これは実話です。

かつて、世界で最も美しい野性の楽園の一つ、アメリカのイエローストーン国立公園には、多くの命が織りなす完璧なバランスの生態系が存在し、その中でさまざまな動物たちが暮らしていました。

 

 

しかし1920年代、そのバランスの要であったオオカミたちを、政府が主導した徹底的な駆除(銃殺、毒殺、罠、そして巣穴にいるまだ目の開いていない子オオカミの殺害まで)によって、イエローストーンから完全に根絶させてしまいました。理由は「人間が自然を管理し、害獣を排除して開拓を進めるべきだ」という考え方と、周辺の牧場主たちが「家畜(牛や羊)を襲う危険な敵」としてオオカミを強く恐れ、国に駆除を求めたためでした。  

美しい森と川が広がるこの聖地で、オオカミという圧倒的な存在が消えたことで、最も狂ったのは「中型プレデター」たちのバランスでした。その代表がコヨーテでした。本来、コヨーテにとってオオカミは「自分たちを脅かす存在」であり、数は厳しくコントロールされていました。しかしオオカミが消えると、コヨーテの数は爆発的に増加し、そのサイズや群れの力も強大になりました。 



王様がいなくなった草原で、トップに君臨したコヨーテたちは、キツネ、アナグマ、イタチ、小型の野鳥、そして地面に巣穴を作る動物たちを次々と激しく襲い、追い詰めていきました。その結果、草食の小動物や地上の鳥類が激減し、公園全体の生物の多様性(バラエティ)が急速に失われていくという危機に直面しました。

また、自然界において、オオカミのような肉食獣が狩りをしたあとの残飯(おこぼれ)は、冬を越す他の動物たちにとってかけがえのない命綱でした。オオカミがいない環境で、残飯は激減し、冬眠明けの空腹なハイイログマや、冬を越さなければならないハクトウワシ、ワタリガラスなどは、栄養のある肉にありつくことが難しくなって、生き残りをかけた深刻なサバイバルの危機に陥ってしまいました。
 
けれど、オオカミが消えたあと、最も大きな恩恵を受けたのはエルクたちでした。コヨーテ同様、天敵がいなくなった彼らは、もう怯える必要はありません。コヨーテは大型動物のエルクを狩らないため、彼らは安全な場所で草を心ゆくまで食べ、驚異的なスピードで数を増やしていきました。



エルクの群れは、瞬く間に公園の平原や川辺を埋め尽くしました。最初は「豊かな自然の象徴」に見えた彼らでしたが、数が増えすぎたことによって、静かなる脅威が大地を蝕みはじめます。

何千頭ものエルクたちは、川辺に生い茂るヤナギやポプラの若い芽を食べ尽くしました。すると、新芽が育たないため、川岸を守っていた木々は年老いて枯れ果て、新しい世代が育たずに木々が消失していきました。木々が消えたことで、そこに巣を作っていた鳥たちが去り、ビーバーたちもダムを作るための枝や材木を失い、次々と姿を消していきました。

こうしてイエローストーンの生態系は、音もなくドミノ倒しのように崩れていったのです・・・

 

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