【2018/9/16段階】出版業界が軽減税率を認めてもらうための”有害図書”指定問題点まとめ | 「月松橋」活動報告

「月松橋」活動報告

同人団体「月松橋」です。

●はじめに

 

現在、複数の出版業界団体が、国会議員らに対して「出版業界が作る仕組みにより、“有害図書”の指定を行う」「“有害図書”以外の書籍・雑誌に、消費税の『軽減税率』を適用して欲しい」と言う要求を行っています。

しかし出版業界が要求するこの政策には、以下のような問題点があります。

 

①   出版業界による表現の一方的な「自主規制」を進め、多くの作品の改変・消滅を招くであろう政策であること

②   出版業界が有権者や国会議員の意見すら無視し、勝手に税金のルールを決めることを認める政策であること

 

 

ぜひ、この政策の問題点について、多くの方に知って頂きたいと思います。

 

Ⅰ.今までの経緯

 

消費税率引き上げを「業績大幅悪化に繋がる脅威」と見る出版業界は、以前から「本は生きる上での必需品であり、食品同様に軽減税率が適用されるべき」との主張に注力しています。しかし「例えばポルノ雑誌のような本は、『必需品』と言えるか疑問」「軽減税率の対象外となる“有害図書”を指定する仕組みなくして、本への軽減税率適用は国民に納得されない」と考える政府は、本への軽減税率適用に長らく慎重な姿勢を示していました

2015年12月頃までに政府は「“有害図書”を政府が指定するための仕組みを作る」案を「憲法第21条で禁じられた、公権力による『表現の自由の侵害』(≒『検閲』)になる」として却下する方向を決めていました。これを受けた出版業界から「国民の理解を得るため、“有害図書”を(公権力ではなく)出版業界が指定するための仕組みを作る」「だから軽減税率を認めて欲しい」との提案が出るようになり政府はこの提案を一度は飲みかけます

 

 

ところが2016年1月18日、参議院予算委員会で山田太郎参議院議員(当時)から「『民間の判断で、軽減税率の対象とそうでないものを分ける』と言うやり方は、憲法第84条で禁じられていないか」との指摘を受けた政府は、「おっしゃる通り非常に難しい問題」とその指摘を受け入れます。この直後、政府は「本への軽減税率導入は、一旦見送ることにする」旨を表明。これは事実上の「本への軽減税率適用の断念宣言」であり、出版業界のもくろみが外れたことは明白でした。

 

しかし増税を翌年に控えた2018年6月、出版業界は強引に「私達が“有害図書”を指定するので、本に軽減税率を適用して欲しい」との主張を再開この無理筋極まりない政策が通されてしまうかも知れない危機が、再び訪れているのです。

 

 

次の項からは、私が「この政策は、非常に大きな問題だ」と考える詳細な理由を説明させて頂きます。

 

Ⅱ.軽減税率のために出版業界は、一方的な「自主規制」を進める?

 

この問題を理解する上で、最初に把握する必要があるのが「青少年健全育成条例による“不健全図書”指定」「出版業界による自主的な“成人向け”マークの設定」と、今回の「軽減税率を認めてもらうための出版業界による“有害図書”指定」の違いです。

“有害図書”指定の仕組みを模索する中で繰り返された主張に、「本への軽減税率適用には、国民の理解が必要」「“有害図書”指定の仕組みなくして国民は納得しない」と言うものがあります。これは早い話が、「『どうしてこんな本に軽減税率が認められているんだ!』等のクレームを寄せる人がいた際に、私達には反論することができない」「クレームが付く本を“有害図書”としない限り、本への軽減税率適用は実現できない」と言う意思表示です。

このことから、出版業界による“有害図書”指定制度の実態は、「軽減税率を適用すればクレームが付く本」を選別する仕組みになると読み取れます。これは、「子どもに読ませてはいけない本」を選別する仕組みである“不健全図書”や“成人向け”マークとは、根本的に異なるものです。

「クレーム」は近年、マンガ・小説等の創作作品に対して非常に大きな影響力を持つようになっています。「性的な表現がある作品」「犯罪の描写がある作品」「作者が問題ある言動をしたと見られた作品」等に対して「どうしてこんな作品が平然と世に出されているのだ!」とのクレームが消費者から寄せられる事件が相次ぎ、その結果いくつかの本の販売やメディアミックスは縮小・中止に追い込まれてしまっています。これらの「クレームに配慮した企業による『自主規制』」については、「作品を気に入った人に対する説明・保証が殆どの場合皆無であり、企業対応としてあまりにも一方的で問題」とする意見が以前より出ています。

厄介なことに、“有害図書”を指定する仕組みは、現在よく見られるこれらの「自主規制」より更に性質の悪いものになりえます。クレームを聞いて行われる「自主規制」は、作品を目にした消費者の少なくとも一部の意見を聞き行われています。その一方、“有害図書”の指定は、本を売る前に本の税率を決めなくてはいけない関係上、原則としてその本が消費者の目に付くよりも前に完了してしまいます。

