初めてシーバス釣りで満足したかも知れない。
丸4年、ひたすらこの釣りに打ち込んできた。
暇を見つけては竿を担ぎ川へ行く。
元来凝り性の私は他が見えなくなるほど夢中になり、全ての用事はシーバスの後回しとなった。
この間シーバスに近づくための努力なら惜しむことはなかったし、この先ライフワークとして成立するであろう不変の魅力を充分感じていた。
シーバス釣りは最高。
とにかく楽しくて仕方がない。
だが肝心の釣果は一向に伸びず、思うような理想の釣りが出来ない。
数も出ない、サイズも出ない。
月1本のスズキクラスという目標すら風化した。
SNSで他の方々の堂々たる釣果を見ては凹み、自分はつくづくこの釣りが理解できてないのだなぁと肩を落とした。
勘も鈍けりゃ頭も悪い、そんな不出来な私にはシーバス釣りの壁は途方もなく高かった。
下手の横好きとは昔の人はうまいことを言う。
私にぴったりの言葉だと思う。
【3年目】
釣行初日、同ポイントでついにやった!
40台半ばの所謂「川ヒラ」が釣れたのだ。(当時はこの魚のことを知らず、後々写真を見てそれと気づく)
水の透明度のせいかミノーを流しても反応がなく見切られている感じ。ならばとシンペンを使ったリアクションの釣りへ移行した矢先のヒットだった。
後ほど同じくらいのサイズをひとつ追加。
2日目もスイッチヒッター85S頼みのプランで挑んでみたが、思惑通り魚が出たのには正直驚いた。
し、しかもデカい…!
自分の血が一気に逆流したのが分かったが、喜んだのも束の間、念願のファイトは呆気なく終わった。
簡単に根に潜られてラインブレイク。
PE1号にリーダー4号。
あまりに緩すぎたドラグ。
己の不明を恥じるだけの結果となった。
昨年、別エリアの河川で60upのシーバスを釣った。
SNSで川ヒラだと指摘を受け驚愕。
何せこれまで想像すらしたことがないのだ。
私には一生縁がない魚だと思っていただけに、後から込み上げてくる喜びはハンパじゃなかった。
銀ピカの煌びやかな風貌、隆々とした体躯。
その美しさに一気に気持ちが傾いた。
九州でも特定エリア内の河川で釣れることは知っていたが、まさか自分にそんな日が訪れるなんて。
次があるのなら偶然の産物でなく。
私は狙って釣りたい。
出来ればスズキクラス以上がいい。
気付けば思いは膨らむばかり、ヒラスズキという魚にすっかり魅せられてしまった。
そして、4年目(今年)を迎えた。
潮は小さいが、夜間は涼しく秋めいてきている。
現場に着いてみれば先行者の姿もない。
…よし、やれるだけやってみよう。
1年振りとなる憧れの挑戦、私の期待は高まる。
昨年の苦い経験からラインは強めにした。
道糸はよつあみアップグレードX8のPE1.5号。
リーダーはシーガーGrandmaxのフロロ7号。
これなら大丈夫…だと信じたい。
ルアーを慎重に選び、アップからゆっくり流す。
スタスイ100S、サーフェスワンダー90、ハードコアミノー110F、クロスカウンター97F、コスケ110F。
お気に入りをひと通り試すも反応はない。
急に足元で小魚がわちゃわちゃ跳ねた。
イワシだ!
私は正直カタクチとトウゴロウの判別がつかないのだが、今年も運良くベイトが入った状況に出くわせたこと、思わず感激してしまう。
カタクチのほうが圧倒的に食いが立つらしいので、全身全霊をかけカタクチであることを祈る。
一気にテンションが上がるがここはグッと我慢、しばらく場を休ませることにした。
いい感じに流れが効き始めた。
ここらが勝負時だろう。
本命のスイッチヒッター85Sを取り出す。
やはりリアクションの釣りでいこう。
スローなワンピッチジャークのイメージ、軽くトントンとしゃくり上げフォールで誘う。
私的には瀕死のイワシを演出してるつもりだ。
1時間近く続けたろうか、一向にバイトは出ない。
流れも滞ってきた。
やはりそう甘くはないか…。
さてこれからどうしよう?と頭を悩ませながら、ぼちぼちルアーがストラクチャーの真上を通るかというタイミング。
突如ロッドが引き込まれた。
うわ、きたっ!
素早く合わせを入れロッドを立てて踏ん張る。
こりゃ…大きい!
これを待ってたんだっ!
どっしりとした重量感、喜ぶ余裕はない。
魚が根に潜るのを無我夢中で食い止める。
同じミスはしない、絶対しないぞ!
私は耐えるのに精一杯で血管がはち切れそう。
やがて魚は上流へ走りはじめる。
は、早く観念してくれ…。
ドラグは締め込んでたつもりだが、音を立て少しずつ少しずつラインが引っ張り出される。
慌ててドラグを締め直す。
とにかくラインは1mmたりとも出したくない。
魚の猛攻を凌いでは巻き、凌いでは巻き。
突然のエラ洗い!慌ててロッドを水平に寝かす。
…もう勘弁してくれ。
…とても精神が持たない。
わずか数分のはずなのに、死にもの狂いの私には恐ろしく長い。
ようやく姿が見えた…やはりいいサイズ!
目標にしている60cmは優にありそうだ。
私にとっては申し分のない魚。
くっ…この魚を待ってたんだ…。
気持ちが高ぶって泣きそうになる。
取り出したネットを水面に滑らせる。
バシャ!バシャバシャ!
魚が暴れた。
まだ元気が残っているのか。
派手な水飛沫を伴い、魚は最後の抵抗を見せる。
すがるような気持ちで再度ネットをあてがう。
お願いだ、入ってくれ。
…頼む。
…頼む。
………
………
………
魚がネットに収まる。
………
言葉にならない。
念願のヒラスズキだった。
歓喜、安堵、感動。
いろんな感情が獣のように押し寄せて来て、私はその場にへたりこんでしまった。
とうとうやった…。
私に…私にもヒラスズキが釣れた…。
冷静になって振り返れば、もっと写真を残しておくべきだったと思う。
何せ一年一度の挑戦。
しかも私はこんな体たらく。
二度とお目にかかれるか分からない。
後で確認してみたら、久々に取り出したヨレヨレのメジャーに思わず苦笑い。
大金星のルアーの姿すらないじゃないか。
だが、私にそんな余裕はなかった。
釣れた後のことはあまり覚えていない。
憧れの魚をゆっくり眺めることも出来なかった。
こんな立派な魚は早く逃してやらなきゃ。
とにかくそればかりが先行してオタオタしっぱなし、数点のみ写真に収め慌てて水に戻す。
…大丈夫か?
蘇生に入るまでもなく、力強く一発水を叩いた後ヒラスズキは元の棲み家へ帰っていった。
………
魚を見送った後、しばらく佇む。
今日のために釣りをやってるんだよなぁ。
私は大きく息をつく。
心に残る釣り、心に残る魚。
これ以上何も要らないや。
こうして、私の4年目の挑戦が終わった。
まぐれだと自分でも思う。
騒ぐ程のサイズじゃない事もよく分かっている。
だが私は狙っていたのだ。
この川でヒラスズキを釣るんだ、と。
それが叶ったことが何より嬉しい。