2019年10月。

河川シーバスの新参者である私は、トライ&エラーの旅路を経てとうとうミノーへ辿り着く。

釣果を振り返れば黒星の歴史。

釣れない釣りばかり繰り返してきた。

3タテを食らうどころの騒ぎではなく、私にとってのシーバスはすでにミヤマクワガタばりの希少性を持ってしまった。

6月デビューより全力で駆け抜けてきたが、私には目覚ましき釣果はついてこない。

私なりに努力は続けてきたはずなのに。

どうしてこうも上手くいかないのだろう。
私はかつてないほど落ち込んでしまう。

やっぱり運が悪いのかな…。

初めてのキン消しガチャの中身が2個ともイワオだった私は、生来ツキに恵まれていない。

運の良し悪しなど関係ないのだろうが、心の弱い私は何かに責任転嫁をせずにいられない。






しかし季節はハイシーズンの秋。

名誉挽回のチャンスかも知れない。
ここは気を取り直して頑張ってみよう。





問題は主戦となるべくミノーをどれにするか、である。

10年来の馴染みであるいつもの釣具屋さんで物色してみることに。

陽気なオリジナルソングが鼻についてしまう。
月曜の教室で僕が言った。
そんなに力んでいったい僕は何を言ったのだろう?
いつも瞬時に忘れてしまう。




さてシーバスミノー。

店内コーナーに入るや否や私は驚いてしまう。
一体この数の多さはどうなっているのだろう!
フローティングにシンキング。
リップ付きにリップレス。
小振りなサイズからどデカイやつまで。

こんなにあるのかぁ。
あまりの量の多さに私は戸惑いを隠せない。

このボリュームからのチョイスは酷である。

これは難しいぞ…。

ウォーリーを探すことに飽きはじめた後半あたりの難易度だろうか。
私のような素人は卒倒してしまいそうだ。





いっそのこと店員さんにオススメを尋ねてみようか。

それぞれの店員さんの名前まで正確に把握している私だが、内向的な性格上、こちらから話しかけたことは過去一度もない。

ましてや私はこの一ヶ月あまり、親の仇の如くコアマンVJを買い漁っている。

来る日も来る日もVJ一択。
昨日もVJ、今日もVJ、明日も多分VJ。

あたおかに近い。

なんかスタッフ間で変なあだ名つけられてそうな気がする…。

ネガティブな私はやはり話しかけることが出来ない。







秋シーズンには大き目のミノーが良いと聞く。
そんな中でひとつのルアーが目についた。

アイマ/コスケ110F。

ああ、これか。
私の愛読ブロガーさんがおすすめしてたやつだ。
その記事を読んだ私は以前から気になっていたのだ。

お目目が可愛い。
キュートな風貌に一目で惹かれてしまう。

…よし。

私の10月はこれに託してみようか。



カラーはレッドヘッドに決めた。

天然ベイトにはほど遠いホビー感。
ローコストを地で行くような単調な塗装。
これまでの私なら一番最初に避けるカラーだ。

しかし、私の感性はもう信用できない。
私は紛れもないシーバス音痴だ。
ここまでの結果が物語っている。

レッドヘッドは定石、この噂に素直に従ってみよう。

ただそこはヘソ曲がりな私、陳列されている中でも一風変わった欲張りなレッドヘッドを選んでしまう。

クリアボディのゼブラ模様にして腹オレンジ。



一際目を引く派手な出で立ちは界隈の傾奇者と言ったところか。

(哲)チルドレンの私にはお似合いかもしれない。


こうして私はアイマ/コスケ110Fを手に入れた。












ここからドラマが始まる。

この後、私はこの釣具屋さん近くの防波堤でコスケ110Fのスイムチェックを行った。
かつて60時間ノーバイトを味わった忌まわしき場所である。

暮れ残る17時近く。
時間もあった私はお遊び程度、ほんの試し投げのつもりだった。

わずか5~6投目だったはず。
人生初のタイトローリングの動きを楽しみながら、てろてろ遅めのリーリングをしていた。


ゴツン!
突然ひったくるような強烈なバイトがあった。


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


…私は声を出せない。
あまりの驚きに声を出すことが出来ない。
嗚咽のような呻き声を発するだけで精一杯だ。


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


途中からシーバスではないことに気づいた。
これは青物だ!
しかしこちらはエギングロッドにPE1号の虚弱体質。
ただ幸いなことに付近の釣り人はゼロ。
私はドラグを緩め長期戦に持ち込む腹を決めた。


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


まだ声は出せない。
現実が把握できない。
エギングロッドは折れそうなほどしなる。


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


ラインを巻いては出して巻いては出して。
何度繰り返しただろう。
随分と長い時間に感じた。
そして、やっとこさ魚体が見えてきた。

…しかも黄色い!

ま、ま、まじ?

あ、あの方なんですの?

苦労してネットインしたお魚、まさかのヒラマサ70cmちょい!!


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあー…

ふう。ふう。ふう。


本命ではないが…これは嬉しすぎる。
今年はシーバスに夢中で例年の磯通いが出来ていない。
こんなギフトがあるなんて…。
この波止ではたまに上がると聞いていたが、まさかシーバスミノーで?
私は泣いてしまいそうだ。

コスケ110Fで金星。

ほーらわっしょい、わっしょい、わっしょい。







すっかり気をよくした私。

2日後にはコスケ110Fを抱え、初のポイントへ挑戦してみることに。
以前よりマークしていた河川だが、この日は都合により生憎のナイトゲーム。
圧倒的なキャリア不足のため、初場所のナイトゲームは気が重過ぎるくらいなのだが、先日下見は済ませている。

郊外にある清流河川だからかな、夜中でも水が透き通っているのが分かる。
とっても綺麗だ。

夏の電気に纏わりつく蛾のように、私はふらふら橋脚の常夜灯へ向かって進む。

常夜灯下の明暗は鉄板ポイントのはずだが、幸いアングラーは誰ひとりいない。

ここでも勝負は早かった。
まだ30分やそこらしか投げていない序盤。

上流側にキャストしてゆっくりリトリーブ。
流れに身を任せ、てろてろ巻いていると…


ガツっ!
明確なバイト!