現在検討されているこの仕組みは、「出版業界が新設する『自主管理団体』内に、有識者によって構成される第三者委員会を設置し“有害図書”の基準を決定させる」「各出版社はその基準に基づき、“有害図書”を出版前に指定する」と言うものです。この指定プロセスに、消費者が関わる隙はありません。原則全ての意思決定が、出版業界の仕組みの中で完結してしまうのです。

 

 

「消費者に何の相談もなく、出版業界が一方的に『この本を買う人は、10%の税金を負担しなければいらない』と定める」仕組みが作られるだけでも大きな問題です。しかも、現実問題として出版業界は「10%の税率を負担しなければいけない本を、消費者は買わない」と信じています。だからこそ彼らは軽減税率の適用を受けるためになりふり構わぬ行為に出ているのですが、つまりこの仕組みがもし完成した場合、出版業界では「10%の税率がかかる本はそもそも作らないし売らない」と言う動きが起きる可能性が極めて高いのです。

具体的には、「この本は自主管理団体の“有害図書”基準に抵触しうる」と判断した瞬間、出版社は本の作者に対して書き直しか出版断念かのどちらかを命じるはずです。多くの作品が捻じ曲げられ消されて行くであろうことは、想像に難くありません。

 

 

「どうしてたかが2%の税率のためにそこまでするの?」「よしんば作品を犠牲にして税率を守れたとして、そんな世界で消費者が本を買うと思っているの?」・・・消費者がその様に感じるのは、むしろ自然なことでしょう。しかし「2%の優遇」への信仰に取り付かれた出版業界には、残念ながらこの声は届きそうもありません。

この声すら届かないのですから、この仕組みが実現した時には「どうしてこの本は“有害図書”になると判断したんですか?」「どうして私の好きな作品を捻じ曲げ消したんですか?」との声も届かないでしょう。軽減税率のために出版業界が“有害図書”指定を行い、目先の利益のために一方的な「自主規制」を推進することを、私達はこのまま容認してしまっていいのでしょうか?

 

Ⅲ.国会が持つ本の税率や対象等の決定権限を、出版業界は奪おうとしている!?

 

この問題を理解する上で、把握しなくてはいけないキーワードがもうひとつあります。憲法第84条に定められた、「租税法律主義」です。

読んで字のごとく、「租税法律主義」とは「租税(=税金)の課税要件(=税の税率や対象等)とその徴税手続きのことは、法律で定めなくてはいけない」と規定する考え方のことです。

2016年1月18日の国会では、山田太郎参議院議員(当時)の質疑に答える形で、麻生財務大臣以下政府の面々が「民間業界が作った基準で税区分を決めることは、この『租税法律主義』に反する」ことを事実上認めさせられ、そのことがその直後の政府による「本への軽減税率適用断念宣言」に繋がりました。つまり、「どの本が税率8%になって、どの本が税率10%になるかを民間業界が決めることは、事実上の違憲行為である」と言う結論が、既に政府により出されているのです。

 

↓山田太郎参議院議員(当時)による「租税法律主義」の指摘を紹介する呟き ※2016年6月のもの

 

この「租税法律主義」を、もう少し詳しく見てみましょう。

国の法律は、国会でしか作ることができません。そして国会は、選挙で選ばれた「全国民」の「代表」である国会議員によって構成されます(憲法第41条第42条第43条)。このことと組み合わせて考えると、「租税法律主義」の考え方が守られている限り、国の税金の税率や対象等の決定は、国民みんなの意見を反映した議論の結果によりなされることになります。

かつては王族や貴族といった一部の人間が他人にかける税を勝手に決定し、大勢の人を一方的に苦しめることが常態化していました。そんな過去の悲劇を繰り返さないようにする力が、この「税をかける時は、必ずみんなの代表で相談して決めよう」との考え方を定めることにはあったと言えます。

 

 

そして、出版業界が今行っている提案は、この考え方を明確に壊してしまうものです。

この提案は、「今までは税の税率や対象等のことを全て、みんなの意見を反映できる国会での相談で決めていました」「これからは出版業界が策定したルールに基づき、本の税(軽減税率/標準税率)の対象を決めたいです」「なので本に関する税(軽減税率/標準税率)の対象を決める権限を、国会から出版業界に譲って下さい」と要求しているも同然です。

この提案がもし通れば、大変なことになります。「租税法律主義」が守られている限りは、「この税のかけ方はおかしくないか?」と誰かが疑問に思えば、その意見を国会議員が代弁することによって国会で議論を行い、もし税のかけ方に誤りがあればそれを正すことができます。しかし「軽減税率の対象を、出版業界が勝手に決めていい」ことを認めてしまえば、どんなに出版業界が勝手な判断をしようとそれを正す術はありません。選挙で選ばれた国会議員が「出版業界が設けた軽減税率の基準がおかしい」と問うても、出版業界から「おかしかろうがなんだろうが、本の軽減税率の基準を設ける権限は我々にある」と言い返されてしまえば、それ以上の追及は不可能です。

