②相続と生命保険金 -遺産総額<生命保険金額でも特別受益性が否定された事案- | 橋本治子の弁護士日記~仙台より~

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仙台弁護士会所属。

前回
相続における生命保険金の扱い
について整理しました。
 
 
すなわち、
受取人指定の生命保険金は
遺産ではないこと
 
原則、特別受益にはならないが
他の相続人との不公平が著しい
特段の事情
がある場合は
特別受益に当たる

ということです。


それでは、今回は
生命保険金が特別受益に当たる
 
特段の事情
 
とはどういうものか?

について見ていきます。
 

 

 

 

 

  特段の事情とは
どういった事情?

 

 

特段の事情について、最高裁は
  • 保険金の額
  • 保険金の額の遺産の総額に対する比率
  • 同居の有無
  • 被相続人の介護等に対する貢献
    の度合いなど被相続人との関係
  • 各相続人の生活実態等の諸般の事情

を総合考慮して判断する

としています。
 
 

一番わかりやすい指標は

保険金額の遺産総額に対する比率

ですね。
 
 
たとえば
 
遺産総額1000万円
生命保険金500万円
だと
500/1000=50%
 
となります。
 
この%が低ければ低いほど
特段の事情はない
という判断につながりやすい
と言えます。
 
 

 

 

 

  特別受益性を認めた事案

 

H18年3月27日名古屋高裁決定

 
 
【事案の概要】
 
相続人:妻、子2人(先妻との子)
 
遺産総額:8423万円
 
生命保険金受取人:妻
生命保険金額:5154万円
 
生命保険金額/遺産総額=61%
 
 

【結論】
 
特別受益性を認める
 
 
【コメント】
 
本件で指摘された事情は
 
  • 被相続人と保険金受取人の妻
    との婚姻期間が長くない
    (婚姻~死去まで3年5か月)
 
  • 死亡保険金額5000万円超(多額)
 
  • 死亡保険金/遺産総額=61%

といった点です。
 
 
こういった事情を考慮されて
 
他の相続人との間に生ずる不公平が
到底是認することができないほどに
著しいものであると評価すべき
特段の事情が存する

という判断となりました。
 
 
 
ある書籍には

 

 

保険金額が遺産総額の

6割を超える場合には

特段の事情ありとされる

可能性が高くなる

 

とか

 

 

 
保険金額が遺産総額の
3分の1を超えると
特段の事情を肯定する方向で
考える必要がある

 

とか書いてあります。

 
 

 

ただ、最高裁は、

保険金額と遺産総額の比率のみを
考慮するのではなく
他の事情も総合考慮すべしと
言っています。
 
 
上記事案がもし
 
長年連れ添った夫婦だったならば...
 
晩年、被相続人の介護を
献身的に行っていたならば...
 
結論は変わっただろうか?
 
 
そして、次の判例です。
 
 
 
 
 

 

 

  特別受益性を否定した事案

 

2022年2月25日広島高裁決定

 
 
【事案の概要】
 
相続人:妻、母
 
遺産総額
:①相続開始時772万円
 ②遺産分割対象財産459万円

生命保険金受取人:妻
生命保険金額:2100万円
 
 
生命保険金額/遺産総額
:①を基準に計算すると2.7倍
 ②を基準に計算すると4.6倍
遺産総額<生命保険金
という事案です。
 
 
 
【結論】
 
特別受益性を否定
 
 
 

【コメント】
 

本件は
遺産総額<生命保険金
 
こりゃあ特別受益になるのでは?
という考えが出てきます。
 
 
しかし本件では
特別受益性を否定
しています。
 
 
つまり、
 
妻は
2100万円の生命保険を受領した他
②459万円の法定相続分2/3
306万円を取得する
 
母は
②459万円の法定相続分1/3
153万円を取得する
 
という結論です。


どういった事情から
他の相続人との不公平が
是認できないほどではない
という結論に至ったか
 
決定文を見ていきましょう。
 

 
 
本件死亡保険金の
合計額は2100万円であり...
遺産総額に対する割合は
非常に大きい
 
しかしながら,まず、
本件死亡保険金の額は...
さほど高額なものとはいえない
 
次に,...被相続人と妻は
婚姻期間約20年,
婚姻前を含めた同居期間
約30年の夫婦であり,
その間,妻は一貫して専業主婦で,子がなく,
被相続人の収入以外に
収入を得る手段を
得ていなかった
...
 
本件死亡保険金は,
被相続人の死後,
妻の生活を保障する
趣旨のものであった...
妻は現在54歳の借家住まいであり,
本件死亡保険金により
生活を保障すべき期間が
相当長期間にわたることが
見込まれる。
 
これに対し,抗告人は,
被相続人と長年別居し,
生計を別にする母親であり,
被相続人の父(抗告人の夫)
の遺産であった不動産に
長女及び二女と共に暮らしていること
などの事情を併せ考慮すると,
本件において,
前記特段の事情が存する
とは認められない。
 
 

本件は、
 
遺産総額<生命保険金
 
 
なので、そこだけを見ると
特別受益性あり
という判断になりそうですが

その他の事情を総合考慮すれば
特別受益性はない
という結論に至っています。
 
 
その他の事情とは
  • 生命保険金の額はさほど高額ではない
※ある調査によると
男性が死亡した際に支払われる
生命保険金額の平均は1580万円
(平成28年)だそうです。
 
  • 生命保険金の趣旨(妻の生活保障)
 

 

  • 被相続人との関係性
    (妻は長年同居、生計同一、被相続人の収入に頼っていた
    母は別居、他の子どもたちと一緒に暮らしている)

 

 

 

 

 

こういった事案でもめてしまうと

協議や調停でまとまらず

家裁、高裁と手続踏まないと

先に進めないこともあるでしょう。

 

 

紛争を完全になくすことはできない

かもしれませんが

紛争性をできる限り少なくするために

やはり、遺言書は書いておいた方が

よいのではないかと

つくづく思います。

 

 

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