令和5年6月
私はエギングを捨てた。
エギングへの愛情は失くしていない。
この10数年、変わることなく愛し続けてきた。
例えシーバス釣りにうつつを抜かそうとも、決して忘れることはなかった。
嘘ではない。
エギングは特別な存在なのだ。
ルアーフィッシングの入口であり、過程であり、検証であり、何より私にとっての原点だった。
だがクソである。
2年前から春のアオリイカが釣れない。
昨シーズンに至っては釣果ゼロだった。
今年も早い時期から頑張っているが、ダメだ。
かすりもしない。
エギングは身近なものではなくなった。
近場の漁港は全て立入禁止となってしまったので、はるか遠方まで足を延ばさなくてはならない。
近い未来にはショアからのエギングなんて出来なくなるんじゃないか?
だからこそ今を。
この瞬間を大切にしたい。
私は丑三つ時に目覚め、バカ高いガソリンを浪費し、暗い道中で非科学的なモノを見てしまわないよう祈りながら、雨の日も風の日も足繁く現地へ通った。
連日の寝不足がたたったのだろう、5月に入ってから仕事のパフォーマンスが急激に低下した。
勤勉実直を売りにしてきた私のキャリアは見る影もなく「昼飯を食ったが最後おやつタイムまで死んだように眠りこけるおじさん」と化してしまった。
春先まで感じの良い人だと思っていた取引先の新人女性事務員は「なんで電話出ないんすか(怒)」とあからさまに上から目線の物言いをするようになった。
そんな幾多の代償を払い、気が遠くなるほど長い時間を費やしたのに結果はついてこない。
かれこれ3,000回はしゃくってるはずだが、ゼロだ。
クソである。
とうとう堪忍袋の緒が切れ、アジを餌にしたウキ釣りへ移行することに決めた。
ヤエン釣りは私にはハードルが高い気がした。
とにかく、エギングが憎い。
この釣りを継続する気力はもう残ってなかった。
夜明けの海を眺めながらぼーっと過ごすのも悪くないだろう。
何だかワクワクする。
ここ暫くはルアーを使ったアクティブな釣りばかりだったが、私は元来のんびりとした待ちの釣りが大好きなのだ。
ただウキ釣りは殆どやったことがない。
知識も金もないので、まずは安い磯竿を探した。
ダイワ : リバティクラブ磯風
シマノ : ホリデー磯
最終的にこの2つに候補を絞ったが、ホリデー磯はなんだか名前がバカっぽい感じがしたのでリバティクラブ磯風にした。
そのお詫びと言ったらなんだが、リールのほうは謹んでシマノを選択させて貰った。
手始めに生きたアジを使う泳がせ釣りを目論んだ。
現地でアジを調達するスタイルだ。
生き餌に勝る餌はなし。
この日は夕まずめから夜にかけての釣行。
こんなに心踊るのは久しぶりだ。
幸い少しかじったことがあるので、ポンプやバッカンなど道具一式を新たに揃える必要はなかった。
「最近アジ釣れてます?」
遡ること15時の釣具店。
安い外国産アミをレジに持ち込んだ時、柔和な笑みを浮かべた若い店員が何だか気になることを言った。
…ふん。
ズブの素人であることを見透かされた気がして、私は少々つむじを曲げてしまった。
アジ釣れてますだぁ?
君は何を言っとるんだね。
目上の人間を馬鹿にしてはいけないゾ!
この時期サビキでアジ釣るなんて楽勝やろうもん。
ははぁん、もしかして高価な国産アミを買わせるための営業トーク?
おあにくさま、「お墨つきアオリイカするする」を大人買いしたせいでお金残ってないですー。
店員さん、あなたは正しかった。
釣れども釣れども5〜6cmのマイクロアジのみ(涙)
どうやら今年はアジの成長が遅いのか、豆にすら届かない中指第2関節サイズのチビっ子だけ。
5号のサビキ針にすら口が小さ過ぎて掛からない。
こ、これはまずいぞ…。
冷凍死にアジなど端から用意していない。
なんと浅はかなことだろう。
店員さんの気遣いに耳を貸さない頑固者など、撒き餌ブロックの角に頭ぶつけて死んでしまえ!
ただ、嘆いてみても始まらない。
私の計画は早くも頓挫しかけているのだ。
生憎近くにはスーパーも釣具店もない。
…どうしよう?
私は頭を抱えてしまう。
こ、このマイクロアジで勝負するのか?
こんな小さいアジ、イカは気づくのだろうか?
やっぱり気づかないみたいです
(4時間アタリなし)
後日もちろん冷凍アジでリベンジ。
手のひらサイズで申し分ない。
やっぱり釣具店のアドバイスはきちんと聞こう。
謝罪の気持ちを込めて、追加で必要となった電気ウキや仕掛各種はネットで買わず釣具店で購入。
冷凍アジは一匹ずつ丁寧に塩漬け。
こうすることで鮮度を長く保てるらしい。
歯を食いしばっての深夜起床、3時に現地入り。
今日こそ絶対に釣る。
私は清く正しく生まれ変わるのだ。
闇に浮かぶあのグリーンカラーに誓う。
遂に待望のアオリイカがヒット!!!
とうとうやった!!!
4時ごろ1キロ、6時ごろに1.7〜8キロクラス。
嬉しい、嬉しい、嬉しい…
もう涙で何も見えないや。
ウキ釣り、超楽しいやん。
※大きいほうのヒット時、おしっこに行ってました
戻ってきて「あれぇウキがない?」「おかしいなぁ、おかしいなぁ」などと呟きながら巻いてみたら…釣れてました