岡田斗司夫さんのYoutubeの中で、たまに彼がジョーカーの人形をテーブルの上に置き、ジョーカーと同じ洋服を着ているのが気になっていた。
どうも発注して作った服のようだ。
最近では、京王線で無差別殺人を起こしたジョーカーの格好をした犯人の裁判も話題になっている。
観てみることにした。
「JOKER」はバッドマンの敵役、ジョーカーが生まれた経緯がわかる、いわばバッドマンのエピソード0的な映画であった。

主人公アーサーは荒れた都会ゴッサムで母(ペニー)と二人で暮らしている。
ゴミ収集の会社でデモが起こり、街はゴミだらけ。悪臭が漂い、人々はストレスを抱えていた。
彼は母の「笑いで人を幸せにして」の言葉通りに、日ごろはピエロの派遣バイトで日銭を稼ぎ、コメディアンになることを夢見ているのであった。
彼には脳機能障害があり、緊張すると場所を選ばず笑いだしてしまうことがあった。
”笑うのは病気です”と書いたカードを持ち歩き、自分の病気を理解してもらうようにしていたが、気味悪がられる生活だ。
精神病院に強制入院させられた時期もあるようで、定期的にカウンセリングを受け、向精神薬も処方してもらっている。
そんな彼は、心身症を患う母をかいがいしく世話をし、時にはバスで子供をあやす心優しい人間だ。
しかし荒廃した社会に彼は翻弄されていく。
ストリートギャングに襲われたり、同僚から渡された銃のおかげで仕事も失うはめにあう。
解雇を言い渡された帰り道、ピエロ姿のままのアーサーは地下鉄でウェイン社のいわゆるエリート3人組にからまれ、手に持っていた銃で殺してしまう。
その時になぜか高揚感を覚えるアーサー。
その足で、同じアパートに住む、自分を怖がらずちょっとした会話をしてくれたシングルマザー(ソフィー)の部屋を訪ね、関係を持つ。
彼女を好きになっていたのだ。
数日後カウンセリングに行くと、市の予算削減で今日のカウンセリングが最後だと告げられた。低所得者は切り捨てられていく世の中になっていた。
帰りにコメディアンバーに立ち寄り、初めて舞台に立つアーサー。
笑いの発作が出てしまったが、恋人のソフィーも見に来てくれていて拍手ももらい、満足してソフィーとデートをしながら帰るのだった。
街では、地下鉄殺人を起こしたピエロを最下層のヒーローに祭り上げる雰囲気も出てきていた。
母はかつてウェイン社の社長(トーマスウェイン)の家で使用人として働いていたのだが、ここのところトーマスに頻繁に手紙を出していた。
アーサーが中身を読むと「あなたの息子が困っています」と書かれていた。
自分はトーマスの子供なのか?トーマスの家に事実の確認に行ったアーサーは、門を挟んで初めてトーマスのまだ幼い一人息子ブルースに会う。(のちのバッドマン)
手品を見せて気をひこうとするアーサー。
執事のアルフレッドが駆け寄ってきた。アーサーは「自分はペニーとトーマスの間にできた子供だ」と訴えたが、二人の間には何もなかった、全ては彼女の妄想だと追い返される。
家に帰ると、母が倒れて救急車で搬送されるところだった。
アーサーはあわてて付き添った。
病院につくと、そこで刑事が二人、アーサーがピエロの仕事をしていたことと銃を保持していたことについて聞いてきたが、彼は病室に逃げるように立ち去った。
家に帰り見ていたテレビで、アーサーはトーマスが慈善イベントに出席することを知る。直接自分のことを問い詰めるため彼は会場に向かった。
トーマスは「お前はペニーが養子にした子供だ」、と怒り、アーサーに殴りかかるのだった。
帰りにアーサーはペニーがかつて入院していた病院に行き、そこで過去のペニーにまつわる書類を見せてほしいと頼み、書類を奪い取る。
そこには、自分は養子で、ペニーの恋人から虐待を受けたせいで脳機能障害を起こした個人情報が記載されていた。
失望するアーサー。
ソフィーの部屋に行くが、彼女は他人行儀で驚いている。
ソフィーを恋人と思ったのは、自分の妄想だったことにアーサーは気付いた。
ここからアーサーはどんどん壊れていく。
そのまま病院に行き、母を枕で窒息死演のため母の鏡台で化粧を始めるが、その時に母の昔の写真を見つけた。裏には”素敵な笑顔だ TW”と書かれていた。
やはりアーサーはトーマスの子供なのか…?伏線がしかれるが、回収はされない。
かつて自分に銃を渡した同僚と、小人症の同僚がアーサーを心配して訪ねてきたが、小人症の同僚だけ自分に親切にしてくれたといって助け、もう一人をナイフで殺害。
そしてテレビ局へ。
途中刑事二人に追われるが、飛び乗った地下鉄にはピエロの格好をした人々がデモに向かう途中で、いいカモフラージュとなり、まくことに成功。
刑事二人はその場で殺気立った市民に集団リンチを受ける。
テレビ局の控室を訪ねてきた司会者に、アーサーは「あなたが名付けてくれたジョーカーと紹介してほしい」と頼んだ。
番組収録中に、話の流れで自分が地下鉄殺人のピエロだ、と打ち明け、社会への不満、トーマスへの怒りをぶちまけて、司会者を銃殺する。
逮捕されたアーサーは護送中に、ピエロの格好をして暴徒化した市民を見て満足する。みんなが自分の信者のようだった。
この時に劇場から出てきたトーマスと妻は、気が立った市民の一人に金を要求され銃殺される。
子供のブルースだけがその場に立ちすくんでいた。
精神病院に収監されカウンセリングを受けていたアーサーだが、次のシーンでは足の裏を血に染めて小踊りながら去っていった。
たぶんカウンセラーを殺して、脱走したのだと思う。
ここで映画は終わる。

感想は、思った以上に悲しい話だな、と思った。
自分の日常を受け入れ、つつましく誠実に暮らしていただけなのに、周りの環境が彼を壊していったのだ。
貧困、脳機能障害を抱えた社会の弱者はどう生きていくのが幸せなのか。
夢をばかにされ、人と愛を分かち合うことすら難しい。
ピエロの心で、言われるがまま、要求されるがまま、ヘラヘラ笑っていくことしかできないのか…
怒りが原動力になると、最後は不幸になる。
怒りを爆発させることしかできない状況に人を追い詰めない、そんな世の中を人間は作っていけるのだろうか…
人間の持つネガティブさを見せつけられて、少々気がめいってしまったが、観る価値はある映画だった。
主演のホアキン・フェニックスはこの映画でアカデミー主演男優賞をとっている。
興味を持った人は、ぜひ映画をご覧ください。