すっかり春が訪れて、
いたるところに春の匂いがするようになった。
 
早朝の窓から流れ込んできたり、
暖まった地面から立ち昇ったり、
穏やかに吹く春の風に乗ってきたりする。
 
 
そんな春の匂いがすると、ふと記憶が蘇る瞬間がある。
 
昔の想い出は
少しずつ忘れたり変わったりするけれど
 
そのときの感情の記憶は残っていて
そうした瞬間にいつも思い浮かぶ。
 
 
普段はしまっていた記憶の箱が
春のニオイによって蓋が開く……
 
そんな感じ。
 
 
私にはそんな春の、桜の記憶がふたつ、ある。
 
今日はそんな記憶のひとつを書いてみたい。
 

 

※奈良・吉野山の桜
 
 
9年間の結婚生活にピリオドを打ち
2人の娘を連れて家を出たのが
3月の春休みに入ったすぐだった。
 
家を出た、と言葉にすると簡単だけど
それまでは本当に大変で、
そのときの私を支えていたのが
 
「桜が咲くころになれば、私は
新しい生活をスタートさせているんだ」
 
という想いだけだったなと思う。
 
 
精神的にきついとき、いつも桜の木を見上げ
「あの蕾が花開くときになったら…」
と、桜の花に自分の新しい人生を重ねた。
 
桜は、あの頃の私の「心の支え」だった。

 

 

 

 
人は目標があると強くなれるという。
 
家を出るという目標ではあったけれど、
それだと心がくじけそうになることが多かった。
 
きっとそこに明るい未来だけが待っていると
思えなかったからだと思う。
 
 
小さい娘を2人抱えて、
はたして経済的にやっていけるのか?
 
娘たちのメンタルのフォローができるのか?
 
仕事は見つかるのか?
 
……考え出すときりがないほど、不安要素が大きかった。
 
 
だから、明るい目標にするために
笑顔のイメージができるように、
 
「桜の花が満開になるころ、
私は新しい人生をスタートさせている」
 
という目標にして、満開の桜の下で
娘たちと笑顔でお花見をしている姿を
何度も何度もイメージして乗り切った。

 

 

それから、家を出て

娘たちと新しい生活をスタートさせ、

 

引っ越し先の近所にある桜の名所で

満開の桜を見上げたとき、

 

「あぁ、やっと第二の人生がスタートしたんだ」

 

と心から思えた、あの気持ちを思い出す。

 

 

 

 

あれから23年が経ち、

また今年もこうして満開の桜を見上げると

 

あの、なんとも切ない幸せな気持ちの記憶が蘇る。

 

 

それから、私の人生は

順風満帆とは行かなかったけれど、

 

それでも毎年、

 

なかなか味わい深い人生になっているなぁ…

 

と、ちょっとほろ苦い想い出の中、

自分のことを振り返り

 

また、気持ちを新たにしている。

 

 

 

 

きっと毎年毎年思い出す、
私の桜の記憶。