何も釣れなくて…夏。
釣れぬ、釣れぬ、釣れぬ。
全く釣れぬ。
私はとうとう無の境地に達してしまった。
無、無、無。
もう1ヵ月半ほど全くの無だ。
私は川で何をやっているのだろう。
暑さで頭をやられたのか思考が定まらない。
すでに感情も見失った。
ノーバイトが常態化し、釣れないことへの不満ももはや一切なくなった。
雨の恩恵も感じず、濁りの恩恵も感じず。
ただ時間だけが流れた。
現場には足繁く通っている。
観たいオリンピック競技を録画してまで行っている。
ホームから県外の河川まで。
汗を流して頑張ってはいるのだ。
しかし。
無、無、無。
なんにもない。
でも、別に悲しくもない。
記憶に残る唯一の出来事。
ラーメンに当たった7月のある昼下がり。
襲った激痛、トイレに行く余裕さえなかった。
そのまま茂みの奥でだっぷんだぁ。
これだけ。
他はなんにもない。
でも、別に悲しくもない。
そんな私、つい先日に大分県中津市のある河川に立った。
実は昨年の同じ時期、デイゲームで炸裂した一日があったのだ。
真っ昼間に70越え・60越えの2本。
純チャン・三色の美しい満貫。
普段はせいぜい食いタン・ドラ1止まりの私にとって、これは大金星もいいところ。
今年もあやかりたい。
というより無から救ってほしい。
藁にもすがる思いで、前回と同ポイントへ日中エントリー。
このところ全く感じられなかった高揚感。
やはり実績という二文字は強い。
駐車場からの足取りの軽いこと。
ゴミが浮いて汚ならしい川面すら輝いて見える。
私は意気揚々と目的の橋脚へ歩く。
ここは全体的に流れの緩い河川なのだが橋脚下流側の一部だけが掘れていて、下げ5分あたりからそこだけ流れが効くことを知った。
昨年のヒットは正にそのタイミングだった。
今日こそ絶対に釣る。
空虚な日々にさよならしよう。
…あれぇ?
橋の上に3人ほどの若い方がおられる。
ええ~何してるん(涙)?
アングラーなのかはわからないが、この暑い中、楽しげに話しながら川面を眺めている。
痩せた人とメガネの人。
もう一人は恰幅がよろしい。
懐かしのズッコケ三人組のような風貌に親しみを覚えるが、彼らの視界の先は私がまさにこれから撃とうとする水面、ピンポイントだ。
こ、これはまずいぞ…。
一気にテンションが下がる。
話も弾んでいるようで、立ち去りそうな気配は微塵もない。
どうしよう?
目の前には実績ポイントが転がっている。
今夏で唯一期待できるシチュエーションだといっていい。
しかし、そこで釣りをするには三人ものアツい視線に耐えなければならない。
…
…
だめだ。
私はナイーブな中年。
釣りをしている姿など他人に晒したくない。
隣のアングラーからチョイと見られる程度ならまだしも、橋の上から一挙手一投足を見られるだなんて…。
只でさえ脆い私の心が変形してしまう。
それだけはごめんだ。
はぁ。
仕方ないか…。
彼らの視界から外れるまで、とにかく下流側へ歩いていこう。
ただ、この先は期待できるポイントはない。
あーあ。
ちょうど流れが効きはじめて、絶好のシチュエーションだったのにな。
諦めるしかないか…。
私の夏は終わったようだ。
栄冠は君に輝く、が頭の中を駆け巡る。
やっぱり無の境地からは逃げられない。
彼らに全く罪はないが、なにか大きなものへの強い怒りを感じずにはいられない。
ゴボッ
へ?
大きなボイル音。
…だよな。
うそでしょ?
一瞬だけど大きな魚影がちらりと見えた。
デカい。
近視の私だけど、ボラが跳ねたわけではないことだけは確信できた。
…
…
…いこう。
こんなチャンスはまずない。
というよりボイルを見たのはいつ以来だろう。
胸の高鳴りが抑えられない。
絶対逃してなるものか。
ここが今夏のラストチャンスだろう。
…
仕方ない。
心を殺してやり過ごそう。
橋の御三方は幽霊だと思おう。
早く。
私は素早くロッドを繋ぎ、テンポ良くルアーをセットした。
サイレントアサシン99F。
安定のARC。
三人の視線を感じる。
失投の憂き目に逢いたくはない。
先ほどのボイル位置めがけて、ルアーをフルキャスト。
着水後、いきなりHIT❗️
うおー!!!
っしゃー!
一投目でいきなり?
期待を裏切らないARC。
さすが!
めちゃくちゃ引く。
おうおうおう!
頭上の三人のことはすっかり忘れ、私は思わず歓喜の声を上げてしまう。
おうおうおう!
こりゃあデカいわ。
久しぶりの魚の引きに我を忘れる。
堪らない。
釣りはいい。
やっぱり釣りはいい。
こんなに走るのか。
久しぶり過ぎてすっかり忘れてしまった。
ドラグは結構締めていた筈だが、ラインはどんどん引っ張り出される。
魚は下流へとにかく走る走る。
間違いなく今年一番の獲物。
ま、まさかのランカーとか?
ランカー?
おいおい。
私は思わずほくそ笑んでしまう。
昨年が70upで今年はランカー?
流石にそれは出来すぎだろう?
1ヶ月半もの間、とんとご無沙汰だったのに。
まったく意地の悪い神様だなぁ。
下げて上げて。
高田純次じゃあるまいし。
あ、高田純次なら逆かぁ。
ふふ。
最後にランカーですか?
最後にランカーですか?
最後にランカーですかぁ?
私はぶつぶつ独り言を呟きながら、薄ら笑いのままラインを巻き取る。
とにかく笑いがとまらない。
っと、バラさないように。
過呼吸になりそうなほど私は興奮する。
落ち着け。
とにかく落ち着け。
ここでバレたら取り返しつかんぞ。
橋の上から見てるぞ。
…
…
…
…
…
慎重にやり取りを続けながら、ようやく魚があがってきた。
ランカーダツ
ありがとうございました
あーあ…。
穴があったら入りたい。
シーバスとダツの区別すらつかないとは…。
よくよく見たらダツがうじゃうじゃ。
あの三人、ダツの群れを見てたのか。
そうか、そういうことか。
一気に脱力してしまい、そのまま終了。
もう釣りを続ける気力はない。
帰りの足取りの何と重いことか。
はぁ。
1時間以上かけてやってきて、これかぁ…。
本当に救いがない。
ふと思う。
私の笑顔は彼ら三人にどう映っただろう。
おっさんがダツ掛けて喜んでる姿はどうだったかい?
私には彼らの失笑が聞こえたような気がした。
彼らにこのブログが見つかりませんように。
小さな願いと共に、私の夏は終わった。