「ウォンドルズ・パーヴァの謎」/イギリス人のミステリ! | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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グラディス・ミッチェル, 清野 泉
ウォンドルズ・パーヴァの謎

目次
第一章 アメリカに向かった男の愚かな振る舞い
第二章 六月の午後じゅうずっと続く茶番
第三章 真夏の狂乱
第四章 ニュースが広まる
第五章 もう一人の庭師
第六章 木曜日
第七章 頭の話
第八章 話の続き
第九章 グリンディ警部、事実に気づく
第十章 二と二を足す
第十一章 さらなる発見
第十二章 警部が疑いを抱く
第十三章 マージョリー・バーンズ
第十四章 <女王の頭亭>での出来事
第十五章 カルミンスター博物館に新しい展示物が加わる
第十六章 ミセス・ブラッドリーがひと役買う
第十七章 <生け贄の石>
第十八章 森にいた男
第十九章 頭蓋骨
第二十章 犯罪の話
第二十一章 サヴィル
第二十二章 警部、逮捕にふみきる
第二十三章 ミセス・ブラッドリーの手帳
第二十四章 殺人者

訳者あとがき


舞台はイギリスの片田舎、ウォンドルズ・パーヴァのお屋敷(マナーハウス)。屋敷の主人が突然姿を消し、肉屋には首のない人間の肉がフックでぶら下がった! おまけに誰のものとも知れぬ頭蓋骨(表紙にもありますね)が、点々とその所在を移す。

どうやら、この屋敷の主人は、人好きのする人物とは言えなかったようで、周囲は怪しいひとばかり。おまけにあからさまに怪しい人物が、のっけから登場するのだけれど…。屋敷の主、ルパート・セスリーはどこに行ったのか? 彼は殺されたのか? 頭蓋骨は誰のものなのか?

イギリスの片田舎を舞台とし、村の人物がどうしたこうしたが、延々と語られるこの物語。他愛もない話と思われる中に、きっちりと伏線が張られているわけで、そういうところも含めて、これは典型的な「イギリス人のミステリ(恩田陸さん「
小説以外 」より)とも言えましょうか。

探偵役は、これが変わっているのです。いけすかない精神科医の老婦人、ベアトリス・レストレンジ・ブラッドリー。甲高い声で喋ったり、高笑いしたりするので、周囲の人々には不気味がられてもいる。親しみやすさとは無縁の存在。「訳者あとがき」によると、この「ウォンドルズ・パーヴァの謎」は、クリスティの「アクロイド殺し」とほぼ同時期に発表された作品とのこと。田舎町に老婦人とくれば、ミス・マープルを思い出すわけだけれど、このミセス・ブラッドリーは、ミス・マープルとはずいぶん違うようですよ。

人が一人死に、しかもその体はバラバラにされて、肉屋に吊る下げられるという、幾分猟奇的な犯罪を描いているにも関わらず、割とユーモラスに感じてしまう、ちょっと不思議な作風です。田舎町を舞台にしてるから? 「ミセス・ブラッドリーの手帳」も親切だし(伏線が分かります)、最終章「殺人者」では、ええっ!と驚く。

なかなか強かそうな、このミセス・ブラッドリーシリーズは、本国ではもっと出ているようだけれど、翻訳されているのは、以下のものだけのよう。

グラディス・ミッチェル, 遠藤 慎吾
トム・ブラウンの死体 (1958年)

訳者も版元も(出版年も)異なるところが若干気になりますが、次は「ソルトマーシュの殺人」に行ってみようかな。訳者も「
書斎の料理人 」の宮脇さんだしねえ。