権利濫用は許さん!-「虎に翼」4/12放送から 形見の着物を返してください!- | 橋本治子の弁護士日記~仙台より~

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仙台弁護士会所属。

4月から始まったNHKの朝ドラ
虎に翼
ご覧になっていますか。
 
 
 

普段、朝ドラ見ていません。
とういか
テレビはほとんど見ません。
 
しかし、今回は
1940年、日本で初めて女性弁護士が3名誕生
そのおひとり三淵嘉子(みぶちよしこ)さんが
モデルだということで見始めたら...
 

めちゃくちゃ面白い爆  笑
 

三淵さんは、その後、
裁判官になっていますので
ドラマでも任官ストーリーとなるのか?

主演の伊藤沙莉さんは
表情豊かで惹きつけられますキラキラ

始まってまだ3週目。
これから見始めても追いつけます!
ちょっとでも興味持たれましたら
ご覧になってみてください!!


さて、4/12放送で
DV夫に対し
形見の着物の返還請求をした妻の裁判
判決が言い渡されました。

どんな判決となるか
ドキドキものでしたねキョロキョロ
 
 
 
妻の請求認められましたが
その理由は
夫が主張する妻の財産の管理権は
この夫婦の状況を勘案すると
権利濫用だ
というものでした。
 
 
以下、朝ドラ見ていなくても
読める記事なので
読んでいってくださーい。
 


権利濫用とは

 

外形上
権利行使のようにみえるけれど
具体的な事情を考慮したときに
社会的に権利行使として
是認できない行為
 
これを権利濫用と言いまして
民法で権利濫用は許さない
明記されています。

 

 

 

民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に
適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、
信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

 




宇奈月温泉事件

 


権利濫用に関しては
超有名な判例があります。


宇奈月温泉事件
と呼ばれている事件です。
 
 
宇奈月温泉は
富山県黒部にある温泉です♨
行かれたこと、ありますか?
 
行ったことがなくても
法学部の学生であれば
誰でも知っている宇奈月温泉。
 
大審院昭和10年10月 5日判決
 

 

(事案の概要)
 
宇奈月温泉で温泉場を経営する会社Y
その設置した引湯管全長7500mのうち
一部(6m足らず)が
Aの土地の約2坪を通過していた
利用権の設定はなし

これを知ったXがAから土地を購入
Yに対して、土地3000坪をあわせて
時価の数十倍の価格で買取要求

Yが拒否すると
Xは引湯管の撤去を求めて提訴

 

 


自己の所有地が侵害されているときに
その妨害排除を請求することは
所有者として当然の権利行使です。

 


しかし、本件は

 

 
引湯管を迂回させることは
できなくはないが
多額の費用と相当の日数を要し
Yの事業経営に甚大なる打撃となる
 
当該土地は急斜面
植林農作はもちろん
なんら利用に適さない土地
 
Xは引湯管の存在を知りながら
特に利用目的もなく土地を購入

という事情から
権利濫用だとして
Xの妨害排除請求は
認められませんでした。
これ、原文です。
👇
 
除去ノ請求ハ
単ニ所有権ノ行使タル外形ヲ構フルニ止マリ
真ニ権利ヲ救済セムトスルニアラス 
即チ如上ノ行為ハ
全体ニ於テ専ラ不当ナル利益ノ獲得ヲ目的トシ
所有権ヲ以テ其ノ具ニ供スルニ帰スルモノナレハ
社会観念上所有権ノ目的ニ違背シ
其ノ機能トシテ許サルヘキ範囲ヲ
超脱スルモノニシテ権利ノ濫用ニ外ナラス
 
 



 

 

保証人に対する請求が権利濫用とされた事案

 


宇奈月温泉事件は
戦前の事件ですので
最近の事案を1つご紹介します。


賃貸借契約の保証人に対する
滞納賃料の請求が
権利濫用とされた事案です。
 

東京高裁 令和元年 7月17日判決 

 

 

(事案の概要)

H16.3
Aが市営住宅に入居
Aの母が連帯保証人となる

Aは生活保護受給者
契約締結直後から支払い怠り3か月分滞納
市はAと連絡が取れない状態が続く


H17.4
母の協力により
生活保護の代理納付が開始
滞納額は増えないが
3ヵ月滞納分は滞納のまま
母が支払うことを誓約する
 

※代理納付とは
生活保護の担当課から
大家に直接家賃が支払われること




H27.4 
A生活保護廃止

市はAが生活保護廃止となったことを
母に知らせず

滞納額増加

母、この時点で70代
年金暮らし
母もAと連絡取れず


H28.5 
母は市役所に電話し
Aとは長年連絡取れない
自分も年金暮らし
Aを追い出すなど
厳しく対応して欲しいと要望

この後も、複数回
Aを退去させてほしいと要望したが
市は契約解除や明渡の手続きを取らず
 

H30.1
市がAと母を提訴
滞納賃料等248万1900円請求
 

H30.2
賃貸借契約解除

 

この訴訟では
保証人である母が
市の滞納家賃請求は
権利濫用だと争いました。
 
 

保証契約が有効である以上
保証人が責任を負うのは当然です。
 

しかし、保証人母からすれば
 
 
市がもっと早く動けば
こんなに滞納賃料膨れ上がること
なかったでしょ?
 
厳しく対応してほしいって
何度も言ったじゃないの。
 
市の怠慢ではないの?
という気持ちになりますよね。
 
 
 

裁判所は次のとおり判断しました。
 
このような経緯に照らせば,
Aの生活保護が廃止された以後は,
市は保証人母の支払債務の拡大を
防止すべき措置を適切に講ずべきであり,
かかる措置をとることなく
その後の賃料を
保証人母に請求することは
権利の濫用にあたる
 

そして
Aの生活保護が廃止された2年後の
H29.4月分以降の支払を請求することは
権利濫用として許されない
として
87万1900円の支払を命じました。

もともとの請求額が248万1900円ですから
だいぶ減りましたね。


なお、本件は
2020年4月1日改正民法前の賃貸借契約なので
保証人の責任が上限のない青天井ですが
改正民法後は
極度額を定めなければ保証契約は無効
(民法465条の2)

したがって、改正民法後の契約では
保証人は最悪の自分の負担額がいくらになるか
わかったうえで契約することになります。

ただ、本件のように、賃貸人が、
いたずらに契約を存続させるなどして
損害を拡大させているような事情があるときは
極度額を定めていても、権利濫用として
請求が制限されることもありうるかな?



権利濫用が認められる事案は
この事情で請求認められたら
やるせないなぁ
というようなものなので
判例読んでいると
興味深いものが多いです。
 
今回はここまでにいたしますが
別の機会にまた具体的な事案を
ご紹介できれば。
 
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