シーバス釣りを始めた当初一番困ったこと。


カタカナ用語がさっぱりわからない。


凍りついてしまった。

この世界は未知の言葉で溢れ返っている。

ネット、雑誌、動画…。

ずらりと並ぶ見知らぬ横文字。

一体何を言っているのだろう?

私は全く理解できなかった。


交流会などでうっかり出会ってしまった意識高い系のイケメン。

あの時の感じに良く似てる。


「まずはグランドデザインっすよ、それがないとスタッフもプライオリティ立てにくいでしょ?会議でいくらイシュー洗い出しても意味ないですって、ゴールわかってなきゃ 」


私はスタートからつまづいている。





シーバス釣りに手を出した2019年。


まずは手堅く情報収集から始めた。

しかし業界用語の傍若無人な横行ぶりに、呆気なく心が折れた。

とにかくわからない…。

エギングや青物などルアーフィッシングの経験は多少あるのだが、独学でのんびりやってきたせいか私の知識は全く役に立たない。


元々、釣りボキャブラリーは貧しい。

ましてやきちんと勉強したこともない。

【リトリーブ】などの極めてオーソドックスな言葉以外は殆ど耳に馴染みがないのだ。

ターン?トゥイッチ?バイト?

私にはちんぷんかんぷん。

ちんぷんかんぷん、とか言ってる時点で既に負けなのだが。

漢字だと何となくイメージが伝わってくるが、カタカナでは完全にお手上げ。


初めて買ったシーバス釣りの雑誌。

【今すぐ使えるはじめてのドリフトゲーム】

【入門者に役立つヒント教えます】

惹かれるフレーズが目についた。

これは良さげだな、私にぴったりだ。

どれどれ…


【ドリフトとはラインスラックを利用したルアーのプレゼンテーション。

ユラユラ流下するベイトをイミテート。

ロッドの上げ下げでラインスラックを調整し、ターンさせる位置をコントロールしよう】


…何かの間違いだろうか?

さっぱりわからない。

入門者に役立つヒントが一体どこにあるのだろうか?

暗号を使った政治的メッセージ?

私は目を瞑り、そっとページを閉じた。


こりゃ長くかかりそうだぞ。

私は覚悟を決めた。

イチから徹底的に勉強しよう。

それしかない。





学生時代、独自の暗記法を駆使していた。

私は暗記が大の苦手。

そこで、覚えにくいワードに対してある工夫を施していた。

その工夫とは【連想するワードに一時的に変換してみる】こと。

これは私にとって非常に有効な手法で、あらゆる科目に通用した。

とにかく頭に入り易い。

元素記号「水兵リーベ僕の船」の応用版といったところか。


例えば同じ化学の分野で「イダルビシン」という有機化合物があったとする。(いまネットでパラパラ見て目についただけ、全然知らないけれども)

イダルビシン?

聞いたこともないし、非常に覚えにくい。

仮にイダルビシンという単語がすんなり頭に入っても、今度はそれが有機化合物には繋がりにくかったりする。


ここで私の必勝法。

パッと浮かんだ連想ワード「イタい美人」に変換してみる。


イダルビシン → イタい美人 → 有機化合物


有機化合物はイタい美人

イタい美人はイダルビシン


こういう図式にすると案外覚えやすい。

暗記が楽になる。

ケツの青い十代、私はこうやって苦手分野を乗り越えてきたものだ。





当然、このシーバス釣りに用いた。

私はとにかく必死だった。

その甲斐あってか連想ワードを使った独自の暗記法のお陰で、あれだけ意味不明だったカタカナ用語も徐々に理解できるようになった。

昔取った杵柄がまさか今頃役に立つとは…。

なかなか感慨深い。

涙ぐましい努力のもと、私はついに用語マスターの境地に到達したのだ。


※実際に使用した連想ワードの一例


【ドリフト】→  頭文字D

【ウォブリング】→   チャネリング  

【ローリング】→  ストーンズ

【トゥイッチ】→  tonight

【ジャーク】→ 

【ウェーディング】→  ドレス

【バーチカル】→  ばっち来い


まさに三つ子の魂百まで。

感無量である。

ルアーをちょんちょん動かすtonight。

tonightはトゥイッチ。

完璧だ。

思ったほどの時間は要しなかった。

私の頭はまだ錆びついてはいなかった。


但し、この暗記法にも弱点はある。

連想ワードのイメージが脳内にずっと定着してしまうことだ。

私がいま【ドリフト】で真っ先に思い浮かべるのはラインスラックなどではなく、トレノのハチロクなのである。(もしくは豆腐)


へぇ、アイマから新作ミノー出たんだ

クオリー105F?

どれどれ、一体どんな感じなんだろう…

なあんだ、霊界交信のほうかぁ


自然とこんな具合になる。





今では粗方ついていけるようになった。
もう大丈夫だ。
先日【シミーフォール】なる初の用語に出会ったが、大西フォールで難なくクリアした。
大西さんはストーンズでROCKしながら堕ちてゆくのだ。

私ごとき素人が釣り業界にモノ申す、なんて百年早い。
郷に入っては郷に従え。
なんの異論もない。
ただ私は生粋のアナログ人間。
時計は80年代で止まったままだ。
当然、横文字は得意じゃない。
なので小沼正弥氏が使う「巻き、流し」の表現は結構好きだったりする。


擬餌釣りの人気標的、鱸。
鮗の習わしでは巻き、落ち鮎の習わしでは流しの釣りで狙うのが一般的。
止め兼行きや、揺らぎや煽りなど反動喰いで狙うのも効果的だ。
重要なのは小魚の存在。
擬餌交換を小まめに行いながら、力強く筋肉質な八十鱸を手中に収めよう。


むむ。
やっぱり横文字がないと見辛いですわね。
こんな雑誌あっても誰も買わないな。