「むくどり通信」/好奇心の赴くままに | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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池澤夏樹「むくどり通信」

好奇心旺盛なむくどりからとったタイトルで、「私生活」 と同じく「気分」というか、作家の生活、考えた事を、ただ語ったようなスタイル。でも違って来る所が
不思議。文章はこちらの方が好きだけれど、多分色気があるのは「私生活」の方。著者の年齢も違うけれど。

あとがきによると、「むくどり通信」は森鴎外の「椋鳥通信」を盗用(と、書いてある)したとのこと。
名もなき人のものを盗むのはこそこそしていけないが、天下の大文豪のものならば堂々と盗めるという気がしたのだ(あまり説得力のある論法ではないかもしれないが)。

面白い人だなぁと思ったエピソード
「書斎の骸骨」で、骨格標本のキットを買うべきか悩み、素晴らしい骨格のフランス文学者の頭の骨を自分のものにしたいという欲望を感じたり(こちらは、若い時の話みたいだけど)。
マホガニーの羽目板を張った古風な書斎。書棚には革で装丁した古典の数々。細長いガラス窓から差す薄明かり。埃の匂い。その中で、書棚の中央に悠然と鎮座する齋藤氏の世にも美しいしゃれこうべ。これは文人の部屋として理想の姿ではないか。

「はじっこ踏破記録」
東西南北、端っこを踏んでやる!

共感したエピソード
「異文化の毒」におけるジャーナリストとしての心得
ジャーナリストは後に痕跡の残らない取材を心掛けなくてはいけない。
(中略)
自分たちは異物であり、病原であり、攪乱者だという忸怩の思いなくして取材はできない。

■「バットか銃か」
パトリシア・コーンウェル「検視官シリーズ」最初の三作で、これに気付いているのは凄い(というか、私は話がかなり進むまで気付かなかった)。そして暴力は連鎖する。
どうもこの人は力への信仰が強すぎるのだ。ジェイムス・ボンドは最初から荒唐無稽に作ってあるから気楽だが、コーンウェルはもっとリアルな話の中で主人公が正義の力をふるう。同じ女性の探偵役でも、サラ・パレッキーの女探偵ウォーショースキーとはずいぶん違う。友だちになるとしてもケイはまっぴら、ウォーショースキーなら大歓迎というところ。

コーンウェルのインタビューの引
アメリカの暴力性について問われて、彼女はこう答える―「わたしたちアメリカ人は、インディアンや無法者やカウボーイと戦ってきました。生存競争をしてきたから、遺伝子の中に攻撃的な本能があるのではないかって気がする」。多くの読者を持つ作家としてはいささか無神経な発言だと思う。この三者の中で撃ってもいい相手は無法者だけではないか。インディアンは銃を持ってさえいなかった。

「ミステリーは細部に宿る」
タイトルだけでも、非常に納得。高村薫「神の火」についての言及もある。


今度は是非小説を読んでみよう。

池澤 夏樹

むくどり通信

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、御連絡下さい。