「書斎の料理人」/翻訳家・宮脇氏は料理もこなす
テーマ:世界文化社宮脇 孝雄
「書斎の料理人―翻訳家はキッチンで…
」
コリン・ウィルコックス「容疑者は雨に消える」(文春文庫刊)、クライヴ・バーカー「ミッドナイト・ミートトレイン」(集英社文庫刊)、パトリック・マグラア「血のささやき、水のつぶやき」(河出書房新社刊)などの訳者である、この本の著者、宮脇氏は料理する翻訳家である。
この本には、英米のクッキング・ブック掲載のレシピを参考にして、宮脇氏が料理された、数々のレシピが載せられている。真面目に冷静に書いておられるのだけれど、文章にも独特のおかしみがあって面白い。いやー、こんな風に料理出来る男性って、格好いいよなぁ。しかも連載途中で、彼の元に「女の同居人」がやって来るのだけれど、「こんな面白いことを女に独占させておくつもりなどなかった」のであり、「そんなわけで、今でも夕方になると食事の支度にいそしんで」おり、「できることなら、買い物かごの似合う男と呼ばれたいものだ」なんだそうだ。実に格好いい大人の男性で、宮脇氏が訳されているような本は、これまで読んだことがないんだけど、ちょっとファンになりそう。
目次
第1章 翻訳家とは料理する生き物である
私が料理を作るようになった理由
第2章 翻訳家の料理はインターナショナルである
ホラー小説の翻訳家に「オカルトの血」は流れているか
第3章 翻訳家の料理はときにメイワクである
世紀末のよく晴れた日には干物を作ろう
宮脇氏は翻訳の仕事の気散じのために、料理を始めたのかもしれないと書く。材料の買出しに始まり、どの順番で何をどう切るか。二つのガス台でどの手順で鍋、フライパンをかけるのか。脳みその普段使わない部分を使っているのが分かるのだという。宮脇氏の場合、料理に興味があるといっても、それはうまいものを食べることが出来ればそれでいい、評判の店の食べ歩きで事足りるというわけではない。問題はその過程にあり、「タマネギの成分が熱で変化して刺激臭が消え、次第に甘い芳香を発するときの媚態にも似た化身のさま」、「しょうがの薄切りを酢に漬けたときの、だんだん薄紅色に染まっていく様子」を心ゆくまで楽しむのだという。「料理は、メランコリーの妙薬であり、美しい思い出であり、楽しい理科の実験でもある」(以上、私が料理を作るようになった理由より)。
たいていの料理は英米のクッキング・ブック掲載のレシピからとられているのだけど、少々毛色の変わったところでは、Writers' Favourite Recipesという本と、Grand Dictionnaire de Cuisine(料理大百科)という本があげられるだろう。
Writers' Favourite Recipes の方は題名通り、英米の作家が自分の得意料理を披露したレシピ集。現役の作家の場合は書き下ろしのエッセイが入っているし、物故作家の場合は、その作品の中から食事や料理のシーンを抜き出して紹介してあるのだそう。作家の幅も、純文学系、ミステリ、SFと幅広く、例えばSF作家のマイケル・ムアコックは、胃にやさしいレタスのスープという得意料理を披露している。ここで本命として取り上げられているのは、ハードボイルド・タッチの冒険小説を得意とするギャビン・ライアルによる中華風蟹スープ。この作家は、台所に立って料理をしながら、活劇シーンの構想を練るんだそうな。包丁持ってる所が、活劇にいいんですかね。ちょっと怖いような気もするけど・・・。(物書きと料理の密接な関係について-第1章-より)
Grand Dictionnaire de Cuisine(料理大百科)は、「三銃士」「鉄仮面」「モンテクリスト伯」でお馴染み、父デュマ(「椿姫」を書いた息子と、この父と、アレクサンドル・デュマは二人いる)によるもの。実は父デュマは大の料理好きで、書き溜めておいた料理に関する原稿が、亡くなった後に出版されたそうなのだ。ここからとられているのは、固ゆで卵のオニオンソース添え。卵は半熟で食べるのが一番おいしいけれど、中には気持ちが悪くて半熟の卵が食べられない人がいる。これはそんな人たちでも、美味しく卵を食べられるように開発された類の料理。(文豪デュマはどのようにして卵を食べたか-第1章-より)
翻訳家であるだけに、イカの解体は楽しきスプラッターであるの節などでは、イカの部位の英語の説明もさらりと付け加えられている(sac(胴:袋)、tentacles(脚:触手)、sword(イカの軟骨:剣))。
雑学としても楽しめ、著者自身の文もまた楽しむことが出来るという、なかなかに良い本でありました。料理も美味しそうだったしね。 ハードボイルドな人たちは、碌な食べ物を食べていないイメージがあるけれど、やっぱり美味しいものを食べている方が、幸せそうだよね。しかも、そんな美味しい料理を自分で作ることが出来れば、こんなに幸せなことはない。
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。











1 ■こんばんは!
またお料理の本!いいですね!
これは普通の料理本とはちがう要素がいっぱい詰まっていそう。
いろんな意味で美味しそう。
食の本といえば、「中国怪食紀行」読みましたよ。
別キャラが、ネタにしましたが、つなさんみたいな丁寧なレヴューなしです(笑)