83.ハリケーンベリルがやって来た
アフリカの西南西に熱帯波が見られ、それがトロピカルストーム(熱帯暴風雨)を
発生させ、更に低気圧が発達してハリケーンとなって、カリブ諸島に接近している
という緊急速報がでました。
ハリケーンは「ベリル」という名前です。
7月1日(月)未明にはカテゴリー4の非常に危険な大型ハリケーンになりセント
ルシアが危ないというニュースが報道されました。
ハリケーンはカテゴリーが1~5まであり、5が最大レベルで時速252㎞以上です。
ちなみにカテゴリー4は最大風速209~251㎞です。ドミニカ、セントルシア、
グレナダ、セントビンセント・グレナディーン、トリニダード・トバゴ諸島は
暴風、激しい豪雨と洪水が予想されるので、十分警戒するようにと警報が出ました。
セントルシアは6月30日の土曜日の朝から天気が不安定になり、一日に何度も急に
土砂降りの雨が短時間に続きました。
フィリップ首相はその日の午後に「7月1日よりセントルシアはシャットダウンに入る」
と宣言しました。
シャットダウンとは水道、電気、交通などのインフラや学校、会社、公的機関など国の
すべての機能を停止するということのようです。
JICA事務所からもシャットダウンが出たら携帯電話で安否確認をするので直ちに回答
することやシャットダウンが解除されるまでは自宅待機をするようにと言われました。
日曜日の午後、大家さんから
「我が家の方がより安全だから、夕方からこっちに避難するように」
と言ってくれました。
早めの夕飯を済ませ、リュックにパジャマや着替え、水、携帯電話にノートパソコン、
洗面用具などを詰めて夕方7時近くに迎えに来てくれた大家さんと共に大家さんの家へ
移動しました。
大家さんの家は高台に建っていて、3階建てのがっちりした大きな家です。
室内はとても広く、三つある寝室はそれぞれバス・トイレ・クロゼットが
備わっていて、ホテルの部屋のようです。二つの寝室はゲスト用だそうで、
その一つを使わせてもらいました。
その夜は何事もなかったように過ぎ、家々にともる灯りを見ながら嵐の前の
静けさなのかと思いました。
強風にあおられながら木々が揺れる
激しい豪雨へと変わる家の周りの風景
月曜日の朝も静かで穏やかな天気でしたが、午後3時半ごろから叩きつけるような
雨が降りだし、暴風が吹き荒れるひどい天気に変わりました。
激しい雨音がすべての音を飲み込んでしまったかのようです。
風で木々が大きく揺さぶられ、ときどきバキバキと枝が折れる音もしてきます。
窓を少し開けていたことをうっかり忘れていたので、わずかな窓の隙間から雨が
入り込み、床が濡れてしまいました。
道路が水につかってきた
夕方6時、JICAボランティア調整員さんから安否確認がきました。
間もなくして、セントルシアはシャットダウンに入りました。
電気、水道、インターネットが遮断され、蝋燭をテーブルにともしながら
夕食を食べました。
風と雨が激しく窓を叩き、まるで黒沢映画の「羅生門」の最初の場面のようで、
怖さを感じます。今夜はどんなことが起きるのかと初めて体験する超大型ハリ
ケーンに不安が募ります。
屋根が飛ばされたり、地滑りが起きたり、停電や断水が長く続きはしないかと
あれこれ考えると心配でたまりません。
『なるようにしかならない』そう思いながらベッドに入いると、すぐに眠り
込んでしまいました。
7月2日火曜日、目覚めると風も雨も止んでいて、野鳥たちのさえずりが聞こえました。
朝5時にシャットダウン解除がでました。電気も水も復旧し、シャワーを浴びることができ、
いつも通りの生活ができることに感謝です。
8時にJICAから問題が無ければOKと回答するようにとの安否確認が来て、すぐにOKと
入力し、送信しました。
8時半には視覚障害者協会へ向けて出勤しました。
何事もなかったかのように平和な1日がスタートしました。
カテゴリー4の威力を持つハリケーンベリルは予想されたコースを外れたようで、
セントルシアはかすめた程度で済み、ひどい被害は免れました。
セントルシアの少し南下した位置のグレナダ、セントビンセント・グレナディーン
諸島やグレナダなどは大被害を受け、死傷者がでたと聞きました。
ジャマイカ、更にメキシコのユカタン半島へと進んだハリケーンベリルは
カテゴリー5となり、大暴れしたようです。
ハリケーンシーズンに突入したばかりの時期に今回のように急激に大型ハリケーンに
発達するのは極めて異例だそうです。
カリブ海諸島はこれから次々にやって来るハリケーンにドキドキハラハラです。