まだ子供が小学生のころ、この地域にも千円カットのお店ができた。
なんともおかげである。
よく子供を連れてカットに出かけた。
なんなら私も切ってもらった。
本当に大盛況で、休日ともなれば、1~2時間待ちは当たり前だった。
ここで働く美容師さんの腕前はピンキリ。
だから私はなるべく空いていそうな時間帯(混んでいるときは中にも入れないので)に子供を連れていき、雑誌を読んでいるふりをして、美容師さんの技術を盗み見ていた。
チェーン店なので、美容師さんの顔ぶれもけっこう違うことがあったのだ。
その日は一番下の娘を連れてカットに行った。
上の娘は友達とどこの美容室に行っているか、という話題になった時に、千円カットに行ってる、というのを恥ずかしがる年頃になっていた。
その日は初顔の若い男性美容師さんがいた。
妙に喋りまくっているが、ハサミを持つ手がおぼつかない。
(え~~、そんな切り方する~?)と雑誌の隙間からのぞき見ている私が驚くほど、大胆なハサミ使いをしている。
髪の毛をただ横にバッサリ切るのである。
(ハサミはもっと縦に使いなさいよ。私の方がうまいわ)と心で突っ込みをいれたが、問題は彼にあたるかどうかである。
千円カットはまさにロシアンルーレット。
誰にあたるかは、美容師さんが切り終わった順番で決まる。
私は急に落ち着かなくなった。
彼にだけはあたりたくない。
4、5人の美容師さんがいるのだが、どうも私たちの順番と、彼の進行具合が合っている。
(女性の美容師さん、もう少し早く頑張れ!)と心で応援していたが、予想通り、結局彼が私たちの名字を呼んだ。
その時、私は娘を先に送り出すこともできた。
だが、あまりにもかわいそうなので、私が自ら名乗り出ていった。
「いや~お客さん、なんたらかんたらですね~。」とやたらとトークを盛り上げようとするが、私は(ハイハイ)と聞き流す。
喋りはいいから、ハサミに集中してくれ、と思う。
そして結果は言わずもがな、である。
なんだか変なヘアスタイルになったが、これも千円カットの宿命。
せめて娘が上手な人にあたったことに満足して、妙に疲れてその日は岐路についたのだった。