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


…くっ、こんなことある?
初場所でいきなり?
やはり私は声を出せない。


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


ついにきたのかシーバスが?
私の自己ベスト(フッコ50)を凌ぐ引きだ。
これは絶対にハズせない。


あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ
あーぃあーぃあーぃ


慎重に手繰り寄せると…
残念。
またもや本命ではなかった。
60cm近くはありそうな良型マゴチ
しかし私にとっては申し分のない獲物だ。
まさか初場所でお魚に出会えるなんて…

コスケ110Fで金星。

ほーらわっしょい、わっしょい、わっしょい。








その後1日ほど安定のホゲ散らかしを決め込み、迎えたコスケ110Fの4日目。
私の好きな河川デイゲーム。

最近私が回った中では一番流れの強い、お気に入りになりつつある河川。
しかもアングラーの姿は殆んど見かけない。
穴場のポイントなのだろうか。

この1ヵ月というもの、バイトがあったのは全て満潮からの下げ始めだった。
この日は大潮2日目、万全を期し満潮の潮止まりからエントリー。

生憎の雨ではあるが、頭をハゲ散らかしてしまうこと以外のデメリットは感じない。
むしろシーバス釣りにとっては吉だとも聞く。

コスケ110Fに祈りを込め、釣りを開始。


リトリーブスピードに強弱をつけてみたり、立ち位置を変えトレースコースに変化をつけてみたり、自分なりに色々試してみる。


流れも強まり雰囲気はあるのだが、出ない。
待ち焦がれるアタリはない。




もう2時間は経った。
残念ながら何も起こらない。



やはりそう甘くはないか…。
雨足も強まり、いよいよ諦めかけたとき。


? ?

いま?

コスケをピックアップした瞬間、チラリと魚影が反転したような…?

雨の雫のせいで水面が揺らぎよく見えない。
近視の私には尚更自信がない。

魚がチェイスしてきた?
まさか、なあ…



でも。ひょっとしたら。

今度は早巻きでコスケをリトリーブしてみる。



ガンッ!

うおお!!!

食った!!!




来た!!
ついに来た!!!

くはぁ~やった!


こりゃかなりの重量感だ。
魚は下流へ下流へ走る。
おろ、まずい。まずい。
橋脚が近い、これでは巻かれてしまう。

あわててドラグを締め、覚悟を決めてガチンコ勝負へ。


あー、飛んだ!

エラ洗い…っシーバスや!

おっおっおっ…

魚は必死の抵抗を見せる。

無我夢中の私はそれ以上の抵抗を見せる。


バシャバシャバシャバシャ!


大きいぞ。


いろいろな感情が込み上げてくる。


張り裂けそうな心臓をなだめるように、私はゆっくりと深呼吸してみる。


冷静に冷静に。


しかし、不慣れな私はジョイント式ネットを片手で上手く開けない。

私は焦る。

くっ…この。


雨は土砂降りに近い。

視界が悪い。

雨のせいか涙のせいか。

私には魚以外もう何も見えない。


やっとネットが開く!

よし!

私は震える手でそれを魚へ持ってゆく。

頼む…入って。

本当に頼むから…。

頼むから…。





バシャバシャ!








ネットインしたシーバスは67cm。

人生初のスズキクラス。









リリースを済ませた後も私はしばらく呆然としていた。
土砂降りの中、川のほとりに突っ立っていた。

今の夢じゃなかろうか?
本当に釣ったんか?
ずっとずっと釣れんかったのに?
スズキクラスのシーバスを?
この私が?

そもそもシーバスフィッシングの動機は浅はかだった。
これまで続けている春のエギングと秋の青物。
それ以外のシーズンオフ。
その間を埋められればいい。
暇つぶし出来ればいい。
シーバスとの馴れ初めはその程度だった。

始まってみれば苦難の連続。
これまでの人生で一番釣れない釣りだった。
釣れない、釣れない、釣れない。
私にはシーバスが釣れない。

気付けば人生で一番ハマっていた。
時間の許す限りフィールドに向かった。
繊細で奥深いこの釣りに心を奪われた。
楽しさと苦しさがごちゃ混ぜになり、私にはシーバスフィッシングを上手く表現できない。

ただ、いつかはスズキクラスのシーバスを。

それだけが私の明確な目標となり、原動力となったのは間違いない。



やっぱり夢じゃないようだ。
私はどうやら本当に釣ったみたい。
憧れのスズキクラスの感触がはっきりこの手に残っている。

…こんなに嬉しい瞬間って他にあるかい?
私は自分自身に静かに問いかける。

こんなに嬉しい瞬間って他にあるかい?

いい歳こいたおっさんは雨に紛れて涙を流す。
誰もいないことを口実にして涙を流す。









これが私のアイマ/コスケ110Fの思い出。

私はこの日ほど感激した一日はない。
今日までを含め、シーバスフィッシングをやっていて一番心を揺さぶられた日だ。

私はこのルアーのインプレなど出来ない。
事細かな特徴を説明することは出来ない。
それだけの知識の持ち合わせがない。

私に言えることはひとつだけ。

このルアーで夢が叶った。



それで充分。










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