思い出の品を持ち帰ったら、相続放棄できないの? -形見分けと相続財産の処分- | 橋本治子の弁護士日記~仙台より~

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仙台弁護士会所属。

相続放棄をするときの
3つの注意点をまとめました。
 

このうち

3 相続財産の全部又は一部を
 処分したときは放棄できない



に関し、今回は

形見分け

の事例を2つ取り上げます。
 
 

つい先日
相続放棄を検討しているお客さんに
 
相続財産に手を付けないように!
 
と注意しましたら
 
形見を持ち帰るのも
ダメなのですか?
 
と質問を受けました。
 

故人と親しい間柄だったときに
故人を偲ぶ思い出となるものを
手元に残しておきたい
と思うのは
通常の感覚だと思います。
 

しかし、一方
動産類も相続財産です。
 
 
形見分けとして持ち帰ることが
相続財産の処分となり
相続放棄が認められなくなる
 
とはならないのでしょうか。
 
 
 
 
 

 

事例1
相続財産の処分に当たらない

 

(事案の概要)

 

相続人は妻子。
被相続人とは別居中。

離婚問題があり
被相続人側の親族とも

関係はよくなかったようです。

相続放棄申述し

受理されましたが

債権者(被相続人の母)から

 

相続財産の処分行為があった

 

ので単純承認とみなされる

(相続放棄無効)

という主張がされました。

 

 

相続人が被相続人の遺品を

持ち帰ったことなどが

相続財産の処分行為だ

という主張です。

 

 

相続人が持ち帰った物は

次のとおり。

 

・被相続人の背広上下

・冬オーバー

・スプリングコート

・位牌
・時計

・安楽椅子二脚

 

 

 

 

 

(結論)

 

・山口地裁徳山支部

 昭和40年5月13日判決

 

 相続財産の処分に当たらない

 

 

(判決抜粋)

不動産、商品、衣類等が

相当多額にあつた

相続財産の内より

僅かに形見の趣旨で

背広上下、冬オーバー、

スプリングコートと

位牌を...持帰り、...

時計、椅子二脚

(一脚は足がおれているもの)

の送付を受けて、受領したが、

右の外に相続財産に

手をつけたことのなかつた
...これが民法第921条第1号の

処分にあたると考えることは

到底出来ない

 


 

 

 

事例2
相続財産の隠匿に当たる

 

(事案の概要)

 

被相続人A死亡。
相続人(母)Bが

債務があることを知り、
相続放棄申述、受理。

 

その後、被相続人Aの居宅から

遺品を持ち帰った。

持ち帰った物は次のとおり。

 

・1回目
スーツ等の一部
毛皮のコート3着

カシミア製のコート3着
靴の一部

絨毯

・2回目
運送業者手配して

小型トラック用意
鏡台

残っていた洋服

靴のほとんどすべて

 


 

(争点)

 

相続放棄申述が

受理された後の行為なので

被相続人Aの

洋服、家具等を持ち帰った行為が
民法921条3号の
相続財産を「隠匿」「私に消費」
したことに該当し、
単純承認とみなされるか?

 

 

 

(結論)

 

・原審

 

東京簡裁平成11年9月6日

 

Aの亡夫の遺族の

事前了承のもとに

持ち帰ったものであり、

遺品の多くはB宅に

保管されているから、

...民法921条3号...に

該当するとはいえない

 

 

 

 

 

 

・控訴審

 

東京地裁平成12年3月21日

 

相続財産の隠匿にあたり

単純承認したものとみなす

 

 

 

 

(判決要旨)

相続財産の「隠匿」とは、

...相続人間で

故人を偲ぶよすがとなる

遺品を分配するいわゆる

形見分けは含まれない

ものと解すべき...

 

Bが二度にわたって

持ち帰った遺品の中には、

新品同様の洋服や

三着の毛皮が含まれており、

右洋服は相当な量であった...

持ち帰った遺品は、

一定の財産的価値を有していた...。

そして、Bは、Aの遺品の

ほとんどすべてを

持ち帰っているのであるから、...

相続財産の隠匿に当たる

というほかなく、

その持ち帰りの

遺品の範囲と量からすると、

...いわゆる形見分けを超えるもの

といわざるを得ないのである。

 

...Bによる遺品持ち帰りが、

自分がAの相続財産を

引き取らない限り、

すべて廃棄されてしまうことになって

忍びないという

Bの母親としての心情に

よったものであり、

BがAの特定の債権者の

債権回収を困難にするような

意図、目的を有していなかったとしても

民法921条3号の主観的要件は

満たしている...。

 

 

 


 

コメント

 


高価な宝飾品や骨董品を持ち帰れば
形見分けを超える行為で
相続財産の処分となるでしょう。

 


経済的な価値もないような
ささやかな思い出の品を持ち帰る

というレベルであれば

相続財産の処分とはなりませんが

2つ目の事例のように
毛皮のコートなどあったり

ごっそり持ち帰るとなると

相続財産の処分

相続財産の隠匿

と見られてしまいます。

 

 

 

 

2つ目の事例は

亡くなられたのは娘さん。

 

娘さんには子どもがいないようで
娘さんの夫も

娘さんの後を追うように死去。

 


娘さんの遺品を受け取りたい

と思ったものの
部屋の鍵を持っていない。

 

 

娘さんの亡夫の親族に連絡をとり
なんとか娘さんの遺品を回収した
という経緯のようです。

 

 

この機会を逃したら
娘の思い出の品が

捨てられてしまうという焦りから

ほとんどすべての物を

持ち帰ったのでしょう。

 

 

原審と控訴審では結論が逆です。

 

控訴審では

母親としての心情は

理解できなくはないけれど

やりすぎと判断されてしまった

ということです。

 

 

 
 
相続は、これまでの親族間の軋轢が
噴出する場面でもあり
感情の衝突が起きる上に
法的にもいろんな論点があって
弁護士からすると
実に奥が深いのです。
 
 
今はネットで検索すれば
いろんな情報取れるという
便利な世の中です。
 
 
ただ、権利義務に関わることは
自身で早計に判断するのではなく
近くの弁護士にきちんと面談して
相談することをおすすめします。
 
 
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