父は鳥が好きだった。 好きといってもバードウォッチングに行くというのではなく、ベランダにエサと水を置いておいて、寄ってきたハトや雀を部屋から眺めるのが好きだった。 今思えば、とても迷惑な話。 なぜなら団地に住んでいたのだから。 その時の私はまだ学生で世間知らずだったが、しばらく経って、ハトの洗濯物へのフン被害が東京中で問題になったらしく、あちこちの団地のベランダに緑の防御ネットがかけられているのを見るようになった。 もちろん私も全力で父をとめることにした。 さすがにベランダでのエサやりが出来なくなった父は、たまに近くの公園にパンの耳を持って出かけていくようになった。 ハトにばらまくために。 たまに迷惑おじさんがハトを餌付けして問題になっていたが、うちの父もその部類にはいる人種だったと思う。 そんな父だったが、私が里帰り出産で久々に実家に長居していた時にある事件が発生していたことに気付く。 カラスとのバトルである。 「あのヤロウ、俺の顔見ると、頭をつつきに来やがるんだよ」と憤慨している。 聞けば、ごみ置き場でカラスが荒らしているのを見た父は、石を投げて追いやったというのだ。 その時から、父が外に出るとどこからともなくカラスが追跡してきて、隙あらば襲ってくるようになったらしい。父のことを覚えてしまったのだ。 私も一度カラスが父に急襲してくる光景を目にして、本当だったんだ、とビックリした。 あんなに鳥が好きだった父が、カラスとバトルしている…。 なんか、気の毒…と哀れに思ったのを覚えている。 しかし、それからしばらく経って様子を聞いたら、 「カラスも利口だから、俺がそんなに悪い奴じゃない、って気づいたんじゃないの?今じゃ俺が出ていくとついて歩いてるわ」 と手なずけた優越感からか、嬉しそうにこたえる父を見てホッとしたものである。