初めに言っておくけれど、母はまだ生きている。
ただ昔母が「私の遺品だと思って。」と言って私にくれたものがある。真珠のネックレスだ。
母が若いころに父親が買ってくれた思い出の品らしい。その父親(私のおじいちゃん)は母が36歳くらいの時に亡くなっている。私が小学校に上がる直前だった。だからなんとなく面影は覚えている。
あのおじいちゃんにもらったものなのか、と少し感慨深くなる。

ちなみに母の母親は結核で母が9歳の時に早世してしまった。亡くなる前から病院に入っていたので、母はあまり母親の思い出がないそうだ。戦前戦後の慌ただしい世の中で、父親は働きに出てたまにしか帰らなかったらしい。
兄と二人で畑から大根やら芋を盗んで追っかけられた、とかいう話も聞いていた。
親戚のおばさんにもいじめられたそうだ。まさに火垂るの墓の実写版。そんな生活を経て成人になって、父親からもらったプレゼント。
とても嬉しかったのだと思う。

「粒が小さいけれど、本物だから大事にしなさいよ。」と言われた。

たしかに小粒で、留め金に向かってさらに小粒になっていく可愛らしいネックレスだった。母の首周りにはもう合わなくなっていた。
真珠のネックレスなんてとってもオシャレ~、と思って、確か友達の結婚式にも付けて行った記憶がある。
よくある偽物の真珠のネックレスのようにテカテカしてなくて、落ち着きのある色合いで気に入っていた。本物ってこういう質感なんだなぁ…と思った。
ある日アクセサリーの箱を整理している時に、そのネックレスの糸が切れてしまった。

私は(まぁ大変)と思って真珠が無くならないようにすぐに小さなジップロックに入れて、市内のとある宝石店に修理に持って行った。
「母の思い出の品なんです…本物だと聞いているんですけれど。」と言ってみる。
すると真珠を見ていた店員さんが
「申し上げにくいですけど、たぶんこれプラスチックですよ。形がいびつで、重量もないでしょう?でも一応調べてみますね。…やっぱりプラスチックでした。それでも直します?買った方が早いかもしれない。」とまで言われた気がする。
がーん。たしかに改めて見るとなんだか急に安っぽく見えた。
母があんなに本物だと言っていたのに…いつも私は母に騙されるのだ。
気に入っていたものではあったので、私はそのまま修理してもらった。
そして母には一部始終を話し、「すごい恥をかいたんですけど。」と恨み節をのべる。
「そうなの?知らなかったわ~、」と母。
「おじいちゃんが本物だって言ったの?」と私。
「言われてないけど、ふつうそう思うじゃない。」母
「言われてなかったんかーい。」私。
騙し騙され振り振られ。我が家はいつもこんな感じだった。
今ではこのネックレスをつけることもないけれど、母の形見として大事にしようとは思っている。