私にもそのときはきた。

ついにきたのだ。












2019年6月、人生初のシーバスへチャレンジ
夏の海でのトップゲーム惨敗
(60時間絶賛ノーバイト中)
川の釣りにシフトチェンジ
同年8月、河川デビューも果たすも期待のコアマンIP13を一発ロスト










その場にへたりこみ、タバコを吸う。

私のコアマン/アイアンプレートIP13は1投目で華々しく散った。

やはり予備のIPを買っておくべきだったか…。

力なく肩を落とす。




コアマン三種の神器(IP/VJ/PB)を購入したあとも、私は幾度となく釣具屋さんへ足を運んだ。
必ずコアマンコーナーに居座り、現物を何度も手に取り、ラインナップを確認した。
予想外の出費で簡単に金欠となり、新たな購入に踏み出せなかった。

しかしポイントが2,000円分近く貯まっていることもわかっていた。


(このポイントでもう一個IP補充しとこうかな)


あのとき私は確かに悩んだのだ…。





海のトップゲームに破れた私はコアマン道を歩む決意をした。
真っ当な信者となるべく己れの研鑽を積むことを誓った。
泉総裁のブログを貪るよう読んだ。
コアマンの記事が目にとまった雑誌は可能な限り購入した。
コアマンキャップを被り、コアマンライジャケを身に纏った自身の未来図を夢想した。


しかし、その姿はうわべだけだったのだ。


私の心は邪心で溢れていた。

私はやはり正しき信者ではなかった。





本当にコアマン信用して大丈夫なんか?
いや大丈夫やって 、間違いないって書いとるやん
まだ釣れてもないのにそげんハマり込んで大丈夫や?
いや大丈夫やって、ネットでもコアマン関連めっちゃ出てくるやん
あんなの金かけりゃなんぼでも操作できるやろ、取引先がようやっとろうが?
いやコアマンはマジで凄いって
なにが凄いかひとつもわかっとりゃせんやろが
いやあんな真剣にシーバス向き合うとる人がつくったルアーなんやけ信用できるやろ?
真剣もくそも実際に会うたわけじゃなかろうが 
もしクソルアーならあんなに店がプッシュせんやろ?
エギの墨族のこともう忘れたんか、さんざん店に煽られて大量にまとめ買いしたら速攻ワゴンに行ったろうが?
ハリミツとコアマンはそもそも土俵違うやろが
顔怪しくない?
気のせいて………










私は貯まったポイントでジャクソンの鉄PANバイブ(×2)の購入を目論んだ…































嘆いても時間は戻らない。

やはりIPの予備を購入しておくべきだった。

不誠実な私に罰が当たったのだ。



私は確かにIP13を失った。
いとも容易く失ってしまった。
でもまだ弾は残っている。
剣はなくとも鏡と玉はある。


…VJ16とPB13があるじゃないか。







タバコを吸い終わり、気持ちをスパッと入れ替える。

そうだ、今日は記念すべき日だ。
人生初の河川デビューの日なのだ。
これくらいで落ち込んでてもしょうがない。


…よし、次はVJ16にしよう。


普段ワームを使用する釣りの機会は少ない。
知識や経験の引き出しは空っぽに近い。
勢い任せで購入してしまった感は否めないが、さてさてその判断はどうでるか。

事前の調査によれば、非常に人気の高い品であることがよくわかった。
インプレ記事なども山のように出てくるのだ。
使用方法に関して情報に困ることはなかった。

こちらも基本はただ巻きで良いらしい。
不意に出る【千鳥アクション】がキモだとあった。
素人の私に千鳥アクションなるものがどういうものか全く想像がつかないが、要はバランスを崩すと言ったところだろうか。
VJをロックオンしたシーバスがバランスを崩したタイミングで食いつく。
私はそんなイメージを抱いた。



さて。

先ほどIP13では手痛いミスをした。

今度は本当に気をつけなければ。





VJ16をセットし、本日2度目のキャスト。

びゅん

しっかりサミングし、着水と同時に巻きはじめる。

…よし、大丈夫だ。

今度は無事だ。

ロッドは小気味良くプルプルしている。

軽快な巻き心地だ。





コツっ…ん?

回収間際に違和感を感じた。



…危ない危ない、また根掛かりしたら大変だ。

冷や汗が出る。


私の心は崩壊間近だ。
このまま連続でルアーロストすれば今日で私のシーバスライフは終わってしまうと思った。
生涯打率.000のまま引退を迎えてしまうと思った。
きっと立ち直れない。
折れかけた心が完全に折れてしまうだろう。
かつてWBCで絶不調のイチローが送りバントを失敗したシーンが頭をよぎる。





恐ろし過ぎる…。

なんとか無事にルアーを回収し安堵のため息をつく。

慎重に次のキャスト。

ロッドを立てて、先ほどより少し早めにリトリーブした。

巻きはじめて直ぐだった。



コンっ…

















あー、魚掛かっとる!!!

うそうそうそうそ!

うそうそうそうそ!

マジでマジでマジで?

本当に掛かったんか?

さっきの根掛かりじゃなかったんか?

VJで一発やん!

ぶいじぇー!!

ぶいじぇー!!!



おうおうおう!

スゲーひいてる!

ドラグ出るやん!

えー本当に?

あー、飛んだ!!!

うわエラ洗いや、シーバスやあ!!!

















この後のことはあまり記憶にない。

無我夢中だったのだろう。

ネットインする片手が震えていたのは覚えている。








50cm前後のフッコクラスのシーバスだった。






正確にスケールをあてたわけではない。

大きさはどうでも良い。

とにかく待ちに待ったシーバスなのだ。

沸き上がる喜びが抑えられない。

嬉しい。嬉しい。嬉しい。







私はずっとシーバスを見たかった。

自分で釣り上げたシーバスの姿を眺めてみたかった。

いま、そのシーバスが私の目の前にいる。

艶かしい瞳、銀色に輝く身体、ピンと張った背びれ、全てが美しい。

シーバスとはなんと神々しい姿をしているのだろう。

大げさでなく、私には本当にそう思えた。








やっと釣れた…

やっと釣れてくれた…

ちょっと涙が出た。














…元気なうちに戻さなければ。

私の拙いルアー操作に反応してくれたのだ。

シーバスには感謝の気持ちしかない。

ダメージは最小限に済ませたい。

絶対に生きて戻って欲しい。




リリースのやり方は事前に勉強したつもりだ。

草むらにそっと置き、グローブ越しの手でシーバスの口に優しくグリップをかける。

…良かった。

ルアーを丸飲みしていないようだ。

これなら簡単に外れそうだ。

私のたどたどしいプライヤー操作で、あっけなくフックが外れてくれた。

大丈夫だろうか。

ちゃんと泳げるだろうか。

ネットインしたままのシーバスをそっと水に戻す。

ゆっくり蘇生させるんだったよな…

そう思ったのも束の間、大きな水しぶきをあげシーバスは泳いでいった。

良かった。元気みたいだ。











これがシーバスフィッシングなんだな…。

満たされた気持ちで心がいっぱいになる。

これまでの苦労は全部忘れた。

先ほどのエネルギッシュなファイトが答えだ。

その全てだ。

ようやく私もこの世界へ一歩踏み出せた気がした。












ありがとう、コアマンVJ16。

私にとって一生忘れられないルアー。

このルアーに出会わなければおそらくシーバスをやめていた。

私に初めてのシーバスを連れてきてくれて、本当にありがとう。