映画、「かくしごと」を観て来た。

杏さんと奥田瑛二さんの共演だ。お二人とも親子で大物俳優という、血筋からして別格な俳優さん。

そのすごさたるや、この映画で改めて見せつけられた思いだ。

~あらすじ~

山中の村で仏像を彫ったり陶芸をしながら一人静かに暮らす老人が奥田英二さん。最近その彼が徘徊するようになったと聞いて、7年ぶりに実家に帰ってきた娘(千紗子)が杏さん。
父をホームに入れるため、1カ月のつもりでいやいや同居することにした。老人は認知症が進んでいて娘のことも分かっているのか分かっていないのか…という状態。
幼馴染の友達が市の福祉課に勤めていて、千紗子の相談に乗ってくれていた。
その幼馴染は離婚して、小学生の男の子を女手一つで育てている。
ある日飲みに出た二人は、帰りの車で一人の少年をひいてしまう。運転していたのは友達。
公務員をしているので、このことが見つかったら職を失ってしまう。救急車を呼ぼうとする千紗子を必死に止め、とりあえず千紗子の家に少年を運んできた。
翌朝、家族で川に遊びに来ていた際、橋からバンジージャンプをして飛び降りた少年が川に流されて行方不明になり、捜索活動が行われているというニュースがテレビで流れた。
そのタイミングで意識を取り戻した少年は、記憶を全て失っていた。足首には縄が縛り付いていて、生生しい傷が残っている。
千紗子は幼いころから懇意にしていた村の老医師に、少年を自分の子供だと偽り診察してもらった。
多分この子はバンジージャンプで飛び降りた子供である。医師は疑う様子もなく、この親子と親交を深めていく。
捜索活動が早々に中止になり、千紗子は少年の家に支援団体の職員を装い偵察に出かけた。
そのアパートには、夫にいいなりの妻と、新しい夫と、その間にできた幼い女の子がいた。典型的な虐待家族を感じさせる対応であった。家族に少年を返すわけにはいかない。千紗子は少年に自分で作った絵本の主人公「拓未」の名前を与え、自分がお母さんだと告げるのだった。
拓未は老人によくなついた。一緒に陶芸の土をこねたり、木を削ったり。時に老人が暴れても、千紗子と拓未は一緒になってその奇行を楽しむ余裕まで出てきていた。家族としての愛情が3人の間に確実に育っていった。

~ここから先はさらに深いネタバレになるので、映画を観に行きたくなった方はお楽しみに取っておいた方が良いと思います~

実は千紗子はかつて結婚をし、ひとりの男の子の母でもあった。友人家族と海に遊びに行った際、仕事の打ち合わせが入った千紗子は夫に子供を任せた。だが息子は海でおぼれ死んでしまった。
そのことをかつて校長をやっていた厳格な父に「親として無責任だ」と責められ、千紗子は悲しみ傷ついた。その後離婚をし、父との関係も断っていたのであった。
しかし父と暮らすうちに父の心情を理解するようになる。あなたと呼んでいた父のことをお父さんと呼べるまでになっていた。
村の老医師や幼馴染の親子との交流で、幸せな時はずっと続くかのようであった。
しかし千紗子が新鋭の絵本作家として雑誌に取り上げられたことで、歯車が狂う。
その雑誌を見た拓未の義父が千紗子の正体に気付き、ある日突然現れたのだ。千紗子を人さらい呼ばわりし、拓未を連れていこうとする。
千紗子が叩き飛ばされ、老人も襲い掛かろうとするが払い飛ばされる。その時義父の背中に突き立ったものは、拓未が老人からもらったナイフであった。拓未が突き刺したのだ。倒れる義父。事の重大さに気付いた千紗子はそのナイフを抜き取り、改めて正面から心臓にそのナイフを突き刺した。
「私があいつを殺したのよ」。
その後の裁判で千紗子は拓未を庇おうとするが、拓未は自分が殺した、と発言し始める。実母も証言台に立ち、虐待の事実があったかどうかを問われるが、自分は見ていただけでやっていない、という。意思を感じさせない無気力さ。
少年なら罪に問われない、と考えた弁護士は少年を証言台に立たせた。「僕がナイフで刺しました。僕の名前は犬養洋一です。僕は記憶を失ったことはありません。全部覚えています。そして僕のおかあさんはあの人だけです」と指さす先には千紗子がいた。 FIN

特にBGMも大げさな演出もなく、たんたんと生活が映し出される映画だった。
その中で目を惹いたのが奥田英二さんの怪演。ぼけ老人そのもので、本当に奥田英二さん?と何度もしっかり顔を確認してしまった。
杏さんの心に隠した感情をもつ演技も秀逸。息子を失った悲しみをずっと抱えて生きてきた。普段はその感情に蓋をしていたが、拓未の出現によって癒されていく。心からの笑顔が印象的であった。
人とのつながりは優しさが基本であってほしい。たまに間違えたり、うまく関われないこともあるけれども、思いやる気持ちがあれば、それだけで全部解決してしまうんじゃないか?と思わせてくれた映画であった。
家族とは血のつながりだけで語れるものではない。

追伸:記憶を頼りに書いたあらすじなので、細かいところは間違えているかもしれません。ご了承ください。