- 岡野 宏文, 豊崎 由美
- 「百年の誤読
」
ぴあ株式会社
ベストセラー本の正体を知るために、二十世紀の日本の代表的なベストセラーの大海へと飛び込んだ、岡野さんと豊崎さん。さて、その戦いの首尾は如何に?、な本です。
ベストセラーというのは時代の空気を大きく反映し、また、普段本など読まない、買わない人までをも巻き込むところが特徴であり…。トホホ本が多いことは、本読みの中では周知のことではあると思うのだけれど、1900年代まで遡ってるのは珍しいし、貴重だと思いました。斎藤 美奈子さんの、「趣味は読書 。」に通ずるところもあるんだけど、あちらが一人で書いているのに対し、こちらの本は対談スタイルなので、多少悪ノリする部分も無きにしも非ず。基本、岡野さん、豊崎さん、どちらかの舌鋒が鋭くなってくると、まぁまぁ、とどちらかがとりなしていたりもするのだけれど、作者の顔だの生活だの、二人の突っ込みの範囲は、結構下世話な部分にまで及んでいます。本来、作者の人間性って、作品とは関係ないと思うんですけど。また、一つの作品に割ける頁数の都合か、お互いの意見が割れたりすると、せっかく面白くなってきたところで、なぁなぁで綺麗に纏めちゃっていたりもするので、時々、そこもっと聞きたかったのに!、と思いました。
イイものはいいとお二人も仰っているのだけれど、多少煽情的に書いているせいか、いい作品でもくだらない突っ込みもしているし(というか、こういうのって、真面目に語っちゃうことへの照れというか、反動?)、お二方がダメ!と判断した作品については、もう、本当に糞味噌だったりもします。その作品が好きな場合は、その読み方は違うんだよーー!、と叫びたくもなるのだけれど(例)「ハリー・ポッターと賢者の石」)、私は例によっておおむね楽しく読んじゃいました。下段の、主観溢れる註も充実してました。
ちょっと吃驚だったのが、「銀の匙」の中勘助が、なかなかの偉丈夫だったこと。1885年生まれで身長180センチって凄いよねえ。そして、彫りの深いモテ男だったにも関わらず、人嫌いで病弱、上野の森の奥、墓地の隣のお寺に部屋を借りてたんだそうです…。ああ、私の印象に残ったところも、思いっきり下世話なところだな。汗 そして、この本を読んだ後の弊害は、ついついツッコミながら読書してしまうこと!
真面目な感想を言えば、ベストセラーは時代性もあるので、その時代性を込みで評価しないのは不当だとは思うのだけれど(たとえば、当時は類書がなく、非常に新しかった、とか)、古典だろうが名作だろうが、実際に読んでみて自分の感性を信じる他はないということ。ま、でも、こんなことはみんな分かっていることでもあるよな…。ざーっと百年史が読めるというのが、やっぱりこの本の良いところですかね。大分駈け足ではあるけれど、日本のベストセラー史を一気に読めるのは、やはり貴重でしょう。引用箇所も流石に巧いので、これだけで読んだ気になっちゃったりね。ただしこういう本は、皮肉なことにこれ自身が非常に時代性を持ってしまうので、2004年に出版されたこの本、今読むとやっぱり少し古いような気もします。笑って楽しめる人向けでしょうねえ。
百年への船出 岡野宏文
第一章 1900~1910年
第二章 1911~1920年
第三章 1921~1930年
第四章 1931~1940年
第五章 1941~1950年
第六章 1951~1960年
第七章 1961~1970年
第八章 1971~1980年
第九章 1981~1990年
第十章 1991~2000年
付録 百年の後読 2000~2004年
百年を語り尽くして 豊崎由美
参考文献
索引