私は若いころから、一度は富士山に登ってみたい、と思って生きてきた。

もちろん子育て中は行く気は起らなかったが、登ってみたい、という意思表示はしてきた。それを聞いてか聞かずか、息子が先におととしチャレンジしてしまった。
なんだ、連れて行ってくれればいいのに…と思ったが、同行者がいれば母親を連れていく人は皆無だろう。
この人は本当に富士山に登ってみたいようだ、と理解した夫が、去年あたりから近所の登山で私の実力を試すようになった。
富士登山を甘く見ている私を警戒したのだった。
たしかに私は富士登山を甘く見ていたのかもしれない。だってテレビでは半袖にサンダル、みたいな外国人が富士登山にチャレンジしている様子を流している。
多分そんな人は途中で早々にリタイアしているに違いない。
私は近所の登山で地獄を味わいながらも、これも富士山に続く道…と思って根をあげずに頑張った。夫はなんとか行けそうだと思ったようだ。行けると決まったら1年でも早くトライした方がいい。年々身体は衰える一方だ。
ゴールデンウィーク中に今年初のお試し登山をした後、山小屋を検索し始めた。なんと5月初めに予約を開始したところが多いようで、私たちは数日の後れをとってしまっていた。人気は8合目の山小屋。少しでも高い所にたどり着いておきたいのは皆の心理だろう。調べたところは全部埋まっていたので、仕方なく7合目の山小屋を探す。よさげなところは私たちの希望日は埋まっていた。
一つ、今時珍しく電話予約の場所があった。もうじき夜9時になるタイミング。電話をかけるには遅いと思ったが、ここを逃すといい山小屋は無さそうだ。
恐る恐る電話をかけてみる。
おばあさんが出て、遅い時間を詫びるととても感じよく対応してくれた。
ありがたいことに希望日が空いていたので、その場で予約することが出来た。電話で登山に必要なものとか、その他いろいろ心配してくれる。ありがとう、おばあさん。これでなんとか富士山に行くことが出来そうです。
今年から富士山に入山するのに通行料がかかることになったので、ウェブでそれも支払った。
あとは…あとは…5月25日に予約開始する8合目の山小屋にトライするだけだ。
一つの山小屋だけ予約開始が遅いことを私たちは知っていたのだ。
もし8合目の山小屋を予約出来たら、本当に申し訳ないがおばあさんの山小屋はキャンセルするつもりであった。
                       ・・・つづく