実はうちのネコが大変なことになっている。 一年前に足を怪我してから(多分どこかから落ちた?)、関節がまがってしまい、ずいぶんガニ股になった。 年齢からくる変形かもしれない。ヨタヨタ歩くようになってしまった。 今年の11月で20才になるメス猫だ。 数か月前から、耳も悪くなった、と思っていた。 鳴き声が大きくなった。呼んでも反応しない。 「このネコ、聞こえてないんじゃない?」とたびたび話になった。 そんな中、長女が里帰り出産。 赤ちゃんが来たらどんな反応をするのか、半分楽しみであったのだが、いざ赤ちゃんが来てもネコは素知らぬ顔。 とくにちょっかいを出すでもなく、いつものようにいつもの場所で静かに横たわる日々だった。 いつもの場所とは、リビングにあるセレナから取り外して置いた椅子である。 そこから、リビングに敷いた布団の上に横たわる新生児を、見るともなく眺めていた。 私たちは赤ちゃんに夢中で、ネコにかまう回数も減った。 たまにネコが”抱っこして~“と、違う場所に置いたセレナの椅子に座る私を下から見上げてきたが、猫の毛がつくと赤ちゃんに良くないと思い、なでるに留めておいた。 ”抱っこして~“と寄ってくるようになったのは、ごく最近のことでもあった。 あんなに抱っこが嫌いなネコだったのに。今思えば老いていく自分が心細かったのかもしれない… 赤ちゃんが去ってからの衰えは急激だった。 椅子に上るときに、数回に一回は失敗して落ちるようになった。 私は足が衰えたんだな、と思っていたが、それだけではなかったようである。 一週間前、その日は突然訪れた。 夜中じゅう鳴いているので、どうしたことか、と思ったら、自分がどこにいるのか、どちらに向かっているのか完全にわからなくなっていたのだ。 失明していた。 耳も聞えない、目も見えない・・・こんなことが起こるなんて想像もしていなかった。 見た目はまだきれいで若く、眼もちゃんと見開いている。ただ瞳孔は大きく開いていて、私と焦点を合わせることは金輪際なかった。 ほんの一か月前、”抱っこして~“と私を切なげに見上げていたあの目をもう見ることはできないのか・・・悲しかった。 おとといは急にネコの目が回って、転びまくって歩くこともできなくなってしまった。 寿命だから静かに見守ろう、と思っていたが、さすがにこれはひどすぎる、と病院に連れて行った。 脳疾患が起こっていて、ステロイドを飲むと落ち着くということで、注射を打ってもらい、粉薬ももらってきた。 すると、すごいことに、なんとか歩くことが出来るようになった。 しかし聴力や視力が戻ることはない、ということだった。 今は完全介護。トイレに連れて行き、食事をスプーンで与え、夜も添い寝している。 生きていてくれるだけでいい・・・そう思わせるネコは偉大だ。 こんな状態にあってもなお、抱き上げればゴロゴロいい、わがままをいうでもなく、宿命を静かに受け入れているのだ。 私も最期はこのようにどんな状況も静かに受け入れ、いつも機嫌よく、人生をまっとうしたいとネコから学んでいる日々である。 動物は本当にえらい。
ネコが失明してから11日が過ぎた。 失明以来、私はネコの布団の隣に自分の布団を敷いて寝ている。 夜にネコが鳴けば、トイレに連れて行き、水を飲ませ、少しでもご飯を食べさせようとしていた。 まるで新生児と同じ扱い。 最近では、ごはんを食べるのも拒否するようになり、ただただ横たわっているようになっていた。 父が亡くなる前、訪問診察の先生に言われたことがある。 「本人が食べたいなら食べさせてもいいけれど、無理には食べさせないで下さい。体が静かに旅立てる準備をしているので…。」 その言葉が頭をよぎり、私はネコもその準備に入ったんだな…と覚悟を決めた。 それゆえ、もう無理に食べさせるのはやめて、様子を見るだけにした。 トイレと水だけ連れて行き、布団に戻し、それでも昨夜は布団から抜け出して歩こうとするので、15歳以上のネコ対象の完全栄養食の缶を開けてスプーンで与えると、思いのほかガツガツ食べた。 (あれ?おなかすいてたの?)と少し申し訳なく思う。 そして明け方。ふと目を開けると、ネコがこちらを見ていた。 一瞬、目が合った、と思った。 でもすぐに、(いやいやそんなことあるはずない。神様が最後に私にプレゼントをくれたんだ)と思いなおして、また寝た。 ネコが鳴くので再び起きた。 彼女は明らかにロフトを見上げて鳴いていた。 私たち夫婦は普段ロフトに寝ているので、毎朝ロフトに向かって鳴くのが彼女の習慣であったらしい。 昔はロフトにかかる梯子を一気に駆け上がってやってきたものだが、ここ1,2年はよじ登ってくることもできなくなっていた。 ネコをなでると、こっちを見た。 また目が合った。 ここでアルプスの少女ハイジのクララとのやり取りが脳裏に浮かぶ… ク)ハイジ!あたし・・あたし・・立てたわ ハ)クララが、クララが立ってる。うわ~~ん ク)ハイジ ハ)クララ~、クララ~! ネ、ネコがネコが見えてる・・・うわ~ん  とは思ったが、ネコは答えてはくれなかった。当たり前。 二回目に病院に連れて行ったときに、獣医の先生が 「これ脳に効く油なんだけど、ちょっとあげてみて。目は見えるようにはならないけど、脳疾患には効くと思うから…。」 とくれた小さなカプセルに入ったオレンジの油が効いたのだろうか…。 いつまでこの状態が続くのかはわからないが、とにかく再び視力を取り戻したネコである。 本当にビックリした今朝の出来事であった。