これは昨日の「なぎさボーイ」
の対となる作品。
目次
第一章 女の子以前―十三歳
第二章 遅すぎた予感―十五歳
第三章 あなたについて考えている
多恵子から見たなぎさは、「なぎさボーイ」よりも随分と格好いい。「なぎさボーイ」はなぎさの内面の七転八倒で、周囲に見せたい「なぎさ像」とは違っているから、これは当然の帰結といえるのかもしれないが。多恵子はお節介で感情的な女の子だけれど、デリカシーもあるし(時々興奮し過ぎるきらいはある)、「見守る」ことの出来る女の子。だから、この「多恵子ガール」が、「なぎさボーイ」の補完的な位置にあたる。
「女の子以前―十三歳」は、多恵子が「雨城くん(なぎさ)」のどこが好きかという話。彼女の周囲でごちゃごちゃが色々あって、もっと違う目でいろいろなことをして、いろいろなことを見るんだと決意する、女の子以前の話。
あの人は強い人だ。ほんとに偉い人だ。
あたしはとても、そんな人にはなれそうもないけど、そういう人をわかる人にはなりたい。
拍手する時、その人の後ろにあるたくさんの練習や、いろんな気持ちを想像できる人には、なりたい。
こんなこと言われたら、男の子冥利に尽きるような気がするよ。
男の子限定ではないのかもしれないけど。
「遅すぎた予感―十五歳」は、多恵子の口から語られる受験勉強時代の話。「なぎさボーイ」から見ると、例の「革命」前後の話になる。同じ蕨高校を受けるということで、なぎさと多恵子は、その他、北里、野枝、三四郎を入れたグループを作っていた。楽しい生活の中に不穏な空気が忍び寄る。
何ヶ月かして、あたしはこの日のことを、ある理由から、たびたび
思い出した。
この日の自分の呑気さ、他愛なさがおかしくて、思い出すたび苦笑した。
「あなたについて考えている」は、ライバルにあたる槇修子が、多恵子の前に現れて以降の話。
離れれば離れるだけ、あの人は知らない人になった。他人の顔した人に
なった。
知りたい。
もっともっとあの人のことが知りたい。
あたしはちょっとだけしか、あの人のことを知らなかった。それだけのことだ。
「多恵子ガール」を読むと、なぎさが思っていた以上に、多恵子がなぎさのことを良く見ていたことが分かる。 私はクラスの人気者的な明るい多恵子が苦手で、当時、鮮やかな槇修子に随分と肩入れして読んだものだった。なぎさが色々思い悩むだけあって、槇修子は鮮やかで凛々しく魅力的な女の子。硬質なイメージ。これを読んでいた当時は、なぎさなんて大した男じゃないんだから、そんな男は多恵子に上げてあげるわ、なんて思っていたのだけれど。
改めて読んでの感想は、若いって恥ずかしいけどいいよね、ということかなぁ。この本には、思春期の色々が沢山詰まっている。多恵子の良さ、可愛らしさも、今読んだ方が良く分かる。
- 氷室 冴子
- 多恵子ガール
集英社コバルト文庫
*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。