「ボクの意識は、一体どこへ向かっていくのだろう・・・」
ボクは鏡の中の自分の瞳を眺めながら、
そう思った。
眺めて、眺めて、眺めて・・・
眺め続けているうちに、だんだんと吸い込まれるように、
自分が瞳に向かって近づいていくような気がした。
すると次第に、顔の一部一部がモヤ掛かったように薄れていき、
意味を成さなくなり、
見慣れている筈の自分の顔が、自分のものじゃないような感覚に陥ってきた。
輪郭がぼやけ、頭の形、額、アゴ、耳、眉、鼻、口が
ゆっくりと溶けるように周辺視野の中で消えていき、
鏡の中に残ったのは、ボクの目だけ・・・
その目にボクは吸い込まれていく。
いや、その目に向かってボクらは戻っているんだ・・・
そこにある2つの目の、
更にもっと奥にある、
もっともっと深く遠い場所にある目に向かって、
ボクらの意識は戻って行くんだ・・・
3次元世界を投影している人間の意識を司っている、
それぞれの『目』に向かって・・・。
チカチカと瞬く無数の意識たちは、
気の遠くなるような時間をかけてゆっくりと戻って行く・・・
静かに、吸い込まれるように、
光さえ逃さない『目』の真ん中の黒い穴に向かって。
チカチカと瞬く光はボクたちの意識。
「夜空を埋め尽くす無数の星たちは、すべて本当は太陽だって知ってた?」
「じゃあ、ここから見える星は全部、太陽なの?」
「そうさ・・・。いや、意識だよ。太陽は意識なんだ。すべての太陽は時間をかけて、ゆっくりと真ん中の黒い穴(ブラックホール)に戻っていくんだよ」
ボクの意識が呼ばれている・・・。
鏡の中の2つの目の、更にそのずっと奥で、
ボクの意識を宇宙から司っている『目』に手招かれるように、
ゆっくりと戻って行く。
ボクの意識はその重力に逆らえず、静かにその真ん中の瞳孔の暗闇へと
飲み込まれていく・・・
そして、その暗闇の中に戻っていくと、
向こう側には、何もなかった・・・
いや、向こうには、逆さの世界が広がっていた。
まるで人間の目が、眼球のレンズを通してすべてを上下反対に映すように、
黒い”瞳孔”の穴の向こう側には、
ボクの住む世界とは、逆さまの宇宙が広がっていた。
星座の向きも、時間の流れも、宇宙誕生の歴史も、
すべてが逆向きの世界・・・。
いや、逆さまだったのはボクたちの世界で、
本来、こっちが正立した空間なのかも知れない。
そっか、だからボクたちの”宇宙は丸い”んだ・・・。
あっちの宇宙とこっちの宇宙が、黒い穴をオリフィスとして
永遠(インフィニティ)の「8」の字を描く。
ボクたちはその「8」の字の宇宙の法則(流れ)に乗って、
ずっと旅を続けている。
ボクたちの意識は向こうの宇宙に戻り、またいつの日かこっちの宇宙に帰ってくる。
それをボクたちは繰り返しているんだ。
全ては繋がっているんだ。全ては同時進行なんだ。
だから全ては永遠なんだ。
だから「時間」は存在しないんだ・・・
ボクの意識は次第に戻ってくる。
鏡のこちら側へとゆっくり戻ってくる。
そして、また時間が流れ始める。
鏡の中のボクが、向こう側からボクの瞳をじっと眺めている。
そして言う、
「おかえり」と。