地域密着型の介護職員借り上げ社宅制度は令和5年度より、練馬区、足立区、世田谷区、渋谷区、江東区、江戸川区など多くの自治体が実施しています。介護職員借り上げ社宅制度は東京都の助成制度によって、事業者が区内近隣に社宅を借り上げ、災害時にすぐに職員が駆けつけ、介護事業所や障害施設は第1次福祉避難所として活用できます。また、介護職員の処遇改善と職場定着の目的もあります。保育士にはすでに借り上げ社宅制度があります。

 

能登半島地震のテレビ映像を見ると、7か所の福地避難所のうち2か所しか稼働しておらず、ある特別養護老人ホームでは、ガス、水道、電気もストップしているため、2階以上の居室が使えず、要介護者全員が1階の食堂や機能訓練室で避難しており、マットレス2枚を並べ、3人ずつ寝ていました。職員は、道路が寸断されて、駆けつけられない方が多く、少数の職員で24時間、寝る間もなく介護業務をしていました、大災害時には、どれだけ多くの職員がすぐに駆け付けられるか重要です。災害関連死を防ぐには、災害初日から1~2日を乗り越えられる人材の確保が重要になるのではないでしょうか。

 

令和5年決算特別委員会に置いて、私は北区でも地域密着型事業所を対象として介護職員宿舎借り上げ支援制度をしてはいかがと質問しました。区の回答は「北区独自の介護職員宿舎借り上げ支援事業を実施した場合、災害時にどのような役割が期待できるのか、防災協定の内容を含め、他区の実績や課題を踏みながら、十分、研究が必要だと考えております」とのことでした。

 

過去の災害時の高齢者の死者の割合に関してみると、平成23年の東日本大震災において、被災地全体の死者数のうち65歳以上の高齢者の死者数は約6割であり、障がい者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍と推計されております。その他、令和元年台風第19号で60%以上、令和2年7月豪雨 でも死者の約70%以上が高齢者とされており災害時の被害者が高齢者に偏っている状況です。高齢者や障がい者等の支援が必要な方々がどこでどうのように住んでいるかが分かっていれば、避難をさせられる確率を向上させることが可能です。この観点からも、避難行動要支援者ごとの個別計画と、介護職員借り上げ社宅制度は、福祉事業所等が避難所となり、介護職員が緊急対応できることで、高齢者や障がい者の災害関連死を防ぐ対策として効果的あると考えます。

介護職員の給与水準は、介護事業者がサービスを提供した対価として支払われる介護報酬の中から光熱費などの必要経費を差し引き、残りを介護職員などの給与として支払います。このため、介護報酬が増えないかぎり、職員の給与を増やすことは、難しくなっています。令和4年の厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、すべての産業の平均と介護職員の賞与込み給与を比較したところ、以下のようになっています。すべての産業の平均は、月36万1000円ですが介護職員は月29万3000円であり、全産業の平均よりも6万8000円低くなっています。介護職員借り上げ社宅制度が北区で整備されると、東京都の予算で4年間の家賃補助があり、介護職員の給与の補填になります。

1月22日の審議会で来年度の介護報酬改定の全容が発表されました。ほとんどのサービスの基本報酬は1%弱か4%程度のプラスとされたにもかかわらず、訪問介護だけが2%程度のマイナスとされ、多くの関係者から疑問と怒りの声があがっています。訪問介護は介護サービスのなかで最も人材確保が難しく、最近の有効求人倍率は15倍前後で推移しています。昨年の訪問介護の倒産件数は、67件で過去最多でした。事業所の閉鎖や廃業はこの何倍もあるでしょう。私は、この基本報酬が、これから公表される北区の訪問型サービスの基本報酬にも影響を及ぼすのでないかと危惧しています。介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の報酬は自治体によって違います。北区の総合事業の報酬額は、平成30年以降、包括月額でなく、練馬区や板橋区に比べて10%以上低く設定されています。このため要支援者が多い介護事業者の経営を圧迫しております。もし、介護報酬の改定に準じて、総合事業の訪問サービスの報酬が引き下げられたら、北区の訪問介護事業者の多くは倒産するか、ヘルパーは訪問介護の現場から離れていくでしょう。