「エロス もう一つの過去」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

元ジャズマンで、テナーサックス奏者で
クラシック・カーの手作り模型の
製作者でもある作家 広瀬正。


直木賞候補にあがりながらも受賞できず、
1972年に47歳の若さで赤坂の路上にて
心臓発作で急逝した不遇の作家。

タイムトラベルものにこだわった作家。


私はけっこう読むのは早い方なのだけど、
この本は読むのにとっても時間がかかった。
それは、難解だからではなく、あまりに丁寧に
描写されているため、じっくりと読みたかった。
そんな一冊。


「エロス もう一つの過去」

広瀬正:著

河出書房新社/1971.11.15/

エロス

昭和8年、ふとしたきっかけがもとで、
歌手としてのデビューを果たした大女流歌手。
もし、あのとき、別のことをしていたら、
彼女は歌手にはならなくて……。
「過去」とは全く違う展開の、ありえたはずの
「もう一つの過去」の姿が浮かび上がる。
             <解説より抜粋>



これはタイムトラベルものではなく、
パラレルワールドもの。
「if もしも」もの。


大物歌手である「現在」の主人公と「過去」と
歌手にならなかった主人公の「もう一つの過去」とが
交錯して描かれていく。


そして、ラストにはそれが折り重なっていき、
少しせつなくなる。


タイトルの「エロス」は、誤解されそうなのだが、
愛の女神の意味で、この物語の中に出てくる
歌のタイトルである。


昭和初期の実際の事件や風俗などの時代背景が
丁寧に描写されていて、ある意味「昭和史」として
も読める。
そして、ジャズマンらしく、「音楽」についての
描写も詳細で多い。



人は本当にふとしたきっかけで、その後の人生が
大きく変わってしまうことがある。

ほんの小さなタイミングで、出逢うべき人と
出逢ったり、ただすれ違ってしまったり。
それはチャンスだったり、不幸の始まりだったりもする。


人は一つの人生しか生きられれないけれど、
誰しも「あの時、ああしていたら・・・」と
思うことはあると思う。
そして、その、もう一つの別の道を歩いている自分が
どこかにいるのではと空想してしまう。


エロス 文庫
「エロス」文庫版

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