリーンのドレスを着たエタさん、ネイビーブルーのワンピースの
ガビーさん、水色のワイシャツのエディさんと続いて列席しています。
卒業式は2期生だけでなく、指圧アドバンスコースを終えた3人の臨床研修講座修了
証書の授与も含まれているので、卒業生の席には5人が並んでいます。
その背後には卒業生たちの家族や親せきで、会ったことのあるコーデリアさんの夫
とお母さん、メーガンさんのお母さんと彼女の大好きなおばあさん、エディさんの
お姉さんの顔が並んでいます。ガビーさんのお母さんは私たちの所まで来て、感謝
の言葉をくれました。
中央通路を挟んで、反対側には視覚障害者協会会長、JICA事務所代表者の方々、障
害者協会の職員や関係者が並んでいます。
来賓席には初めて見る顔ぶれの人たちに交じって、私たちの友人のチヨさんとレミー
さんご夫妻、大家さんご夫妻、指圧クリニックを支援してくれている患者さんも来て
くれました。
卒業生の門出を祝福しようとたくさんの人たちが集ってくれました。
障害者協会の理事会会長と副会長はビデオ撮影やマイク調整などの裏方役に回って
式典を支えてくれています。
司会者は協会関係者ではないナディアさんでしたが、卒業生一人一人をよく知って
いるかのように柔らかい物腰でエピソードを交えながら進行役を務めてくれました。
ロージーさんの卒業式開催宣言から始まり、JICA事務所代表、視覚障害者協会
会長、指圧講座担当者代表、卒業生代表とスピーチが続き、祝辞が述べられた
後に歌手のニッキーさんの歌、証書授与、2期生による医療関係者の宣言
『The Physician's Pledge』、最後は視覚障害者協会理事会の会長のスピーチで
幕が下りました。
素晴らしい歌声を聞かせてくれたニッキーさん
卒業生による宣誓『The Physician's Pledge』
第2回指圧講座の卒業生は昨年8月から始まり、256時間の指圧の理論と実技、それに153時間の解剖生理学を履修し、卒業証書を手にしました。
卒業証書を受け取るメーガンさん(左)とコーデリアさん(右)
昨年6月から始めた指圧アドバンスコースは患者さんの施術を行いながら症状別指圧法、リンパドレナージュ、筋膜リリースやストレッチ法、経絡経穴学などの理論と実技を1年間学び通し、修了証書が授与されました。
指圧臨床研修講座の修了証書を手にしたエタさん(左上)、ガビーさん(右上)、
エディさん(下)
ほとんどの生徒たちは視力障害が進行している状況の中、毎日頑張って休まずに通い、
指圧の知識と技術を獲得しました。
コーデリアさんは右目の視力はゼロで、左の方も昨年と比べかなり視力が落ち、夜は
全盲になってしまいます。
メーガンさんは弱視ですが、他の病気もあり、よくめまいに悩まされています。
弱視のエタさんは半年前から視力がかなり落ち、明るいと見えにくくなり、
サングラスをかけるようになりました。
ガビーさんはわずかに残っていた視力もこの2年間で失ってしまい、明るいか暗いかが
分かるだけです。
日に日にじわじわと視力が落ちていくことはどんなにか不安で怖く、想像以上の
苦しさで心が折れそうになるかと思うけれど、悲痛な表情は微塵もなく、実にし
なやかに楽しんで生きているとそばにいて感じます。
夢を諦めずに前に進もうと懸命に努力している生徒たちは私たちの自慢の生徒です。
卒業証書、修了証書を手にした生徒たちはとても輝いて見えました。
これからはセントルシアの人たちの健康を守る仕事に従事し、自分の手で稼ぎ、生活
できる自信と誇りを持った指圧師として社会に羽ばたいてゆく姿が目に浮かんできます。
式の中で指圧講座を常にバックアップしてくれているハルさんの
卒業祝いの動画が流れました。
「皆さん、ご卒業おめでとうございます。日本の人たち、佐賀の人たちが
ずっと応援していますよ。」
とニコニコ顔のハルさんのソフトな声が会場に流れました。
日本とセントルシアの友好親善が深まっていると感じる場面になりました。
そして、ハルさんはお祝いにと卒業生にポシェットを送ってくれ、それが式の前日に
丁度届きました。プレゼントが間に合うかどうかと気をもんでいたハルさん。
郵便事情の悪いセントルシアで、卒業式にプレゼントを渡してあげたいと
願ったハルさんの心が通じたのでしょう。
ハルさんのポシェットと私たちからの指圧で使う日本手ぬぐいのプレゼントを
受け取った卒業生たちは嬉しそうにサンキューを繰り返して言っていました。
丁度式が終わったばかりの時にセレニティパークの庭師ベントンさんが
駆けつけてくれました。
「式に間に合わなくてごめんよ。どうしても仕事を抜け出して来ることができなくて。」
と土の汚れが付いた仕事着のままで来てくれました。
「みんな、卒業おめでとう。偉大な先生に教えてもらってよかったなぁ」
そう大きな声で話すベントンさん。
「全くその通り!」と卒業生たちが嬉しそうに答えました。
公園の庭師ベントンさんもお祝いに駆けつけてくれた
陽気なベントンさんは友人も多く、何人も患者さんを指圧クリニックに
連れて来てくれました。
ベントンさんからのおめでとうの言葉は私たちにとっても何よりの励みの
祝辞で心に残りました。