「クラバート」/愛と勇気と友情と | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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プロイスラー作、中村浩三訳「クラバート」

「愛と勇気と友情と」、何ていってしまうと、かの少年ジャンプのようだけれど、この物語は著者が少年の日に出会った、ドイツのある地方に伝わる、
<クラバート伝説>をもとにしており、どちらかというと暗い色彩を帯びている。

<クラバート>はヴェント人の伝説。ヴェント人とは、独自の言語や服装、特色のある慣習、豊かな民族的な伝統を持った西スラヴの小民族。早くからキリスト教化が行われたのにも関わらず、在来の異教の信仰の風習を色濃く留め、口頭で伝承された多くの民話を有し、魔女や魔法使いの伝説も豊富に残っている。

大人になって、改めてまた新しい<クラバート伝説>に出会ったプロイスラーは、自分の<クラバート>物語を書く決心をする。人間の生死に関わる深刻で重苦しい題材の『クラバート』に行き詰まったことで、その反動のように愉快なホッツェンプロッツ氏(「大どろぼうホッツェンプロッツ」)が生み出されたのだそうだ。「クラバート」は、同作者の「小さい魔女」 などとも、かなり趣きの違った物語。児童書ではあるけれど、大人の読書にも耐えうるものだと思うし、強く引き込まれる作品だった。
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仲間の少年たちと、浮浪生活を送っていた14歳の少年クラバートは、夢に導かれ、コーゼル湿地の水車場の親方の弟子見習いとなる。水車場の職人は、クラバートを入れて十二人。水車場の生活は、定められた暦にしたがって続く。クラバートが水車場に来た時の、職人頭はトンダ。トンダは仕事に慣れないクラバートを何かと手助けしてくれるのだった。

聖金曜日の夜、水車場に来てから三ヶ月が過ぎた頃、クラバートは見習いから弟子に昇格する。親方の弟子となった今、クラバートはここがただの粉引き場ではなく、<魔法の学校>でもあることを知る。職人たちはからすの姿になり、親方から魔法の技術を習う。親方が朗読してくれるのは、彼しか読むことが許されない『魔法典』の中の一章。

季節は過ぎる。職人たちは親方の要求に従い、復活祭の前夜は戸外で過ごさなければならない。それも、ふたり一組になって、人が変死した場所で。クラバートは職人頭トンダと<ボイメルの死の場所>で、その夜を明かし、明け方に五線星形のしるしを額に付け合う。夜が明ければ、職人たちは水車場に戻り、今度は親方と儀式を行う。そして、そのまま最後の一人の五線星形の額のしるしが消えるまで、粉引き場で働き続けねばならない。

水車場に冬が来る。冬が来ると、職人たちは週を追う毎に不機嫌になる。トンダだけが、以前と変わらず平静で親切であったが、クラバートにはどこか淋しげに見えるのだった。そして元日の朝、トンダは死ぬ。職人たちは、急いで無造作に死体を埋葬する。そこには、牧師も十字架も蝋燭も、賛美歌の一つも無い。

トンダを埋葬した翌朝、今度はハンツォーが職人頭となる。そして、これまでトンダが使っていた寝台に、ヴィトコーという赤毛の痩せた少年がやってくる。ヴィトコーが着た服はトンダのもので、服はまるであつらえた様にぴったりだった。

水車場での一年が過ぎた夜、クラバートは親方から、年季明けを宣言される。一年での年季開けに戸惑うクラバートであったが、コーゼル湿地のこの水車場では、最初の一年が普通の三年に相当するのだ。

クラバートは死んだトンダの事を忘れられないが、粉引き場での仕事は続く。今度は見習いのヴィトコーを助けるのは、ハンツォーのつとめ。 今年の復活祭の前夜、クラバートとともに過ごすのは、「まぬけ」のユーロー。クラバートは再び、トンダと行った<ボイメルの死の場所>で、この夜を過ごす。クラバートは、復活祭の賛美歌のソロを歌う少女に恋をする。しかしながら、彼女の事は、トンダの忠告通り、親方にも告げ口屋の職人リュシュコーにも知られてはならない。

また一年が過ぎる。元日の朝、次に死を迎えたのは、ミヒャル。ミヒャルの代わりに現れたのは、クラバートと浮浪生活を共にしていた、ローボシュだった。今度はクラバートがトンダがしたのと同じように、彼を助ける。

そう、全ては繰り返し。水車場の職人たちは、毎年元日の朝に、親方の代わりに必ず一人が死なねばならず、その代償として魔法の技術を教えて貰っていたのだ。親方を倒すということは、今まで教えて貰った魔法の技術が無に帰すということでもあり、また失敗した場合は自分の命はない。

クラバートは誠実な友人と、恋した少女の力を借りて、親方を倒し、トンダやミヒャル、トンダの恋した少女ヴォルシュラの敵を討つことを決意する。
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暦に多少戸惑うかもしれないけれど、きちんと注釈が付けられている。
その他、17世紀から18世紀初めにかけてのヨーロッパの歴史的背景、ザクセン選帝侯なども出てくるけれど、これに関しては特に知識がなくとも、何とか読むことが出来る(勿論、知識があった方が、より楽しめるのだろうけれど。私は知識なし)。

在来の<クラバート伝説>から決定的に離れた点は、親方の魔力からの解放に、母ではなく、少女が重要な役割を担ったことだそう。
でも、母よりも少女の方が良いよね? 表紙、挿絵も美しい一冊。

オトフリート=プロイスラー, ヘルベルト=ホルツィング, 中村 浩三
クラバート
プロイスラー, 中村 浩三 ← こちらは、偕成社文庫
クラバート (上)
プロイスラー, 中村 浩三
クラバート (下)