問題は出版業界に留まりません。出版業界に税の基準を委ねてしまえば、次は別の業界から「私達の商品の税の基準も私達に決めさせてくれ」との声が上がることは容易に想像できます。「出版業界は税の基準を決めていいけど、それ以外の業界は決めちゃダメ」と言う主張に説得力があるはずもなく、本以外にかけられる税の基準の決定権限もどんどん民間に譲ることになる可能性は極めて高いと言えます。

 

 

選挙を経て選ばれた訳でもなんでもない民間の企業・団体のメンバーが、私達が選挙で示した民意によって選ばれた国会議員を差し置いて、国が使うみんなの税金の集め方を勝手に決めるようになったとして、そこに民意は反映されるのでしょうか。

「一部の限られたメンバーだけで、税の税率や対象等を決めることができる」と言うやり方を実現することは、果たして正しいのでしょうか?

 

Ⅳ.「声を聞かない社会」にしないために、今こそ声を届ける時!

 

以上説明した通り、「本に軽減税率を適用するために、軽減税率の対象外となる“有害図書”を出版業界が決めること」は、出版業界の一方的な決定で自主規制や税制決定が行われることを意味する、大問題な政策です。

「本の消費者の意見すら聞かずに、本の善悪を決めて規制します」「国会議員が代弁する民意にすら耳を傾けずに、みんなの税金の事柄を決定します」・・・これは、「ちゃんとみんなの意見を聞こう」「よりよい結論を出すためにみんなで相談しよう」と言う、民主主義の大前提とも相容れないあり方です。

この出版業界の主張を、政府は2018年現在も拒み続けています。8月18日の産経新聞記事は、政府が税制に関する法律案を作る際の担当部署である「財務省主税局」の幹部が、出版業界の主張に対して特に「不快感を隠さない」態度を見せたことを報じています。

 

 

しかし出版業界は現在、この提案を通すために、国会議員の集会に足を運んだり、直に国会議員と面会して理解を求める等、死に物狂いで国会議員の説得を進めています

 

 

「どの本に軽減税率を適用してどの本に適用しないかはこの法律では決めません」「それは民間の基準に基づいて決めて下さい」とする内容の法律が仮に提案されたとして、その内容が憲法に反することは既に政府も認めている通りです。ただし政府は「国会が定めた法律の通りに仕事をする」立場であり、もし国会が滅茶苦茶な法律を作ってしまった場合はそれに従うことしかできません。もし国会で「税の基準を民間で決めること」と言う内容の法律が通ってしまえば、実質それまでです。

そうなる前に、止めることが必要です。私達自身が、私達の民意を代弁する国会議員に対して、「このままでは私達の意見が聞き入れられなくなってしまう」「代弁者たる国会議員であるあなたの主張も無視されてしまう」「そうなる前になんとしても、出版業界の区分で軽減税率の対象商品を決めることを阻止して欲しい」と主張し、国会議員を動かさなくてはいけません。

 

2018年7月までの通常国会で、この問題に取り組む国会議員は残念ながら現れませんでした。消費税自体の増税が来年に迫っていることを考えると、今秋に開かれるであろう臨時国会が「民間の出版業界に税区分を決めさせるのかどうか」を決める正念場になると考えられます。

それまでに国会議員を動かせるかどうかが、この結果を左右します。私達の好きな本が、私達の税制が、そして私達の「みんなの意見を聞いて、みんなで相談して決める社会」が守られるかどうかの結果は、私達の行動によって決まります。

 

決して容易に勝てる闘いではありません。ですが先日も私達は、私達自身の世論喚起や国会議員への訴えかけにより、青健法の法案内容修正に成功したばかりです

勝ち目が全くない訳ではありません。私達の声には、政治を動かす力がまだあるはずです。

 

 

今がまさに、「自分の意見を自分で守る」ために声を届けるべき時だと感じています。

共感下さる皆様に、共に声を上げて頂ければこれ以上のことはございません。

 

●補記その1

 

当記事を書くにあたり、記事中にリンクを貼った各種の記事のほか、以下の書籍に書かれた内容を参考にいたしました旨をここに記します。

 

・「表現の自由」の守り方(山田太郎著、星海社、2016年)

 

・マンガ論争 19(永山薫・佐藤圭亮編集、2018年)

 

●補記その2

 

本記事に載せた、「情報周知・拡散用資料」と右下に記載がある画像について、私は拡散・転載・印刷等の行為に基本的に制限を設けません。

また、本記事の本文(テキスト)につきましても、スクショ・コピペ等の行為を基本的に自由とします。

「この画像、私が作りました!」と虚偽の発言をすることや、「本文全部コピペして自分のブログ記事にするぞ!」等の極端な複製は流石に勘弁して頂きたく思いますが、それ以外について私から苦情申し立てを行うことはありません。

身の回りの方々・地元の国会議員の方々への情報周知・拡散にご活用頂ければ幸いです。